第127話


 カトレアが目覚めたと連絡が入ったのは先ほどだった。

 すぐに秋雨会長にも共有したところ、これから共に病院へ面会に向かうこととなった。


『私も行く』

「いや、澪奈は学校だろ?」

『休むから大丈夫』

「いや……別にこれは俺と秋雨会長で対応できる問題だし」

『問題。もしも、マネージャーが見知らぬ土地で知らない男性に囲まれてたらどんな気持ち? あっ、マネージャーは女の子になった気持ちで答えてみて』

「……それは、ちょっと怖いかも?」

『でしょ? つまり?』

「……分かった。澪奈も来てくれ」


 ……これは澪奈の問題というよりもカトレアの精神的な問題だ。

 確かに澪奈のいう通り、俺と秋雨会長、さらに秋雨会長についてくると思われる護衛の人たちがいた状態では、威圧感はあるだろう。

 いつもの服に身を包んだ俺は、すぐにカトレアが入院していた病院へと向かう。


 全力でダッシュしたので、到着は早かった。俺の話は伝わっていたので、カトレアの病室前まではすぐに案内される。

 ……ただまあ、先ほどの澪奈の話もあったため、すぐに部屋に入ることはしなかった。


 澪奈の到着を待ってからにしよう。彼女を待つこと三分。澪奈がこちらへやってきた。


「マネージャー、待った?」

「いや、そんなには……秋雨会長が来る前に先に中に入ろう」

「わかった」


 秋雨会長がいたら話しづらい内容もあるかもしれないからな。

 澪奈が扉に手をかけ、引き開ける。

 中にいたカトレアがこちらに気づいた。

 ……儚い印象を与えるが、美しい人だ。出会ったときは縛られていた髪が、今は垂れ下がっている。


「あなたたちは……そうですか。助けてくれた人ですね?」

「……分かるのか? 意識、なかったよな?」

「精霊が、教えてくれますので」


 カトレアがそういったとき、彼女の近くで何かが小さく光った。それは本当に一瞬ですぐに姿を消してしまったが、もしかしたらそれが精霊なのかもしれない。

 カトレアはベッドから体を起こし、ぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございます、助けていただいて」

「……いや、別にいいんだ。起きてばかりで色々と混乱していることはあるかもしれないけど、まず自己紹介だけはしておくよ。俺は茅野圭介だ。それで、こっちが神崎澪奈だ」

「澪奈です。よろしく」

「よろしくお願いします。私はカトレアと申します。それで、早速で悪いのですが……一つ質問をさせてください」

「どうした?」

「ここは、異世界で間違いはないでしょうか?」


 ……まさか、そちらからそういわれるとは思っていなかった。


「……地球、日本。これらの言葉に聞き覚えはあるか?」

「いえ……ありません。やはり、異世界で間違いないようですね」


 そういって、カトレアは視線を外へとむける。

 ……カトレアの世界がどのようなものだったのかは分からないが、病院の外には車などが走っている。

 それらを眺めていたカトレアの横顔は……子どものように無邪気なものに変わっていた。


「ケースケ様、レーナ様! あちらの黒い箱のような走る物体はなんでしょうか!?」

「い、いきなり名前……距離の詰め方が……上手い。それに、ギャップ萌え……可愛い……なかなか、やりて……」


 澪奈が謎にショックを受けている。


「……それは車って言ってな。人々が移動手段に使っているんだ」

「そうなのですね!? それではあちらで人がまたがっているものは!? 馬とは違うようですが……っ」

「あれは、自転車だ。……って、とりあえず気になることはたくさんあると思うんだけど、先に一つ伝えておきたいことがあるんだ」

「なんでしょうか?」

「これから、この国の偉い人が来て、カトレアと話をしたいと話しているんだ。……えーと、カトレアの世界の常識は分からないが、この日本に異世界人って初めて発見されてな。……まあ、簡単に言うとカトレアのことに世界中が注目してるわけだ。それで、色々と聞かれると思うんだ」

「色々、とは……例えばこれまでの経験人数とかでしょうか?」

「は、はい……?」

「だから、セッ〇スした回数とかそういうものでしょうか?」

「……ちょっと待て。澪奈、パスしていいか?」

「わかった。ちなみに回数は?」

「いえ、ありません。興味はありますが。何せ、私同年代の異性を見るのも初めてでして……」

「そうなの? もしかして異世界って男性がいないとかそういうちょっとウフフな世界なの?」

「いえ……どうでしょうか? 私、人里離れた森の中で暮らしていまして。育ての親くらいしか人がいなかったので……親に欲情はしませんし」

「それはそう」

「ですので――命がけで私を救ってくださったケースケ様にはとても興味があります!」


 目を輝かせて顔を寄せてくるカトレアに、俺は本気で困惑する。

 ……ま、まさかカトレアが澪奈と同じで暴走気味な部分があるなんて!

 そのカトレアを押さえるように澪奈が肩に手をかける。

 珍しく、澪奈が頼もしく見える。


「ちょっと待って? マネージャーは私のだから、ダメ」


 いや、やっぱり澪奈もダメだ。


「大丈夫です。私側室でも問題ありませんから」

「さすが、異世界……それなら、許す?」

「そもそも、正妻も決まってないからって……おい、こんな話ししてる場合じゃないんだって! とにかく、世界が注目してて、異世界はどんな場所なのか? これからどうするのか? そういうことを聞かれる可能性があるから、できるかぎり話してくれたら助かる」


 ……廊下に、秋雨会長たちが近づいてきていたので、俺は要件だけど伝えた。

 それからすぐに、部屋の扉がノックされ、こちらが返事をすると扉が開いた。



―――――――――――

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