第64話



「え? そうなの? 何かあったの?」

〈ここ最近の問題とかの説明じゃない?〉

〈MeiQubeでのライブ配信みたい。一応記者もちょこっと入るみたいだけど〉

〈具体的に何をするかは分からない〉

「……そっか。とりあえず、これで今日は終わり。また明日」

〈お疲れ様でした〉


 配信を終えたところで、澪奈がこちらを見てきた。


「『スピードフォーク』色々やらかしてたから……それとかの説明とか?」

「たぶん、そうじゃないか?」


 『スピードフォーク』が持っている公式チャンネルではすでに配信の待機者が集まっていた。

 結構注目されているようで、すでに1000人近い人が集まっている。

 ……結構コメント欄は荒れているな。


 俺たちも気になっていたので、それを見ることにした。



『――まことに申し訳ございませんでした』


 社員の一人が声をあげ、会見用の席に並んでいた六人が一斉に頭を下げた。

 社長と役員数名が並んでいて、俺も見覚えのある人たちの顔がそこにはあった。

 謝罪を終えたあと、全員が席に座りなおす。

 ところが、社長は腕を組み、どこか不服げな様子でいた。……あまり態度がよくなく、そう思ったのは俺だけではないようでコメント欄もあれているな。


「……社長、相変わらずみたい」

「……そうだな」


 会見の内容に関しては、税金などの申告の際の会計にミスがあったことと枕営業についての話があった。

 ……税金に関しては、管理していた経理の者のミスがあったと謝罪。これから気をつけると。

 いや、マジか。

 そっちでも問題があったなんて知らなかったな。


 俺が気になっているのは次だ。

 枕営業についても、社員が勝手に行っていたこととして、その該当社員はすでに処分を行った、という話だった。


「……しっぽ切だな」

「やってたの、ほとんど上からの命令だったしね」


 俺と澪奈がぼそりといった。

 ……ここに映っている人たちが指示を出していたんだからな。

 その尻尾切りにあった社員も、さすがに黙ってはいないと思うがな。


 それこそ、マスコミに情報を持っていかれたらどうするのだろうか? あるいは該当社員たちを金で黙らされたとかだろうか?

 穏やかに進行していったのだが、社長はずっとある一点を眺めていた。

 ……なんだろうか?

 社長はそこを見るたび、どんどん不機嫌そうになり貧乏ゆすりも増えていく。

 隣に座っていた役員が視線をちらちらと向けている。その間も、コメントによる社長の叩きや会社の説明に対して苦言を呈する人達がいる中。


『さっきからピーピーうっせーんだよ、コメントの底辺どもが!』

『しゃ、社長!?』


 社長が……大声をあげてキレた。

 それは社長が見ていたほうを指さしており、もしかしたらそちらに配信のコメント欄の様子でも流していたのかもしれない。

 社長がパイプ椅子を蹴り上げ、それを抑えるように周りの役員たちが声をあげる。


『社長! 形だけでも謝罪の態度をとらないと!』


 おい。


『お、おい! 配信中だ! 馬鹿なこと言うな!』

『てめぇらも気に食わねぇだろ!? なんで俺たちだけがこんな扱いされなきゃなんねぇんだ、ってな! 枕なんざ他の事務所だってやってんだよ! オレたちだけじゃなくてそいつらにも言えよコメントのくそどもはよ!!」


 社長が声をあげ、とんでもないことをいうものだからコメント欄は荒れていく。

 ……そして、気づけば視聴者10000人を増えていく。

 たぶん、うちの事務所の公式チャンネルで行った配信での最高視聴者数ではないだろうか?

 まったくおめでとう、ではないんだけどな。

 コメントは荒れていくのだが、そのときあるコメントがされる。


〈もしかして今人気の澪奈もやってたのかな? ここの所属だったよな?〉

〈だとしたら凄い不快なんだけど……〉

〈社員の独断ってことは、もしかして澪奈さんのマネージャーも?〉


 そのコメントが流れた瞬間だった。社長が口元をゆがめながら叫んだ。


『うちに所属しているやつは全員やってたよ! 今話題の澪奈もな! あいつもやらせてたよ! あのマネージャーも善人面していたが、あいつが率先して一番やってたんだよ!』

「はああ!?」


 俺は思わず叫んでしまった。

 俺はそれは一切やっていなく、むしろそれで社長や役員、同僚から怒鳴られている側だった。

 だが、それを嘘と言ってくれる人間がこの場にはいないため、コメント欄が一気に荒れていく。


〈え? マジで?〉

〈は? だとしたら最悪じゃね?〉

〈だとしたらマネージャー善人ぶってるクズか? 悪人すぎないか?〉

〈普通に警察案件だろ。通報しないと〉

〈澪奈ちゃん、可哀そう……〉


 そのコメント欄を眺めていた社長がにやにやと笑いだした。

 その狂ったような笑みに、周りの人たちも動けない。

 社長は馬鹿にしたように笑い、さらに叫ぶ。


『うちを出ていったやつももちろんな! 男も女も誰かしらと経験あんだよ。はは! この業界で売れるってのはそういうもんなんだよ!』

『おい、配信止めろ!』

『わ、分かりました!』




―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


『楽しかった!』 『続きが気になる!』という方は【☆☆☆】や【ブクマ】をしていただけると嬉しいです!


ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る