第154話




 眠いな。

 軽くあくびをしながら、俺は眠気を飛ばすように頬を叩き、スーツへと袖を通す。

 昨日は迷宮暴走の対応のため、常に分身たちからの情報を仕入れていたため、仮眠くらいしかとっていなかったからだ。

 一応、分身で対応できない場合は俺が対応する必要があったしな。


 まあ、実際は分身たちで十分処理できたんだけど。

 分身たちが暴走した迷宮の攻略にかけた時間は三時間ほどだった。

 そのころにはすっかり夜明けを迎えていて、今に至るというわけだ。


 とりあえず、これで現地の危機は去った。

 俺の到着までに傷ついた部分はあるが、それらの処理は俺ではなくギルド協会の仕事だ。

 ……とりあえず、俺は今日の仕事に集中しないとな。


 今日俺は、カトレアのもとに来ている仕事を処理していく必要がある。

 まずは、インタビュー記事だな。

 俺が出発の準備を整えていると、分身から連絡があり、カトレアが俺の部屋へとやってきた。


「おはようございます。ケースケ様、今日はよろしくお願いしますね」

「ああ。任せてくれ。とりあえず、待ち合わせ場所に向かおうか」

「はい」


 といって、カトレアは俺の腕に腕を回してくる。


「カトレア、離れてくれないか?」

「あら、何かおかしかったでしょうか?」

「仕事に行くのに、地球人は腕を組んではいかないんだ」

「デート、でもあるでしょう?」

「ありません」


 カトレアを引きはがしてから、俺たちは変装して街へと出た。

 ……最近は特に注目を集めることが多いからな。

 特にカトレアのエルフ耳なんて一発で注目を集める。


 途中何度か視線を向けられることはあったが、それでも俺たちは気配を殺して街中を移動したので、誰かに声をかけられることなく、現場入りすることができた。

 待ち合わせ場所は記者が務める会社だ。そこの会議室にて、インタビューが開始される。

 一応、俺も内容に問題がないかを確認するため、同じ部屋に分身を残し、俺は次の現場へと一人向かう。


 こうすることで、次の移動からはインベントリを使って移動できるというわけだ。

 街中を分身に移動してもらうことも考えてはいたが、何も知らない人たちからすれば何事かと思うことだろう。

 俺たちは確かに注目を集めているとはいえ、それはあくまでネットを見る人や冒険者について詳しい人たちの間だけだからな。


 面倒ではあるが、俺も挨拶をしないといけないので、ちょうどいい。

 そうして、今日向かう予定の現場へ行き、挨拶とともに分身を残していくと、


「あれ? も、もしかしてマネージャーさんですか!?」


 突然そう呼ばれて振り返ると、綺麗な女性がいた。

 何度か見たことのある人だ。

 確か、モデルさんだ。

 ……まずい、名前が出てこない。


 ここ最近はあまりテレビの情報は仕入れていなかったんだよな……。

 とりあえず、ここは知っているようなふりをして話を続けるしかない。


「え? ま、マネージャーさんですか!?」

「えーと……そうですけど……もしかして、MeiQubeとかで自分のことを知った感じですかね?」


 苦笑とともにそう返すと、相手の女性は笑顔とともに頷いた。

 それと同時に、俺はさっと彼女のステータスを盗み見る。

 高知明智さんだそうだ。

 ……その名前はわりとよく聞くな。モデルだけではなく、女優の仕事もしているわりと売れっ子の人じゃないか。

 今日はここに雑誌の撮影とかできたのだろうか?

 高知さんは興奮した様子で声をあげる。


「ふぁ、ファンなんです! もうずっと生配信見てます!」

「……そ、そうですか。えーと、澪奈さんのファンとか……ですか?」

「いえ、私はマネージャー派です! マネージャーの動画、いつも移動中とかに見てます! 毛穴が見えるくらいしっかりと!」


 ちょっと怖いんだけど……。

 俺が関わる女性ってだいたい頭のねじが跳んでいる人たちばかりだ。

 脳裏に浮かんだ澪奈やカトレアのせいで、涙が出てきそうだ。


―――――――――――

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