第50話
たぶん、あっちだな。感覚でおおよその方角を判断したあとは、足跡を辿る。
よくよく観察してみると、迷宮内でも土の捲れ方などからどの足跡が新しいものなのかなどが分かるんだよな。
特に、ここはずっと日光がさしているので、土が捲れて乾くまでの時間はおおよそ同じだしな。
ワーウルフを発見した俺は、次はどのように戦おうか迷う。
内部の攻撃はこういった人型相手には強力だが、さっきのだと視聴者からすると地味だよな。
襲い掛かってきたワーウルフの攻撃をかわしながら、そう思った俺はもう少し分かりやすい大技を使うことにした。
攻撃をかわすと、すかさずワーウルフが回し蹴りを放ってくる
その攻撃をさっとしゃがんでかわす、足払いをかける。
「が!?」
転んでいるワーウルフの胸倉を無理やり掴む。皮を思い切りはぐようにつかんだので、ワーウルフの悲鳴が聞こえるな。
俺はそのまま背負い投げのように地面へと叩きつける。
地面に叩きつけられたワーウルフはうめき声をあげながら体を起こそうとしていたが、受け身をとるのに失敗して肺の空気をすべて吐き出してしまったようだ。
俺はその場で大きく跳躍し、空中で回転をしてからかかと落としを浴びせた。
「ガ……っ」
ワーウルフは最後に短い悲鳴をもらし、体から力が抜けた。
地面にめり込むようにしてやられたワーウルフが素材をドロップしたのを見て、ポケットにしまう。
それから澪奈のほうに戻り、またコメント欄を見ると、凄い勢いで流れていた。
〈すげえええ!〉
〈漫画みたいだな!〉
よく見ると、なんかめっちゃ視聴者増えてないか?
15000人を超え、今もまだ増えている。
「なんだか、マネージャーの戦闘が凄いって。めっちゃ切り抜かれてる」
「……そうなんですかね?」
「うん。格闘であそこまで魔物と渡り合っているのいないって。冒険者の方々から」
〈異常すぎる……〉
〈ワーウルフを放り投げたり、あの跳躍といい……人間離れしてる〉
〈下手したらCランク冒険者くらいあるんじゃないか……?〉
〈いや、Cランク冒険者でも一対一で格闘で戦えって言われたら無理だ〉
〈ヤバスギワロタ……いや、ワロエナイ……〉
……どうやら、格闘で戦っているのが余計に注目を集めたようだ。
【格闘術】。装備品強化のためだけにとったが、実はこれまずかったのではないだろうか?
派手に目立ってるぞ?
「そろそろ、私の戦闘も見せないと……誰の配信か分からなくなりそう」
〈もうこのままマネージャーだけでよくないですか?〉
「やかましい……っ。ほら、マネージャー。カメラマン!」
澪奈が冗談交じりにコメントに返し、俺にスマホを押し付けてきた。
……うん、これでいい。
コメント欄には二人で戦っている姿を見たいというのもあったが、それだと撮影が難しいからなぁ。
カメラを固定して、魔物をおびき寄せて戦う、とかはできるかもしれないなぁ、とかのんびり考えながら俺は澪奈の戦闘をカメラに収めていった。
それからも同じような調子で配信を行っていき、特に大きな問題もなく終了した。
普通の迷宮配信だったと思う。
でも、瞬間ではあるが20000人を超える視聴者が来てくれた。
一週間ぶり、というのも効果があったかもしれない。
とにかく、毎度思うのは無事終了してよかったという安堵だ。
部屋に戻ったところで、澪奈はすぐにスマホをいじり、何やら笑顔を浮かべている。
「やっぱりマネージャーも需要ある」
澪奈が笑顔とともにスマホの画面をこちらへ向けてきた。
そこには、今日の配信褒めるツイートがいくつも並んでいた。
「どうなんだろうな。たまたまじゃないのか?」
「ていうか、20000人を超えたのは間違いなくマネージャーの格闘があったから」
「……そうか?」
まあ、澪奈が楽しそうにしているのでとりあえずはそういうことにしておいた。
あくまで俺はゲストなので、でしゃばるつもりはない。
澪奈が配信終了のあとのツイートを行っていて、俺もパソコンを起動して色々と確認する。
配信を終えたあとはメールがいくつも届くからな。
ファンレターのようなもの、批判のようなもの、増え続けているパーティーやクランへの誘い。
今すぐ返すのが一番だと思うが、疲れもある。
……返信は明日まとめてしようか。
アンチメールのほとんどが俺に対してだ。
澪奈が批判にさらされる機会が少ないのは俺としては悪くないな。
メールをフォルダ分けしていると、澪奈が俺の両肩を揉みながら声をかけてくる。
「マネージャー。色々といい案も出てきたから、忘れる前にちょっと話しておきたい」
「いい案?」
「配信のときにマネージャーの戦ってる姿が見たいとか、ロケハンの件とか、二人で戦ってるときの様子を見たいとか」
「……あー、そういえばあったな」
俺は椅子を回すようにして澪奈に向き合う。上に座ってこようとしたのでその背中をそっと押し返す。
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