第62話

「疲れた……」


 戦闘に関しては対して疲労はないのだが、考えることが多すぎる。

 失言をしないよう気にしながら、戦闘の撮影だからな。

 ただ、戦闘に関してはしっかりと映っていたようで、問題なさそうだった。


 少し部屋で休んでいるとスマホが震えた。

 見ると澪奈からの連絡だ。


「澪奈? どうしたんだ」

『とりあえず、お疲れ様。配信、見てた限り問題なさそうだった』

「……そう言ってもらえるならよかった。わりと問題発言しないか心配だったんだよ」

『私との関係とか?』

「それに関しては面白いネタはないぞ?」

『表向きは、ね』

「意味深に言っても何もないからな?」

『ていうか、私のときよりも人が集まってた……』


 ……なんとなく、頬を膨らませているのがイメージできてしまった。

 きちんとフォローしておかないとな。


「それは澪奈がこれまでに築いてきたものがあったからだと思うけどな」

『それだったらいいけど。……格闘での戦闘が思ったよりも人気を集めてるみたい』

「それは確かにな」

『あんまり冒険者の使っている武器に注目したことなかったけど、確かに……武器を持たずに挑戦している人っていなかった』

「……みたいだな。俺もそこは考えていなかったな。嬉しい誤算だな」


 格闘で上位ランクの魔物を圧倒するというのが、どれほど異常なことなのかを俺はよく認識していなかったな。

 ……視聴者って、『冒険者が魔物と戦うところ』を見ているのかと思っていた。


 実際は『冒険者がどんな武器で、どのように魔物と戦うか』を見ているんだから、珍しい武器を使っていれば大なり小なり注目を集めるみたいだ。

 これは、マネージャーとして盲点であり、情けない話だった。


 確かに、別ジャンルになるが例えばオンライン対戦ゲームなどで、不遇なキャラや不遇な武器を愛用している人というのは、一定の人気があるしな。


『そういえばマネージャー。メール確認したけど、日曜日のインタビューと撮影の件は私大丈夫』


 ……橋本さんに先日インタビューを受けたところ、また別のオファーがあった。

 澪奈を冒険者関連の雑誌で紹介したいそうだ。その際に澪奈を前面に押し出すということで表紙にも載せてもらえるそうで、その撮影も兼ねて朝から仕事を開始する必要がある。


 なんか、ちょうど別の人を撮影予定だったそうだが、そちらが体調を崩してしまったそうで急遽お願いできる人がいれば、ということでかなり急ピッチで仕事が来たのだが、すぐに返事が欲しいのだが、そこは自由にやっているうちの強みでもある。


「了解。当日は、向こうで用意した冒険者用の衣装があるそうだから、まあ体調崩さないようにな?」

『やっぱり泊まりは禁止?』

「この前外出たときにこっちを伺ってるのがいたからな。しばらくは駄目だ」

『むぅ……。でも、見せつけるチャンス……? ……でも、今わりとマネージャーのファンも増えてるから、もしかしたら炎上するのは私のほうの可能性もある……?』

「……俺のファンそんなに増えてるのか?」

『学校でも、マネージャーに会いたいって言われて凄い困ってる。紹介してほしいって人とりあえず全部断っておいた。いいよね?』

「お、おう。まあ別にいいけど」


 なんかいつもよりも声に圧がかかっていたので、頷く。どちらにせよ、澪奈の学校なら高校生だしな。

 社会人が高校生を相手にしたらダメだろう。


「とりあえず、橋本さんには了解ってことで返信しとく」

『お願い。とりあえず、お疲れ様ってことで』

「……ああ。澪奈もTwotterで色々やっててくれたみたいで、ありがとな」

『ううん。私もマネージャーのマネージャーみたいなものだから』


 得意げな声に苦笑しながら、俺たちは通話を切った。

 通話しながら打ち込んでおいたメールを橋本さんに送信すると、五分後くらいに返ってきた。

 ……あの人も、いつ寝ているんだろうか?

 深夜とかに返信しても普通に返ってくるんだよな……。

 いやいや、あまり深く考えないようにしよう。きっとフレックス制なんだろうな。


 とりあえず、これで今日の俺の仕事は終わったので、パソコンを閉じて眠りについた。




―――――――――――

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