第49話
マジでやるのか? スマホを渡す前に、コメント欄を見てみると、
〈おっ、やっとか!〉
〈楽しみ! マネージャーさんがんば!〉
〈マネージャーの戦いも見たいから、どんどんやってくれ!〉
〈マネージャーさん、がんばっ〉
〈澪奈ちゃんの安全がどの程度確保されてるのか見たいし〉
わりと荒れてるような気がするが、いいのかこれ?
澪奈を見ると、彼女は特に気にした様子はなく、カメラを自撮りのようにして話し出す。
「万が一の場面にマネージャーがどの程度動けるか、とか私はもちろんマネージャーを心配する声も多いからね。ある程度、動けるってところ見ておいてほしい。皆には安心したまま見てほしいから」
澪奈がそういって俺のほうにカメラを向ける。
俺としてもあまり戦っている姿を見せたいわけではないが、澪奈が先ほど話していたような理由から戦えるというのは見せたいからな。
俺はワーウルフを探していくのだが、【格闘術】のおかげか少し感覚が鋭くなっていてなんとなく居場所が分かる。
気配を感知する、という感覚なのだろうか?
ワーウルフがあっちのほうにいるんだろうなぁ、くらいにはわかるようになっていた。
そんなこんなでワーウルフの気配を感じたほうへと向かうと、ワーウルフはすぐに見つけることができた。
ちらと背後を見ると澪奈が丸印を作っている。カメラには映っていないが、とても楽しそうな笑顔でコメント返しをしている。
俺も自分のスマホでコメント欄を見てみると、
〈マネージャー、武器はどうしたの?〉
〈まさか素手じゃないよね?〉
〈いやいや。武闘家で冒険者として有名な人も、さすがに素手で戦うのは無理って言っていたけど……〉
「マネージャー、最近格闘のほうがやりやすいって言ってた」
〈格闘www〉
〈え!? 迷宮の魔物相手に格闘で戦うやつなんているのか!?〉
〈何かの格闘技経験者なのか?〉
……そういえば、【格闘術】のスキルを持っている人っていないみたいなんだよな。
だから恐らく、このスキル自体がかなり希少なんだろう。
「でも、大丈夫。マネージャー、強いから」
本当は澪奈にゴブリンのネックレスを装備してもらって、【鼓舞】を使用してもらったほうが確実だが、装備のやり取りをするとカメラに映る可能性もあるからな。
見つけ出したワーウルフと戦うため、俺はスマホをポケットにしまう。
ポケットに入れると同時にインベントリにしまう、という技にもずいぶん慣れた。
……間違えて配信中のカメラをインベントリに入れないようにだけしないとな。
準備はできた。
ここからは戦闘に集中だ。
ワーウルフがこちらに気付き、とびかかってくる。
その拳をかわし、俺は呼吸を吐き出し、筋肉を引き締めながら蹴りを放ってひるませる。
……【格闘術】を手に入れてから、呼吸の仕方に意識が向くようになった。
呼吸を吐き出して力を加える方法と、呼吸をして脱力する方法。
……よくは分からないが、体がその場に合わせた動きを教えてくれる。
これがスキルの効果かもしれない。
そして、そこに魔力を合わせた攻撃を放つ。
顔面にもろに膝蹴りが入った。魔力による攻撃もいくつか種類がある。
外部を傷つけるものと、内部を傷つけるものだ。
今のは外部を傷つける一撃だったが、次は内部だ。
隙だらけの脇腹へ、大地を踏みつけた力をのせるように拳をめり込ませる。
同時に魔力を右手に集め、それをワーウルフの体へと流し込む。
「ガッ!?」
ワーウルフは短い悲鳴を上げ、倒れた。
ぴくぴく、としばらく痙攣したところで倒れ、素材をドロップする。
回収してポケットにしまってからインベントリにしまい、俺はカメラのほうへと向かう。
そろそろカメラマンに戻りたいからな……。
「マネージャー。戦ってみての感想をどうぞ」
澪奈がマイクに見立てた拳をこちらに向けてくる。
「こんな感じですね。ですので、澪奈さんに何かあったときは助けますので安心していただければと思います」
「ちょっとコメント欄が驚愕に包まれてるみたい」
澪奈が画面を見せてくるので、コメントを見る。
〈凄すぎ……〉
〈え? 今何が起こったの?〉
〈あまりにも鮮やかすぎる……〉
〈冒険者って武器をむやみに持ち出したらいけないって規制あったけど、この人の場合両手両足が武器やん〉
〈もう一回みたいです!〉
「もう一回みたいそうだけど、どうする?」
「でも、澪奈さんの配信ですから……もういいのでは?」
「というわけで許可が出たのでもう一戦見ていこう」
「聞いてました?」
澪奈が無理やりに話を進め、もう一戦。
……澪奈が強引に流していって、俺は仕方なくワーウルフを探す。
―――――――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
楽しんでいただけた方は☆☆☆やブクマをしていただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします!
※☆は目次やこのページ下部の「☆で称える」から行ってください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます