第128話


「茅野さん、お久しぶりです。澪奈さんは……こうしてお会いするのは初めてですね。ギルド協会の会長を務めている秋雨と申します」

「初めましてです。今、少し話したけれど……彼女は異世界人のカトレアさんです」


 澪奈がぺこりと頭を下げながら、簡潔にカトレアの紹介をする。

 その言葉に、秋雨会長の護衛としてついてきていた二名の黒服は、露骨に動揺している。

 秋雨会長もさすがに驚きはしていたが、さすが会長だ。わずかに目を見開いてすぐ、落ち着いた様子で問いかけてくる。


「カトレアさん。……異世界人、間違いないですか?」

「はい、間違いありません。何か証拠を提示したほうがいいでしょうか? ですが、証拠といっても……何もありませんし。ケースケ様、レーナ様。何かありませんか?」


 カトレアが顎に人差し指を当てながら、問いかけてくる。

 証拠、か。

 カトレアがすぐに証明できる証拠なら、一つだけあるよな。

 俺は彼女の顔へと視線を向ける。そして、その人間離れした尖った両耳を見る。


「……その耳は、本物なのか?」


 俺が問いかけると、カトレアはすぐに自身の耳を片手で触れた。

 ……身体的特徴を指摘するのは、異世界人的にどうなのかという疑問はあったが、特に気にした様子はなく、笑顔とともに答える。


「この耳は本物ですよ。私はエルフという種族なので。あっ、エルフという種族も説明したほうがいいでしょうか?」


 ――エルフ。

 本物なのか。

 秋雨会長の護衛たちは、何やら感動したような声を上げている。……もしかして、エルフとかに憧れるタイプだったのだろうか?

 カトレアはアピールするためなのか、耳の先をぴくぴくと動かしている。

 それを見ていた秋雨会長が柔らかく微笑んだ。


「いえ、エルフは我々も知識としては有しています。……そう、ですか。いえ、それだけで十分証明になりますよ」

「え? どういうことでしょうか?」


 秋雨会長の言葉に、カトレアは首をかしげる。

 ……まあ、地球にエルフがいないとか知らないもんな。


「この地球には、エルフという種族はいないのです」

「絶滅ですか? エルフって子を宿しにくいので、もしかしてそれが原因でしょうか?」

「最初からいないのです」

「それはまた……もしかしてでは、獣人やドワーフ、竜人や、魔族もいないということでしょうか?」


 ……逆に言えば、カトレアの世界にはいるのだろうか?

 カトレア本人も他者を見たことはないと話していたが、それでも知識としては持っているんだろう。


「はい。地球に存在するのは人間族……と呼べばいいのでしょうか? 人間しかいませんね」

「なるほど、そうなのですね。私たちの異世界にも、人間族しかいない国などはありますが……そういったのとは違うのですね?」

「ええ。絶滅したのではなく、初めからいないのです」

「なるほど……それだと、逆に珍しいですね。私たちの世界では人間族のほうが種族的には少ないと聞いています」

「そうなのですね」

「私も、人里離れた森で暮らしていて、育ての父に教えてもらった知識のみで恐縮ですが」

「いえいえ……ところで、ずっと疑問に思っていたのですが、どうしてカトレアさんと我々は話ができるのでしょうか? 同じ言語を使っているわけではない、ですよね?」


 ……そうなんだよな。

 カトレアの口の動きが、俺たちとは少し違うんだよな。

 そんな疑問を持っていると、カトレアは首につけていたチョーカーに手を当てた。


「私たちの世界ではこの魔道具を体のどこかに身に着けるのが一般的なのです」

「魔道具、ですか?」

「はい。様々な種族が入り混じっていますので、こちらの魔道具で自動翻訳しているんですよ。だから、たぶん地球の人たちとも問題なく会話できているんだと思います」

「……っ!?」


 カトレアがあっけらかんと言った言葉に、秋雨会長が目を見開いた。

 ……凄い、技術力だ。自動翻訳機能がついた道具なんて、この地球にはないからな。

 一応翻訳機などはあるが、翻訳がおかしくなっていたり、状況に合わせた言葉になっていなかったりする。

 ……今のところ、カトレアさんの会話に違和感はない。

 いや、一つだけあったな。

 こんな状況で聞いていいかという気持ちはあったが、秋雨会長がまだ驚いていたので空気を和ませるために問いかけることにした。




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