第130話




 ……カトレアを日本に取り込めるかどうか、それが秋雨会長の目的だったからだろう。

 俺としても、カトレアが無理に駆り出されるようなことがないのなら、国籍などを用意してもらうのは悪いことではないだろう。


 あとは、国民からの反応次第だが……実際海外では、国籍を用意するから移籍しないかと冒険者に持ちかけられることはよくある。

 優秀な冒険者を国に確保できるというのは悪いことではないだろう。日本の場合、冒険者と直接の契約をしないため、契約金の支払いはないしな。

 ……まあ、それが理由で日本に優秀な冒険者が少ないわけでもあるんだけど。



「ありがとうございます……! 細かい手続きはこちらで進めておきますので、必要なことがあればまた茅野さんを通じて連絡します。今回に関しては、以上で私からの話は終わりにしますが……また、後日。どこかで詳しい話を聞くかもしれません」

「私が答えられる範囲でしたらいくらでも大丈夫です」

「ありがとうございます。……病み上がりの中こんな話をしてしまい、申し訳ございませんでした」

「いえいえ。むしろ、見ず知らずの私をここまで面倒見てくださったみたいで、こちらとしても感謝しています。ありがとうございます」


 ぺこりとお互いに頭を下げあったところで、先ほどの穴を通じて秋雨会長はひとまず日本に戻っていった。

 カトレアの身柄を無理やり拘束などされなかったのは、俺が事前にそういう約束を取り付けていた部分もあるかもしれない。

 どちらにせよ、カトレアが何かした場合に取り押さえられるのは俺しかいないんだしな。

 異世界について気になることはあるが、ひとまずは今後について話さないとな。




 一度病室に戻り、医者に診てもらい、カトレアに異常がないことを確認して、退院という運びになった。

 ……さて、片付けなければいけない問題が色々ある。


「ひとまず、マネージャーの家で今後について話す?」

「そうだな」

「はい! 一つ質問いいでしょうか?」

「どうしたの?」

「ケースケ様には、カヤノ・ケースケ様という名前がありますよね? マネージャー、と呼んでいるのは何か意味があるのでしょうか?」


 あっ、どこから説明すればいいだろうな……。

 そもそも今の俺は正式には無職である。……いやまあ、そういった細かい話はしなくてもいいだろう。


「あー、それは……そうだなぁ。役職みたいなものだな」

「役職、でしょうか?」

「ああ。マネージャーっていう……仕事があってな。澪奈の配信活動を補助する、っていう仕事をしているんだ」

「配信活動、ですか?」


 それももちろん分からないよな。

 そう、思っていたのだが、カトレアの近くにいた精霊が明滅する。


「……テレビ、動画サイト……ですか。世界に、情報を発信するサービスがあるのですか!?」

「あ、ああ……もしかして精霊が教えてくれたのか?」

「はい。私が眠っている間に精霊たちが情報を集めてくれているんです。なんでもテレビとMeiQubeに嵌ったそうですね! なるほど……これがその配信サービスですか……凄いですね……っ」


 カトレアが目を閉じ、興奮した様子で声をあげる。

 ……もしかして、今の間に精霊から映像情報として共有してもらったとか?


「……そうか。もう、テレビとかについて理解できたのか?」

「はい。精霊たちとは景色の共有もできるんです。本来は索敵などに利用しているのですが、今回のように情報収集にも使えます。精霊たちも、テレビやMeiQubeにはまったそうですよ」


 俗物な精霊だ。でもまあ、状況を主に伝えてくれるのはこっちにとっても都合がいいな。


「俺がマネージャーって呼ばれているのは、そういう場に出る澪奈を支えているからなんだ」

「……なるほど。それと、お一つ質問したいのですが……」

「どうしたんだ?」

「精霊から……話を聞いたのですが、もしかして、この日本では名前の順番が、ちょっと私の世界と違うのではと思いまして……」

「……あー、そうだな。異世界的に言うなら、圭介・茅野のほうが正しいのかもな?」


 別に細かな違いだろうと思っていたのだが、カトレアはなぜか顔を真っ赤にして、もじもじとしていた。


「……え? わ、私お二人のことをいきなり名前で呼んでしまっていたということですよね?」

「まあ、そうだけど……別に気にしなくても」

「ケースケ様を……恋人を……いきなり呼び捨てにしてしまったということですか?」

「待って。勝手に恋人に昇格させないで」

「では、番、と……?」

「意味変わってないよ? あと、私のことはレーナのままでいいから。様も必要ないし」

「そうですね。一応、育ての両親は持っていたので、それを引き継いでもよかったですが……私とは血のつながりもありません。家名を穢してしまう可能性もありましたので、継ぐことはしませんでした」

「そうなんだ。……その、思い出させたくないことを聞いちゃって、ごめん」

「いえ、大丈夫ですよ。悪気がないのは分かっていますし……それでは、今のままお呼びしますね。レーナ様、ケースケ様」


 カトレアが照れた様子でありながら、ぽつりと言葉を漏らした。

 ……とりあえず、発言などはともかく、根は良い子そうでよかった。





―――――――――――

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