第67話





「それは分かってる。でも、名誉棄損で裁判をしたとしても結果が出るまで時間かかる。私たちにとっては今が大事。今すぐに、あの社長がでっち上げのデタラメを言っていると伝えたかった。……実は、私が有名になってから、社長が電話をかけてきた。そのときの音声も残っていて、それがこれ」


 ……澪奈個人にも連絡があったのか。

 澪奈が音声を再生すると、そこから声が聞こえてきた。


『元社長? 何か用ですか?』

『久しぶりだな澪奈。あの無能マネージャー捨てて事務所戻ってきな。あのときのことはチャラにしてやるから』

『そっちが勝手にチャラにする分には構わないけど、私はチャラにしないから』

『ああ? 調子乗ってると犯すぞ?』

『……警察に訴えますけど?』

『はっ、警察なんざでビビると思ってんのか? オレはこれでも、元Dランク冒険者だぞ?』

『……とにかく、戻る気はありませんから』

『……んだと!? てめぇを育てるのに、どんだけ金かけてきたと思ってんだよ!』

『マネージャーにはお世話になりましたけど、社長のお世話になったことはありません。それでは』

『てめぇ……ぜってえ後悔させてやる!』


〈マジでこの社長、やばくないか?〉

〈クスリとかやってんじゃねぇのか?〉

〈普通にこれ刑事事件でいけるんじゃないか?〉

〈というか、未成年に強要していたってのは澪奈ちゃん以外にもあるみたいだし、普通にそっちを通報したわ〉

〈今社長がTwotterでぶち切れてるぞ〉

〈『音声を無断で録音された。法的裁判に出る予定』らしい〉

〈草。自ら負けに行くとかウケる〉

〈ドМなんだな……社長〉


 確かに、Twotterですげぇな。

 社長がほとんど毎秒ツイートしているのだが……そちらに対しては批判が殺到している。

 もはや、社長の言葉を信じている人は誰もいないくらいだ。


「……それと、これがさっきマネージャーが電話したときに社長が言ってくれたこと」


 そして澪奈はここぞとばかりに先ほど手に入れた出来立てほやほやのネタを提供する。


『……社長。さっきの配信みていました。今すぐ再開して、俺たちのことを否定してくれませんか? 名誉棄損で訴えますよ』

『名誉棄損んんん!? 訴えればいいじゃねぇか! いいぜ! いくらでも金払ってやるぜぇ! だけどだけどだけど……? おまえらについた悪評はどうなるかなぁぁぁぁ? 裁判結果でるまで、きえまえせーん! というわけで、オレ様に生意気言って戻ってこなかったおまえたちはここでオワリ……なんだよー! ひゃはははは! ざまぁみろ! オレも終わりだけど、てめぇらだけがうまくいくのは気に食わねぇからな! 道連れだこのヤロウ!』

『……分かりました。嘘だと、言うつもりはないってことですね? 本当に訴えますよ?』

『嘘ねぇ。じゃあ配信再開して言ってやろっかな? 澪奈とマネージャーから、「嘘だと言ってください」って泣きつかれたってよぉ! それ見たバカな視聴者たちは何を思うかねぇ?』

『本気で、訴えていいんですね?』

『ああ、いいぜ! ま、もう手遅れだけどねーん。嘘だとしてもなぁ、先に情報を公開したこっちの勝ちだからな! オレの勝ちぃ! ネットの馬鹿ども、アンチどもは餌を見つければそれに群がるからよぉ! 全部嘘でも、疑念は残ったままだ! ははっ、オレのいうこと聞いてりゃあ、今頃うまい汁吸えたのによぉ』

『……そうですか、分かりました。失礼します』


〈草〉

〈でも、実際ネットの奴らは群がってたなぁ〉

〈この社長のいうとおりだったもんな……〉

〈そういうところに頭が回るくせに録音されているとかの証拠を残されていることに関してはまったく考えないの草〉

〈まあでも、詰めの甘いやつっているからな……〉

〈気持ちよくなりすぎてべらべらしゃべっちゃったんだろうな。気持ちは分からないでもない〉

〈でも、ここまでだとさすがに露骨すぎないか? 澪奈をよくしようと社長も手を組んでるんじゃないか?〉

〈社長に何のメリットがあるんだよそれ〉


 ……アンチはまだ残ってるのか。

 まあ、もう完全に消すのは難しいよな。


「とにかく、これで私の配信は終わりにします」


 そこで一度言葉を切った澪奈だったが、まだ何か話す様子を見せていたので配信は切らない。

 そうしていると、


「……最後に。私は……好きな人と以外はそういうことはしません」


 澪奈は少し顔を赤くしてから、叫ぶ。


「だから、私はまだ処女……! 好きな人に、この初めてはあげるんだから! 以上! それじゃあ、今日はもうこれで終わりだから! マネージャー! 配信終了にして!」


 澪奈が俺のほうを見てきたので、慌てて俺は配信を切った。

 澪奈がそこまで話す必要はなかったと思うが、それだけ澪奈も本気ということだろう。


「澪奈……」

「……とりあえず、今日はこれで終わり。これで、私のほうに飛び火しなければそれでいい」

「……そ、そうだな」

「最後の」


 澪奈がそう言ってちらとこちらを見てくる。


「私、嘘は言ってないから」

「……それ言われてどうすればいいんだ?」

「……昔」


 澪奈はぼそりと口を開いた。


「……私、髪とか容姿とか、能力とか……色々自分のことが嫌だったとき……マネージャーが、私を肯定してくれた」


 澪奈はそれから頬を染めながら、笑顔とともにこちらを見てきた。


「……私にとって、それが凄い嬉しかったってこと。マネージャーは、あんまり考えてない」

「……それは――」

「私を惚れさせたんだから、覚悟してってこと」

「……」


 澪奈は配信の勢いが残っていたのか、少し頬を赤らめながらそう言ってくる。

 俺は一応マネージャーだし、澪奈は高校生だし……そう言われても俺にはどうすることもできないだって……っ。

 俺のそんな気持ちとは裏腹に、澪奈は良い笑顔で帰り支度を済ませていった。


―――――――――――

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