第17話


 そんなことを考えながら迫りくるゴブリンの攻撃をかわす。

 ……ステータスでは上回っているが、【鼓舞】まで使われて五体の連携攻撃となるとちょっと厳しい。


 ただ、ゴブリンリーダーを倒すつもりで俺は戦っていないので、捌くのは難しくない。

 攻撃をかわし、ゴブリンだけを仕留めながらゴブリンリーダーの動きを観察して情報を集めていく。


「ガアア!」


 咆哮をあげると、再びゴブリンが召喚された。

 ゴブリンリーダーは、ゴブリンがすべて倒されると新たにゴブリンを召喚してくる。

 その数は毎回四体だ。


 そしてこのゴブリンたちは経験値を生み出してくれる。


「……迷宮の中でゴブリンを探して歩くより、効率いいなこれ」


 ゲームとかで仲間を呼ぶ魔物をひたすら倒して経験値を稼いだり、色違いを出したりしたよなーなんてのんきに考えながら、ゴブリンを倒していく。


 経験値を稼ぎながらも、ゴブリンリーダーの行動パターンについて情報を集めていく。

 基本は近接での攻撃だ。【鼓舞】は一定時間で効果が切れるようで、ゴブリンたちの効果が切れたところで再度使用する。


 ゴブリンが一体でもいれば、ゴブリンリーダーは仲間を呼ぶことはしないようだ。

 ……効率よく戦うなら、ゴブリンを一体残したまま戦闘するのが良さそうだ。

 澪奈がゴブリンリーダーと戦う場面を撮りたいのなら、俺がゴブリン一体をひきつけ続けるのがラクそうだ。


 倒したゴブリンたちのドロップを集めながら、ゴブリンリーダーの攻撃をかわす。

 ……速度は俺のほうが高いから余裕があるとはいえ、こちらの攻撃は通りにくい。

 体力のステータスが高いから、防御力があるのだと思う。


 筋力をもう少し上げないと、安定してダメージは通りそうにないな……。

 澪奈のステータスポイントの割り振りも、ゴブリンリーダーを基準に考えたほうがいいかもしれない。


 あるいは、魔法力方面を伸ばすか。

 恐らく精神か魔法力の数値が魔法防御力を示していると思う。ゴブリンリーダーはそちらの方面は決して高くはないため、そちらにステータスを割り振っていけばもう少し楽に戦えるかもしれない。


 ……装備品で魔法力を補うか? いや、でも魔法力を補うとなると完全に澪奈専用装備になっちゃうんだよな。

 筋力、速度をあげる装備だと俺と澪奈で兼用できる。


 RPGとかでも、お気に入りのキャラの装備を新調して、古い装備をとりあえずベンチのキャラにつけるみたいな。

 もちろんベンチは俺だ。


 澪奈を最優先で強化してあげたい、安全のためにも。


 お金に余裕がある場合なら全員新調できるが、今はそこまでの余裕がないからな。

 澪奈の装備を整えるだけでもぎりぎりだ。

 ゴブリンリーダーのところで、疲れるまでゴブリンを狩った俺はダッシュで九階層へと戻る。


 たぶん、時間をかければ倒せるとは思うが、もちろん倒すことはしない。

 ゴブリンリーダーの行動パターンは十分分かった。

 体力が減った時に変化する可能性はあるが、さすがに相手のHPバーが見えているわけではない。

 うっかり倒してしまったら配信で使えるネタがなくなる。

 相手の体力をうまく削る手段がないので、調査はここで中断だ。


 九階層についた俺は、稼ぎを確認するためにショップを開く。

 今の手持ちは十三万ゴールドか。

 昨日と今日で結構稼げたな。時間は十一時か。


 ……あっ、今日の午後からは冒険者資格講習があるんだった。

 十三時から市役所の一室で行われるが……全力で走っていけばぎりぎり間に合うか?


 先ほど稼いでレベルアップした分のポイントを速度に割り振る。

 それから、ゴブリンたちを無視して部屋目指して走り出した。


 茅野圭介 レベル13 筋力:39 体力:13 速度:51 魔法力:13 器用:13 精神:13 運:13

 ステータスポイント:0

 職業:【商人】

 装備:【ロングソード 筋力+3 速度+3】【速度のネックレス 速度+18】【筋力のネックレス 筋力+18】【速度のネックレス 速度+9】


 装備合計:筋力+21 速度+30

 ステータスポイント割り振り:筋力+5 速度+8




『澪奈マネージャーからの確認。今日の十三時に冒険者資格講習だから』

『ちゃんと着きましたよー』

『よろしい』


 澪奈からのLUINEがきていて、そんなやりとりをかわしてから俺は役所へと入っていく。

 入ってすぐのところに、『本日4階にて冒険者資格講習実施』という看板がおかれており、運動がてら階段で四階へと上がる。

 最近は迷宮に入って体を動かしているからか、運動していた高校時代並みに体が動くかもしれない。


 いや、今ならあの時よりも動くか。今ならプロ野球選手も目指せるかもしれないが、冒険者だからそもそも土俵に上がれないんだよな。

 冒険者はドーピングと同じ、という感じでスポーツからは排除されてしまっている。

 生まれた瞬間にスキルを持っている人たちは、ある意味で差別されてしまうのだ。


 まあ、今時はスキルを持っていない子どものほうが悲しむことが多いんだよな。

 そんなことを考えながら四階についた俺は、入口にて受付を済ませて中へと入る。

 白いテーブルと簡素なパイプ椅子が並んだ部屋には、ちらほらと人がいる。

 受付の名簿欄を見たが、今日の受講者は確か三十名ほどだった。


 年齢層もバラバラのようで、先に到着している人たちには澪奈くらいの高校生もいれば、俺よりも年上の人もいる。

 ……もう年金もらっているのでは? と思えるような老人もいて、本当に様々だ。


 スキルは基本的に生まれ持ってのものだが、のちに覚醒する場合もあるからな。

 老後に覚醒してスキルが手に入る場合もあるからな。

 周囲の人たちを見ていくと、ほぼ全員がレベル1だ。

 ステータスも皆あまり高くないのは、まだ成長していないからだろうか。

 ステータスポイントは、まちまちだがやはり割り振られずに残ったままの人が多いな。


「茅野さん。講習の前にまだ時間ありますし、先に能力検査だけ受けちゃいますか?」

「分かりました」


 職員に呼ばれた俺は、検査を開始する。


「それでは、検査しますね」


 ……俺の場合は覚醒ではなく、入場ボーナスによる強化だし、他の人たちと色々違う部分があるが、そんな前例がないので覚醒者として扱われるだろう。

 言われた通りに待っていると、検査機を向けてきた職員がにこりと微笑む。


「Fランクですね。おめでとうございます」


 Fか……?

 俺のステータス的に、澪奈と同じEランクくらいはありそうだと思ったが。

 装備品の分は計算されていないのか?


 あるいは、これは総合力だから澪奈のようにスキルが優秀だとそれに引っ張られる可能性がある。

 ……いや、そもそもこの機械も万能ではない。

 澪奈のスキルを二つも見落としているわけだしな。


「ありがとうございます」

「スキルは……えーと……あれ? 反応ないですね。何か自覚できているスキルってありますか?」


 ……この機械に俺のスキルがどう判定されるのかと思ったが、反応しないのか。

 でも、ステータスはFランク冒険者並みになっているからきちんと俺の能力は判定できているんだろう。

 こういった機械のエラーはよくあるのか、職員も慣れている。

 ……俺のスキル、か。なんと答えればいいか迷ったのだが、


「特に……自覚できているスキルはありませんね」

「そうですか? それでは冒険者資格を入手してからも、迷宮にはなるべく入らないようにしてくださいね?」

「分かりました」


 冒険者資格は身分証としても使えるので、獲得だけできれば生活もかなり変わる。

 スキルの有無で強さは大きく変わるので、職員の注意も分かる。

 

「それじゃあ、こちらで発行しておきますので検査にご協力ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 ぺこぺこ頭を下げていると、澪奈からメッセージが届いた。


『そういえば、動画勝手に上げてごめんなさい』


 ああ、あの動画の件か。



―――――――――

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