第51話

「ずばり平日のロケハンのときに配信するのもありだと思う。私が配信できないときの息抜きにはなると思う」


 ……まあ、今日の反応を見るに、まったく需要がないわけではないと思うんだけどな。

 それでも、すべてのファンの意見ではない。現に俺に対してアンチのメールとかもあるわけだ。


「あくまで澪奈のファンたちじゃないか……って思いもあるんだよな」

「チャンネル名には二人の名前が入っているから大丈夫」

「うーん、それは……どうだろうな。一応、考えてはみたんだけど、聞いてくれるか?」

「うん」


 そこから、俺は澪奈にチャンネルに関しての話をしていく。


 チャンネル運営をしていくにあたり、方向性は大事だ。

 今の時代、チャンネルなんて飽和状態なくらいに多いし、似たような動画が溢れている。

 その中で注目を集めるには、出演者が魅力にあふれているか、比較的競争の少ないジャンルで動画を作るかだ。


 迷宮関係のチャンネルは、わりと多い。

 その中でこうして注目されているのは澪奈の魅力が強いからだと俺は考えている。

 動画サイトも、視聴されやすい人となれば似たようなのを好んでいる人のおすすめや、関連動画に載せるように援護してくれるわけで、それらはチャンネルの方向性を明確化していくことでより、載りやすくなってくる。


 このチャンネルの強みは、可愛い女子高生冒険者がそれなりの実力を持って迷宮攻略に臨む、部分だと思っている。

 だから俺が前に出すぎるとその部分が薄れてしまい、他の似たようなチャンネルの関連動画にも載りにくくなるんじゃないかと思っている。


 俺は二十一歳の高卒の普通の会社員……今はフリーター……のようなもの。

 それが一人で配信を行っても、そういう迷宮チャンネルはいくらでもあるからなぁ。

 ネットで調べてみれば、『ニート冒険者』とか『フリーター冒険者』みたいなワードはたくさんある。


 ……俺も、澪奈に雇ってもらっているというような立場ではあるが、正式に雇用契約があるわけではない。

 俺も言ってしまえばニート冒険者なのだ。


 仮にニート冒険者が出てくるチャンネルなんだな、とMeiQubeに認識されると今度はそちらに関連してのおすすめ動画として出てくる。

 それなら別にいいが、女子高生冒険者という部分に関連してのおすすめなどがされなくなってきてしまう可能性もある。

 それに、方向性がぶれるとMeiQube側もどんな人におすすめすればいいのか分からなくなり、関連に乗らなくなる可能性がある。


 チャンネル立ち上げの瞬間は、そういった方向性は決めず伸びたジャンルで勝負していけばいいのだが、今は違う。

 もう注目は集めている。ここからさらに伸ばすにはきちんと方向性を絞ったほうがいい。


 今時、好きなことを好きなようにやって伸びるのは本当に才能がある人だけだ。その才能がある人だって、不運次第で全く誰にも見つからない可能性がある。

 なんでも、一度注目される必要があるのが、この業界だ。だからといって、炎上を狙うのはご法度だが。


 そういうことを澪奈に説明すると、澪奈は考えるように腕を組む。


「なるほど……ファンサービス的な内容は今じゃない、ってこと?」

「ああ。ファンの意見ももちろん大事だけど、それはある程度まで人を集めてからでもいいんじゃないかって思うんだ」

「そっか。でも配信する日数を増やすことも、注目を集めるチャンス、ではある」

「……それは、そうなんだよな。だから、難しい」


 MeiQubeのシステム上、毎日とかしたほうがいい。

 でも、澪奈は学生だからな。あくまで本業は学業だ。


 俺は……できればずっと澪奈に今の活動で生活していってもらいたいが、それが難しいとき、やはり大事なのは学歴などだ。

 澪奈が週に二度、週末限定でしかできないのでその分を他でカバーするというのはありっちゃありな話ではあるので、難しいところである。


「俺が配信してまったく需要なかったらそのあとが問題だしな」

「それは後でネタにすればいい」

「……俺の心は?」

「マネージャー、あんまり気にしないでしょ?」

「……まあ、気にしないけどさ」


 会社にいたときから同僚や上司から散々いじめられていましたからね……。

 他の会社はどうか知らないが、「他人の手柄を自分の手柄にしてこそ、一人前」がうちの会社での教えだった。


 だから、営業で仕事を取ってきたとき、気づけば上司の手柄になって担当者を奪われる……なんてのもよくやった。


 グループのメンバーを引き抜かれたのもその一つだしな……。

 手柄横取りされてさすがに上司に怒ったときもあったが……今更ネットでちょっとやそっと言われても気にならない。


「とりあえず、私がTwotterとMeiQubeでアンケートとってみる。見たいって声が過半数を超えてたら毎週水曜日とかにロケハンってのはどう?」

「まあ……分かった」


 ファンサービス、というわけではないがある程度ファンのために活動したほうがいいのも事実だしな。

 俺たち二人なのでやれる範囲は狭いが、その範囲くらいでファンが喜ぶのならやりたいけどなあ。

 早速澪奈がアンケート機能を使って募集を開始している。そのあとで、俺がも気になっていたことを話す。


「さっき言ってた、二人での戦闘についてはありだと思ったな。配信しない日に投稿する動画をどうするかは前から悩んでたし」

「それは思った。カメラをどこかに固定して魔物をおびき寄せて戦闘を撮影するのもあり?」

「ああ。特に荒地エリアの魔物はまだちょっと一対一だと厳しそうだからな。それとの戦闘シーンは撮影してみるのもありかもな」

「スマホ固定できる三脚とかあるし、それはやってみてもいいかも」

「ああ。投稿スケジュールとしては、二人でパワーワーウルフとの戦闘。それを投稿して、そのあとの配信で荒地エリアの案内ってのがいいと思うんだ。だから、明日の配信の内容は荒地エリアでパワーワーウルフの紹介くらいにしようと思ってる」

「じゃあ、明日は事前に質問を募集しておいて、それに返信する感じのだらだら戦闘配信にしよっか」

「……そうだな。それじゃあ、質問箱を澪奈のTwotterに用意して、俺が質問の精査をしておくってことでいいか?」

「それで大丈夫」

「よし、なら早速準備しないとな」


 色々と質問されると思うので、その準備をしておかないとな。

 あと、こういうのをやるとだいたい際どい質問が飛んでくるのでマネージャーとしては頑張らないとな。

 早速作業を開始し、ついでにメールなどの処理もしていると結構時間が経っていた。


 すでに澪奈はシャワーを浴び、布団でごろごろとしている。とはいえ、スマホで自分のことを検索したり、自分に関連しての動画を見てはリツイートしたりやっているようだ。

 俺もだいたいの作業が終わり、シャワーを浴びに向かうと、澪奈がスマホをこちらに向けてきた。


「マネージャー見て。切り抜きの再生数凄いよ」


 今日も澪奈の配信が切り抜かれたのかな? と興味本位で見てみると、


「俺の戦闘かよ!」

「悔しいくらい伸びてる……! 外国人もいっぱい見てるみたいだし……」


 澪奈が嫉妬するようにこちらを見てくる。




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