第28話
澪奈は……ゴブリンリーダーを圧倒している。
……まあ、ステータスは完全に澪奈のほうが上回っているんだ。唯一張り合えている筋力も、澪奈の速度の前ではまるで当たる様子がない。
澪奈の斬撃がゴブリンリーダーの腕を掠め、ゴブリンリーダーの動きがどんどん鈍っていく。
魔物たちに出血という概念はないが、それでも斬られた部位は痛むようだ。
澪奈はヒット&アウェイに徹して、ゴブリンリーダーの腕を足を切り付けていく。
銃弾の雨を浴びせ、確実に削っていくが、澪奈は決定的な一撃を与えることはしない。
……生放送を意識しての演出を作っているんだと思う。
普段の澪奈なら、即首をはねているだろうが、その連続攻撃を受けてなお、倒れないゴブリンリーダーにコメント欄も盛り上がっている。
〈激しいバトル……〉
〈澪奈ちゃん、がんばれ!〉
〈やっぱり、Gランク迷宮とはいえ、ボスモンスターともなると強いな……〉
〈確か、Gランク迷宮のボスモンスターってEランク迷宮の雑魚くらい強いんだろ? そりゃあ苦戦するよな……〉
〈これにゴブリンもいたらと思うと……マネージャーさん。ゴブリンはどう?〉
俺が頭を踏みつけて押さえているゴブリンが気になるというコメントがあったので、ちらとだけ映しておいた。
〈草〉
〈このゴブリン。マネージャーに踏みつけられててうらやましい〉
〈ある意味ご褒美ですね〉
〈四肢潰されて何がご褒美だ〉
すぐに澪奈のほうへカメラを戻すと、澪奈の目が一瞬だけこちらを向いた。
……澪奈の表情から、そろそろ決めるのだというのが分かり、俺はほぼ動けない状態のゴブリンから足をどけ、澪奈のほうに少し近づく。
「が、アアアアア!」
ゴブリンリーダーが咆哮を上げ、それまで見たことのない回転攻撃を放った。
澪奈は持ち前のステータスで後方に飛んでかわし、その回転の隙間を縫うように剣を振りぬいた。
タイミングは完璧だ、ゴブリンリーダーの首に剣は食い込み、そのまま跳ね飛ばした。
ゴブリンリーダーの目が驚いたように見開かれ、その目から光が消えていく。
〈おおおおおお!〉
〈見事なカウンター!〉
〈澪奈ちゃん、オメデトウ!〉
【ショップに新たなアイテムを入荷しました】
そんな声が聞こえた。
……たぶん、このタイミングということは【鼓舞】だろう。
ショップで確認してみると、【鼓舞】が追加されている。150万ゴールド。こちらもすぐに買える代物じゃないなぁ……。
澪奈のほうに近づくと、彼女は疲れたような表情とともに額の汗を軽くぬぐい、ピースを作った。
「なんとか、なった」
……ちょっと過剰に動きすぎたせいで、かなり疲れているようだ。
倒れたゴブリンリーダーが、素材をドロップする。
素材と魔石と、装備か。装備は後で詳細を確認するとして、ひとまずは……この後について調べないと。
ゴブリンリーダーがこの迷宮のラスボスだったのか、中ボスだったのか。
……その時、迷宮ががたがたと揺れ始めた。
「な、なに?」
その揺れに驚いたように澪奈も声を上げ、コメントも伸びていく。
〈迷宮揺れてる?〉
〈そんなの聞いたことないぞ?〉
……だよな? 俺も決して迷宮のすべてを知っているわけではないが、こんな現象は初めて聞く。
攻略の終えた迷宮は魔物が出現しなくなり、数日が経って消滅する……というだけのはずだ。
そして――
【摩訶不思議のダンジョンの再構築を行います。――ダンジョン利用者の能力から最適のダンジョンの再構築を実行。再入場をお願いします】
その声が聞こえた瞬間。
「きゃ!?」
「うお!?」
俺たちは迷宮の外へと弾き飛ばされた。
見れば、六畳間の俺の部屋だ。派手に飛ばされた俺が地面に尻もちをうち、その上から澪奈が降ってきた。
「あぎゃっ!?」
「ごめん……大丈夫?」
「と、とりあえずは……」
澪奈に押しつぶされる形で、俺はすぐにカメラを迷宮のほうへと向ける。
〈澪奈ちゃんに潰された!?〉
〈そこ変われマネージャー!〉
〈なんというご褒美! ずりー!〉
〈潰してください ¥10000〉
……いや、今はそれよりもこの迷宮に注目してほしいんだけど。
「……攻略、されてない?」
澪奈が言うように迷宮は黒い渦のままだ。通常、攻略されている迷宮は白い渦となり、やがて完全に消滅する。
「マネージャー。さっきのって、迷宮攻略したときのものに似てたと思うけど」
「……そうですね。でも、さっき外に出される前に声が聞こえませんでした?」
「……声? 聞こえてない」
「……」
どういうことだ?
さっきの声は俺にだけ聞こえたのか?
……だとしたら、これに関しては深堀りしないほうがいいかもしれない。
コメント欄からの質問が増える前に、次の話題を振ろう。
「……一度、中の様子を見てみましょうか?」
「……うん。コメント欄も、もし知っていたら教えてください」
〈この現象、今調べてるけどまったくヒットしない〉
〈なんかこの配信見ていた有名冒険者もおかしいって言ってるぞ?〉
〈イレギュラー発生のおかげか、視聴者どんどん増えてるな〉
……本当だ。見ればいつの間にか5000人まで増えている。
コメント欄を見ると、どうやらそこそこ有名な冒険者が俺たちの配信を見ていたらしく、その人がTwotterで呟いたのが理由のようだ。
さっきの迷宮の変化を見て、コメント欄も困惑しているし、情報が何もない。
……不安ではあったが、俺と澪奈は並ぶようにして迷宮の内部へと踏み込むと、そこには青空が広がっていた。
それまでの洞窟のような迷宮ではなく、まったく新しい別の迷宮だ。
遠くには山が見え、洞窟のようなものもある。周囲には森林や草原などもあり……これまでよりも開けた空間がそこにはあった。
「さっきとまったく違う」
澪奈が驚いたようにぽつりと声を漏らす。
それは澪奈だけでなくコメント欄もだった。
〈何これ?〉
〈さっきまでの迷宮とまるで違う?〉
〈まったく同じ場所にまた別の迷宮ができたってこと?〉
コメント欄がさらに伸びていく。このイレギュラーは、誰も知らなかったからこそ、議論するようにコメント同士で会話が行われていく。
……さすがに、この状況は想定していなかった。
澪奈にスマホを渡しながら……俺は先ほど聞いた声を思い出していた。
【摩訶不思議のダンジョンの再構築を行います】
……ああ、きっとそれが原因だろう。
でも、一体なぜ?
明確に迷宮を管理している者がいて、その者が俺たちに合わせて新しい迷宮を作った……のか?。
その理由までは、分からないが。
「……とりあえず、ピース」
混乱の極みに達したのか、澪奈が自撮り風にスマホを傾け、ピースをしていた。
そして、このイレギュラーのおかげもああってか……視聴者は10000人を超えていた。
―――――――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
楽しんでいただけた方は☆☆☆やブクマをしていただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします!
※☆は目次やこのページ下部の「☆で称える」から行ってください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます