第19話

「それなら十九時三十分からの二時間くらいでどうだ? 出発はもうちょっと早めにするとして、迷宮から出てきて家に戻れば二十二時までには着くよな?」


 澪奈の家までここから歩いて三十分くらいだ。俺たちのステータスも上がっているので、走ればもっと早く着くだろう。

 俺の提案に、澪奈が名案を思い付いたような顔を作る。


「毎日泊まれば問題ない?」

「別の問題があるからダメだ」

「そっか……子どもができちゃうもんね……」

「両親が心配するからだ!」

「両親の心配……学校行きながらの子育ては大変とか?」

「すでに手を出したあとじゃねぇか! 違う。もっと単純な心配だ」

「でも、毎日は無理でも金曜日くらいはいい? できるだけ長く生放送して、皆に見てもらいたい。それに、順当にいけば金曜日くらいにゴブリンリーダーと戦ったほうがいいと思う」

「……そう、だな」


 配信というのは、難しい。同じことをだらだらやっていても、既存のファンなら喜んでくれるが新規の獲得は難しい。

 常に、新しいコンテンツを提供していかないとすぐに飽きられてしまう。


 ……世の中、たくさんの配信者がいるわけだしな。その中から澪奈を選んでもらうには、やはり面白いものを提供し続ける必要がある。


 あまり一つのコンテンツをいつまでも引きずらないようにしなければならない。


 そう考えると、火曜日と木曜日はできないと澪奈が言っていた。

 ……動画をあげてから何も活動しないとそれはそれでファンの子たちを心配させるだろう。


 水曜日で簡単に十階層までを配信して、それから金曜日でボスとの戦闘を行うのがちょうどいいだろう。


「金曜日より、土曜日のほうが視聴者増える?」

「まあ、増えるかもしれないけど、そのために一日先延ばしにしてもな。毎日行動していったほうが視聴者もついてきやすいと思う」

「そっか。それなら、金曜日は攻略して祝勝会でお泊りで」

「……お泊りって……はあ、分かった。その代わり、親御さんにちゃんと確認しておくんだぞ」

「分かった」


 今日澪奈の家に行った時に両親にも挨拶をしておこう。

 澪奈から話したとはいえ、やはり直接話したほうがいいだろう。


「それじゃあマネージャー。これからちょっと迷宮で体動かしに行ってもいい?」

「ああ。そうだな。俺ももうちょっとレベル上げておきたいしな」


 明日からが本番なので、今のうちにできるだけ準備しておいたほうがいいだろう。




「マネージャー。早速で悪いんだけど、ステータスの割り振りをしたい」

「決めたのか?」

「うん。筋力と速度を中心に割り振っていこうと思う」

「そうか」


 澪奈のステータスを改めて確認する。


 神崎澪奈(かんざきれいな) レベル15 筋力:13 体力:8 速度:13 魔法力:15 器用:9 精神:9 運:9

 ステータスポイント:62

 スキル:【氷魔法:ランク3】【剣術:ランク1】【銃術:ランク1】

 装備:【なし】【なし】【なし】【なし】


 前よりも成長しているのだが、ステータス全体が強化されているわけではない。

 戦闘で使っている部分に、少しずつ割り振られている感じだ。

 今のステータスをメモして澪奈に見せると、彼女は数字の入力を行っていく。


「こんな感じで割り振ってもらってもいい?」

「分かった。それじゃあちょっと触れるな」

「う、うん」


 澪奈が手を差し出してきたので、その手を握る。

 澪奈の頬が徐々に赤くなっていき、俺はその間にステータスを割り振っていく。


 筋力+25、速度+25、器用+12だ。


 その結果、澪奈のステータスがこうなった。


 神崎澪奈(かんざきれいな) レベル15 筋力:38 体力:8 速度:38 魔法力:15 器用:21 精神:9 運:9

 ステータスポイント:0

 スキル:【氷魔法:ランク3】【剣術:ランク1】【銃術:ランク1】

 装備:【なし】【なし】【なし】【なし】


 ここにさらに、澪奈にはロングソードとハンドガンを装備してもらうことになるので、もう少し実際のステータスは高くなる。


 ……強いな。

 ステータスポイントと装備で補っている俺と同じくらい強くなっている。


 これまで澪奈は細々とであるが冒険者として活動していた。

 それに追いつけるくらい成長しているだけ、俺だって負けてはいないだろう。


「澪奈は、【剣術】主体で戦うってことでいいんだよな」

「そっちのほうがソロだとやりやすいし。【氷魔法】は溜める時間が必要で、やっぱり隙が大きいから」

「なるほどな」


 【氷魔法】は確かに強いが協力者が不可欠だ。今の澪奈だと使い勝手はあまりよくないだろう。

 中距離は【銃術】で、近距離は【剣術】で戦ったほうが確かに使いやすそうだ。


「それに、筋力あげていかないと既成事実を作るときに押し倒せないから」

「やめろよ? 紙面に載るようなことは」

「それはマネージャー次第」


 ……俺も、もっとレベルをあげたほうがいいかもしれない。

 ステータスの割り振りが終わったところで、澪奈がこちらにカバンを向けてきた。


「あとマネージャー。武器と装備を買いたい」


 澪奈がさしだしてきた鞄には、ざっと見ても百万を超えるお金が入っているようだった。


「……おまっ! 現金を鞄に無造作に入れるんじゃない! ……でも、いいのか? これまで澪奈が稼いできたお金だろ? 他のことに使ったほうが――」


「私も本気で冒険者活動頑張りたい」

「……」


 冒険者の数が増えたとはいえ、まだまだトップ層の冒険者で配信を行っている人は少ない。

 他の人に自分の情報を公開したくない人はもちろん、そもそも迷宮内で生放送や撮影を行うのは危険だからだ。






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