第117話
……MeiQuberだろうか? 何やら話しながら結界の奥にあるあちこち傷だらけとなった新宿駅周辺を映している。
これだけ人が集まってしまっているのは結界があるからだろうな。
結界はドーム状に作られていて、新宿駅周辺が覆いつくされている。
その辺りまで魔物が出てしまっているようで、結界を傷つけるように暴れている。
結界近くには仮設のテントがいくつもあった。
和心クランの人たちが、交代で見張りをしているようだ。
和心クランの人たちを観察していると、穴倉さんと獅子原さんたちの姿を見つけた。
とりあえず、気配を消してそこまで行こうか。
俺はすっと間を縫うように移動していき、マスコミたちを押さえている警察官の前に行く。
それから、穴倉さんに電話をかける。ちょうど結界の先を眺めていた穴倉さんがスマホを耳に当てた。
「お疲れ様です穴倉さん。今ちょうど穴倉さんの背後にいる警察官の近くにまで来てますので、通してもらってもいいですか?」
『え!? あっ! 分かりました!』
穴倉さんがこちらへ振り返ったときに、少しだけ見えるように気配を戻すと、こちらに気づいて走ってくる。
周囲のマスコミたちは穴倉さんほど感知能力はないため、こちらに気づいている様子はない。
穴倉さんがなぜかこっちに向かってきた! と思ったからか、マスコミたちの声が響き渡る。
「穴倉さん! 今、澪奈さんのマネージャーさんに応援要請を出していると聞きましたが、どうなっているのでしょうか!?」
「今後の掃討作戦はどのように行う予定でしょうか!?」
マスコミたちが少しでも穴倉さんの声を拾おうとして、前に体を出す。
それを警察官が押さえつけていて、穴倉さんもそちらに一瞥も返さずに俺の前にやってくる。
「お待たせしました、マネージャーさん」
「……いえ、大丈夫です」
俺は顔を隠すように帽子を深く被りながら穴倉さんとともに中へと入る。
そこで、ようやくマスコミたちが気づいたようだ。
「あっ!? ま、マネージャーさんでしょうか!? 今回の掃討作戦にあたっての何か想いや決意のようなものがあれば!」
「どうか! 一言でも構いませんので反応していただけると助かります!」
「あなたは今回の掃討作戦のキーマンです! 何か一言でも!」
「澪奈のマネージャーです。頑張ります」
……別にマスコミを嫌うような気持ちはないのだが、ここまで過剰に反応されるとさすがに俺も放っておいてくれという気分になってきてしまう。
それでも、澪奈のためにもしっかりとアピールをしておく必要はあったので、最低限には声をかけておいた。
にこりと軽く微笑とともに近くのマスコミにそう答えると、それで多少は納得してくれたようでそれ以上強引なインタビューはなかった。
俺は穴倉さんとともに結界の前に向かう。重装備に身を固める獅子原さんが気さくに手を挙げて近づいてくる。
それから、俺たち三人で話を始める。
「茅野さん、どこまで状況は把握していますか?」
「これから、掃討作戦を行い迷宮攻略を開始する、ということくらいですかね?」
「それなら、大丈夫ですね。今回の作戦ですが、これから厳選したメンバーのみで結界内へと入り、獅子原の挑発系スキルで魔物を集めます。獅子原に支援魔法をかけまくり、獅子原にすべての魔物を対応してもらいながら、速やかに残りの魔物たちを排除していく、という作戦になっています。そのメンバーの一人として、茅野さんには自由に動いてもらって魔物を倒してもらえばと思っています」
「……なるほど、メンバーはすでに集まっているんですか?」
「こちらにいる者たちと私です」
穴倉さんが示した合計二十人。
年齢は幅広く、こちらに気づいた彼らはどこか尊敬のまなざしとともに見てくる。
「……マネージャーの私服じゃないか」
「スーツとジャージ以外初めてみたわ……!」
……何やら、女性たちの視線が鋭いのは気のせいだろうか?
穴倉さんが苦笑とともにこちらに耳打ちをする。
「……申し訳ありません。一部、うちのメンバーにもマネージャーのファンがいまして」
「……そうですか。それは構わないのですが……メンバーはここにいる二十人ですべてですね?」
「ええ。すぐに対応できるAランク冒険者たちをかき集めました。まだ地方のほうにはいますが、そちらの対応もありますのでさすがに徴集することはできませんでしたが」
「分かりました」
ステータスは……あまり高くないんだよな。
ざっと見た限り平均で100ほど、自分の得意分野のステータスが130程度だ。
決して弱くはないのだが……俺は結界を割ろうと近づいていた魔物へと視線を向ける。
ゴブリンジェネラルB レベル52 筋力:214 体力:163 速度:196 魔法力:81 器用:152 精神:170 運:90
ステータスポイント:0
スキル:なし
装備:【ゴブリンブレイド】
恐らく、支援スキルを合わせて、ほぼ互角なんだよな。
二十人のうち、支援スキルを持っている人が五名いる。彼らに関していえば、とても戦闘に参加できるステータスではない。
恐らくその護衛のような形で三人一組くらいでの行動を基本とするのではないだろうか?
「すみません。魔物たちの排除の前に確認したいスキルがあるので少し待っていただいてもいいですか?」
「確認したいスキル、ですか?」
「はい。昨日、Aランク迷宮を攻略したときに入手したアクセサリーに、ボスモンスターが使用していたスキルがついていたようなので、それを試してみようかと」
「ボスモンスター……確か――」
穴倉さんが顎に手を当てるようにしたところで、メンバーの一人が声を上げる。
「キングリザードマンですよね!? 昨日の戦い見ていました!」
「もう、とってもかっこよかったです! あっ、もちろん見ていたのは移動中とか休憩中とかですよ!?」
「使用していたスキルというと【剣術】でしょうか? それとも、あの分身を生み出すスキルとかでしょうか!?」
「分身を生み出すスキルですね」
答えながら、キングリザードマンのネックレスに付与されていたスキル、【軍勢】を使用する。
俺の近くに一体の影が出現する。それは俺の形をしていて、それを見ていたメンバーが声をあげる。
「ま、マネージャー様の分身!?」
「お、お持ち帰りしたい……っ!」
……やめろ。
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