第96話


 秋雨会長との話を終えた俺は、和心クランについて調べていた、


 二人とも、最初の検査の時点でCランク程度の評価を受けていて、そこから今の立ち位置にまで成長したようなのだ。

 冒険者というのは、才能ありきの仕事とされていて、最初に与えられたステータスから大きくは成長しないとされている。


 もちろん、覚醒などの例外もあるため、あくまで一般的な話ではある。


 生まれ持っての才能、という部分には同意であるが、身体能力的な部分に関しては努力でいくらでも補えるのではないか、とも思っている。


 例えば、澪奈はスキルに関しては類まれな才能と評価できる。

 ただ、ステータスに関してはごく一般的な冒険者たちと大して変わらない。

 しかし、これまでに積んできた鍛錬のおかげもあり、ステータスポイントは多く持っていた。

 今だって戦えば戦うほどに獲得してきているわけだしな。


 そして、世の中の人たちの覚醒、と呼ばれている現象はこの溜まっていたステータスポイントが適切に割り振られることで起きるのではないか、と思っている。


 ネットなどの覚醒者の記事を見ても、『長年冒険者活動をしていた甲斐がありました……!』みたいなコメントしかないからだ。


 なんとなく、冒険者として成功するための道筋というものが分かってきたなぁ、とかのんびり考えながら今日も俺たちはレベル上げに励んでいた。


 今日は土曜日で、澪奈の生放送の日だ。

 以前渋谷エリアを紹介してから何度か生放送は行っていたのだが、ほとんど雑談配信になってしまっていたんだよな。

 さすがに視聴者も迷宮攻略のときよりは減っているため、今日はいよいよ新宿エリアに乗りこむつもりだ。


 コメント欄では、散々俺たちの成長の早さについて触れられていたが、それも恐らく正しくない。


 魔物を倒したときに経験値が入り、それが一定量に達するとレベルアップとステータスポイントが獲得できるのだが、この経験値は恐らく人数によって割り算されてしまう。


 この理論が正しいと、大手クランに入団した冒険者の成長が遅いことが多いということにも説明がつく。

 大手クランともなると、迷宮攻略の際に大人数を導入する。

 経験値が割り算されるとなれば、それだけ成長が鈍化していくからな。


 期待の新人ほど、より大人数の冒険者で手厚く指導するみたいだからな。


 ならば、ソロで挑戦すればいいが……ステータスポイントを自由に割り振れないとなると、いつまで経ってもうまく成長できない。

 そもそも、危険だ。

 最終的には、怪我などで引退する人も出てくるだろう。


 強くなるための道筋について考えながらウォーリアリザードマンを倒したところで近くで狩りをしていた澪奈がやってきた。


「そろそろ、部屋に戻って生放送の準備する?」

「そうだな……」


 レベル上げに夢中になっていたが、もういい時間だ。

 俺と澪奈は部屋へと戻り、配信の準備を行っていった。



 生放送の時間となった。

 いつものように澪奈のほうへとカメラを向け、生放送を開始する。


「皆さん、こんばんは。澪奈です」


 ひらひらと手を振る澪奈に、怒涛の如くコメント欄が流れていく。

 ……いつのまにか、配信を始めた瞬間に十万人の視聴者がいくほどだ。


〈登録者数100万人突破おめでとうございます!〉

〈これからも迷宮攻略頑張ってください!〉

〈また新しい迷宮がマネージャーの部屋にできるの楽しみにしてます!〉


 ……そう、コメント欄の言う通り登録者数も100万人を突破していた。

 一ヵ月と少しくらいでここまで増えたのに滅茶苦茶驚いたのだが、調べてみると早い人はもっと早いそうなので世の中には驚かされる。


 ここまで一気に伸びたのには澪奈の圧倒的な強さが関係しているだろう。

 ……昔は冒険者活動はほとんどおまけで、アイドル活動がメインだったというのに、今では完全に逆転しているんだよなぁ。


「そうなんですよね。登録者100万人も行きまして……ここまで応援してくれているファンの皆さんには感謝しかありません。ありがとうございます」


 ぺこぺこと澪奈が頭を下げると、コメントも増えていく。


「とりあえず、今日は100万人については脇に置いておいて、新しいエリアの調査を開始しようと思うので、よろしくお願いします」

〈脇で草〉

〈そういえば、記念配信とかまったくしてなかったな……〉

〈まあでも、まだまだ伸びるだろうしいいんじゃない?〉


 以前は俺がロケハンをしていたのだが、今週は俺も打ち合わせに忙しく生放送はしていなかった。

 それでも、出現する魔物くらいは調べてあるので、今日も安全に生放送ができる前提ではある。



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