第18話
『俺も気遣わせて悪かった。別に批判もされてないしおっけーで』
『やった。これでマネージャー出ても問題なし?』
『あくまでメインは澪奈だから、邪魔しない程度にならな』
『それだとカップルチャンネルらしくない』
『らしくなくて結構』
むすーっと怒ったクマのスタンプが送られてくる。
澪奈の慣れた冗談だが、声と違って文字だとさくっと流すことができないな。
『お昼ちゃんと食べた?』
『昨日澪奈が用意してくれたおにぎりを区役所で食べてるところ』
『それは良かった。今日は放課後いけそうだから行っていい?』
『了解。講習が十七時までだからたぶん十七時三十分くらいの帰宅になるけど大丈夫か?』
『分かった。ダーリン、寄り道しないように』
『へいへい』
澪奈のその場のテンションに任せたようなメッセージに苦笑していると、講習の時間となった。
講師として現役冒険者がやってきて、冒険者についての話をしていく。
冒険者に関する法律の教本などを渡され、冒険者の禁止事項やルールなどについて話していくようだ。
道端で武器を抜かないとか、スキルを使用しないとか……まあ常識的な話だ。
どれも知っていることだったので時間がとても長く感じたが、無事講習は終わり、冒険者カードが発行される。
これで、今後はギルドが利用できるようになる。
冒険者カードには俺の現在のランクが表示されている。スキルまでは表示されていない。
ただ専用のアプリを使い、冒険者カードに登録されているIDとパスワードを入力すれば、詳細な情報を見ることができる。
パスワードは先ほど入力してきて、さっそくアプリで確認してみる。
これまでのギルドの依頼達成数などもここには連携されている。
……あとは、迷宮で手に入れた素材の売却履歴などか。
ここにある情報をそのまま確定申告関係のアプリに連携させればいいので、確定申告の際には非常に楽になる。
税金関係に関しては最低限は勉強したので問題ない、と思う。
冒険者の仕事で使う道具なども経費として落とせるんだよな。
ふと思ったのは俺が【商人】のショップで装備を買うのとかって実際どうなのかという気持ちだ。
どこから仕入れているのか……とかの今更な疑問はおいておくとして、国に税金を取られながらも現実で買い物したほうがいいのだろうか?
それとも、素材をゴールドに変換して、そのまま買い物をしたほうがいいのだろうか?
講習を終えた俺はさっそく冒険者カードを使って店を見て回りたい気持ちもあったが、澪奈が待っているので急いで家に向かった。
家に戻ってきた俺は、軽く伸びをしてから玄関を開ける。
キッチンからふわりと、いい匂いが漂ってきた。
澪奈が料理を準備してくれていたようで、皿に野菜炒めが乗っていた。
ちょうどお肉も焼いているようだ。野菜炒めの乗った皿にはラップがまかれている。
一度、実験的にインベントリに皿ごとしまったことがあるのだが、取り出すときに少しこぼしてしまったことがあった。
ラップをしておくことで乱暴に扱わなければ問題ない、というのは検証済みだ。
おまけに、インベントリ内は時間経過がしないようなので、温度はそのまま新鮮な状態を維持できるというわけで、冷蔵庫も不要なんだよな。
「おかえりダーリン」
「ただいま、ダーリンじゃないけど」
澪奈が制服姿のまま料理をしている。
……澪奈って私立に通っているので、その制服を汚さないか心配だ。
「講習はどうだった?」
「疲れたって感じだな……」
「まあ、常識的なことの再確認だから。そういえば、昨日母さんと父さんには事務所でのやり取りについて話しておいた」
肉を痛めている澪奈は、そのままの調子で言葉を口にしていた。
「ど、どうだった?」
緊張でどもってしまった。
澪奈がもしも今の活動を続けられないとなると、ここですべて終了だからだ。
俺は再就職先を探さないといけなく、澪奈は……まあ、別にそこまで痛手もないか?
そんな俺の心配とは裏腹に、澪奈は淡々と口を開いた。
「今の活動はそのまま続けていいし、マネージャーとの関係もオッケーだって」
「……そうか。それならよかった」
「お父さんもお母さんも、『娘をよろしくお願いします』って言ってたから」
「そっか。……応援してくれてるんだもんな。頑張らないとな」
「うん。孫の顔も見せないと」
「孫は関係ないぞ」
「今は、ね」
澪奈は微笑を浮かべていたが、それ以上追及してもぐだぐだといつもの言い合いが始まるだけだろう。
とにかく、応援してくれている人たちがいるんだし、情けない姿は見せられないな。
夕食ができあがったところで、澪奈が迷宮へと視線を向ける。
「マネージャー。今日は迷宮入ったの?」
「一応午前中にな。それで、情報をまとめておいたよ」
今日分かった迷宮の情報についてを澪奈にメモしていたデータを転送する。
澪奈がそれに目を通しながら問いかけてくる。
「ゴブリンリーダーは私が今挑んでも勝てそう?」
「余裕、とはいかないな。でも、ステータスポイントを割り振ればどうにかなると思う。あと、経験値稼ぐなら十階層がめっちゃ効率良かったな」
「確かに……雑魚をずっと呼んでくれるなら凄い便利。ゲームでこういう稼ぎ方したことある」
「そうだよなっ。いや、俺も戦闘中に同じことを思ってな。とりあえず、今後はそこでレベルをあげていくのがいいと思うんだよ」
意外なところで意見があったな。
今後のスケジュールについて打ち合わせていくと、澪奈が首を傾げてくる。
「今週の放課後に、生放送を行って魔物狩りをしていくってのは大丈夫?」
「大丈夫だ。ただ、制服のままだと学校が特定されるから、なんでもいいから服を用意しないとだな」
まあ顔出しで活動している時点であれだけど、制服まで分かるとさすがに問題だからな。
「そっか。それなら服はマネージャーのインベントリに預けておいてもいい?」
「ああ。大丈夫だ」
「すーはーしてもいいからね」
「しないぞ?」
「しないの!?」
「今までに聞いたことないくらいの声上げるじゃん……しないって」
「私はしたのに……」
「絶対澪奈に服は預けないからな……ん? した?」
今聞き捨てならない発言が聞こえたような……。
「とりあえず……今日はちょろっと迷宮で体動かして明日から時間があるときに生配信? でも時間帯は考えたほうがいい?」
「そうだな……澪奈のことを考えると、二十時くらいまでには切り上げたいけど、むしろ二十時から二十二時くらいが一番視聴されるんだよな……」
社会人や学生などが落ち着きだす時間帯だからだ。
……まあ、俺はまだそのときは職場にいることがほとんどだったけど。
「それなら大丈夫。両親には伝えておくから」
「……んー、まあ分かった」
今は事務所も関係ないので、時間に関しては自由だな。
あとは、夜遅くなってから出歩くのが問題になるくらいか。
二十二時以降だと補導される可能性もあるしな。
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