第129話




「もしかして、カトレア。さっき、経験回数がどうたら言っていたのって翻訳ミスか何か?」

「いえ、私なりのジョークです」


 満面の笑顔だな、チクショー。

 俺たちの会話を聞いていた秋雨会長が正気に戻ったようで、一つ息を吐いた。


「凄い、技術力ですね。我々の世界には、はっきり言ってそのようなものはありませんよ」

「……そうなのですか? あの車という乗り物は私たちの世界にはありませんでしたので、すごい世界に来てしまったものだと思っていたんですけど……」

「……なるほど。お互いの世界で、必要な技術が伸びていったということでしょうか。……まだ、異世界について色々と聞きたいことはありますが、今は一つだけ確認させてください」

「なんでしょうか?」


 カトレアは落ち着いた様子で首を傾げる。

 その様子とは裏腹に、秋雨会長は緊張した様子だ。


「……カトレアさんは、これからどうされるのでしょうか?」

「私は…………そうですね。ひとまず異世界に移動する魔道具も完成したので、こっちと向こうを行き来しつつ、向こうの森を脱出したいと思っています……かね?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 異世界とこちらを行き来することが可能なのですか!?」

「はい……ちょっと待ってくださいね。えいっ……はい、開きましたー」


 カトレアが可愛らしく声を上げると、そこには黒い渦のようなものがあった。

 ……迷宮の入り口に似ているが、そこから先は見慣れない一軒家が見える。


 カトレアが先導するように中へと入り、俺たちもそのあとを追うようについていく。

 中は、暗かった。こちらとは半日ほど時刻が違うのだろうか?


 空を見ると……そこには二つの月があった。

 ……俺たちの国にはない、二つの月。それが、異世界を象徴するかのように夜空を照らしている。


「こんな感じですね」

「……こ、ここが、異世界……」

「皆さんにとっては、そうなりますね。それで……私は今、この森の外に出て、世界を見て回りたいと考えていたのですが……森の魔物が強くて手が出なかったんです」


 ……なんだって?

 俺はカトレアのステータスが見えているのでもちろん驚いていたのだが、それ以上に驚いていたのは秋雨会長だ。


「……あ、あなたも、かなり強いですよね?」

「私? ほかの人と比べたことがないのでわかりませんが……母は弱いって言っていましたね?」

「……なんですって」

「この森、なんですけど……父と母が張っている結界の影響もあって、この周辺の魔物は弱いんです。奥に進めば進むほど、どんどん強くなっていくそうなのですが、私この近辺の魔物とどうにか戦えるくらいでして」

「……どうにか。……戦えるくらい」


 秋雨会長はカトレアの言葉を復唱し、表情を強張らせていた。

 カトレアでどうにか戦えるって……マジか。

 秋雨会長ほどではないが、俺も少なからずショックは受けている。

 カトレアの話が本当ならば、異世界の魔物が一体でも地球に来たら、人間は壊滅するかもしれないということになるからだ。


 万が一を考えたら、そりゃあギルド協会の会長ともなると眩暈もするだろう。

 ……もっと、強くならないとな。

 もしも世界が破滅なんてしたら、誰が澪奈のチャンネルを宣伝、視聴してくれるんだ。


「わ、分かりました……それでは、その……今後も日本とこちらの世界を行き来しながら、森を出られるくらいに強くなりたい。そういうことでよろしいでしょうか?」

「そうですね。迷惑でなければ、私はそうしたいです。それに、私一人ではもう厳しかったので、強い仲間も欲しかったんです」


 ちらと嬉しそうな声で俺と澪奈を見てくるカトレア。

 ……え、マジで?

 もしかして、カトレアの事情に巻き込まれるのだろうか?


 いや、でも待てよ?

 俺はスマホの画面を見る。……おっ、スマホの回線が生きてるな。

 もしかしたら今もカトレアが地球とこちらにつながる穴を維持しているからだろうか?

 これなら、異世界で生放送もできそうだ。

 

 ならいいか。澪奈の人気にも繋がるだろうし。

 そんなのんきなことを考えていると、秋雨会長は真剣な表情でカトレアに問いかける。


「……と、とりあえず……異世界については、理解しました。……一つ、私の話をさせてもらってもよいでしょうか?」

「はい? なんでしょうか」

「カトレアさんは、今後日本に来ることはあるのでしょうか?」

「そうですね……こちらとそちらの世界の行き来が安定化できましたので、可能であれば日本にもいたいですね」

「それでは、日本で生活しやすいよう……こちらで国籍を用意しようと考えています。地球にいる間は日本人、として振舞っていただいても問題ないでしょうか?」

「え? 別にいいですよ? むしろ、そんな用意をしてくれるのですか?」


 秋雨会長の表情に安堵の色が見える。



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