第65話
そんな声が聞こえ、ぶつりと配信は切れた。
……あ、あの社長……マジで頭おかしいんじゃないか?
完全に名誉棄損であり、俺たちとしては訴えることはできる。
……だが。問題もある。
訴えて、潔白を証明することはできるのだが……裁判になったとしても、スムーズにいっても一年近くかかるかもしれないよな?
……最悪だ。
社長が適当なことを抜かしただけで、面倒なことになった……。
そう思われてくれればいいが、それを信じてくれる人間がどれくらいいるのだろうか。
それを示すかのように、俺と澪奈のスマホの通知が、鳴り響いていく。
俺のもとにはメールが。澪奈のもとにはTwotterなどの通知が。
内容は、おおよそ想像できる。
澪奈も同じようなことを考えているのだろう、ため息をついていた。
「これ、絶対さっきの関係の話題だよね?」
「たぶんな。……まったく、面倒なことをしてくれたな」
「どうしようマネージャー。これをどうにかするには、私とマネージャーの関係を公表するしか……」
「潔癖の関係の、公表だよな?」
「恥ずかしいなら、夫婦とは言わなくてもカップルだけでも」
「……とりあえず、中見てみるかな」
俺が最初に開いたメールは、こちらを心配するような質問だ。
……ただ、文面を見ても俺たちの関係について信じてくれているようだが疑いもあるという様子。
次に開いたメールは、悪意の塊にあふれていた。
〈ゴミが。もう見たくないからさっさと消えろ〉
〈信じていたのに、裏切られました。この外道が〉
〈澪奈ちゃんを汚しやがって。何がマネージャーだ、死ねよ〉
〈冒険者の力で脅してたんだろ? 警察に通報したからな、クズが〉
「やっぱり、そういうのが多いか」
ただ、ラッキーなのは澪奈に対しての敵意は少ないか。
もともとの俺が善良な感じで売り出していたから……いや、別に売り出すつもりはなかったのだが、とにかく無害な一般人のようにふるまっていたから、凄まじい扱いだ。
これらに返信をしたところでどうしようもない。
ひとまず、同じような状態になっているであろう澪奈に声をかける。
「澪奈、そっちは大丈夫か?」
「……結構、批判されてる」
むすっとした表情とともに澪奈がスマホを見せてきた。
最後の配信のコメントに対して、いくつもコメントがついている。
もちろん、配信への感想ではなく、先ほどの社長の発言に対する質問だ。
澪奈を気遣うコメントも多い。特に最初のころにファンになってくれたと思われる人は、澪奈が最初に挙げた動画の話などをしてくれている。
ただ、最近ファンになった人たちは敵意をむき出しだ。
〈売女なんですか?〉
〈体売って人気者になれてうれしいですか?〉
〈一回いくらでやらせてくれるんですか?〉
……もともと、ファンだけではなくアンチもいただろう。
この業界、100人いて100人がファンになってくれるわけもないんだしな。
ただ、ツイートの返信欄にはそんな悪意に満ちた感想がいくつもあり、澪奈はそれをじっと見てから、
「これからどうする?」
解決策はあるが、時間はかかるんだよな。
それでも、俺たちに選べる選択はそれくらいだ。
「社長があそこまで言ったんだから、こっちも弁明のためにある程度詳しい話をしてもいいとは思う。それで社長に対して、俺と澪奈で名誉棄損で訴えるってな。その判決結果を見てもらえば、ファンたちも納得するだろうな」
「……納得はしてもらえるかもしれないけど、結果が出るまで結構時間かかるはず。私の先輩、確かそれで一年近くかかってた」
「かかるな。順調に行われても一年とちょっとくらいだな」
「……つまり、その間は誤解されたままになる?」
「……まあ、そうかもしれないな」
最悪なのは、そこなのだ。
……せっかく今勢いがついているというのに、澪奈の勢いを殺す一手だ。
……戻ってこいという提案を拒否した結果がこれか。
随分と勝手なことをしてくれる。
「誤解されたままは最悪。配信のたびに変なのに絡まれるかもしれない」
「否定したとしても、アンチからすればそれを面白おかしく広めていくだけだから……もうそれは仕方ないな」
「なら、一発逆転の手段を使うしかない」
「一発逆転?」
俺が問いかけたとき、澪奈がスマホを操作した。
澪奈のスマホから、口論の音声が聞こえてくる。
『ああ!? 何かあんのか!?』
『向こうが枕を要求してきたからですよ!?』
『そんなの関係ねぇよ! この業界に来た以上、そんくらいは覚悟してもらわなきゃならねぇんだよ!』
『まだ、彼女らは高校生ですよ!? 俺たちは親御さんから預かってる身なんですよ!?』
澪奈がそこで音声を切り、別の音声を再生する。
……それらは、すべて俺が他の社員や社長と口論しているときのものだ。
「……おまえ、録音してたのか?」
「これ以外のものだと、動画もある。マネージャーを隠し撮り――じゃなくて、マネージャーが結構ひどい目にあっているのは知っていたから、何かあったときの証拠に使えると思ってたから」
「……澪奈」
「これを公開した場合、どうなる?」
「……一応、肖像権の問題とかはあると思う。動画に関しては隠したほうがいい。……裁判とかでそこを相手につつかれて、例えば賠償金などが減らされる可能性はあるかもしれないな」
「裁判に関しては、社長が嘘を吐いたって事実だけ残ればいい。いくら赤字出そうとも私が稼ぐ」
澪奈がそう宣言したあと、低い声を出す。
「それよりも――私のマネージャーが馬鹿にされたことが気に食わない。迷宮内なら首を跳ねに行っている」
「……澪奈の、じゃないけどな」
澪奈の恐ろしいほどの怒気に、俺は頬が引きつる。
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