第59話



「ここが、一つランクが上がっている荒地エリアになります」

「……澪奈さんの配信、すべて見たわけではありませんが迷宮の中に複数のランクのエリアがある可能性がある、というのは聞きましたね」

「そうなんですよ。それで、あそこにいるのがパワーワーウルフです」

「……ワーウルフが筋トレしたみたいな感じですかね?」


 橋本さんが撮影を開始すると、パワーワーウルフがこちらに気づき、跳びかかってくる。

 

 その速度は、先ほどよりもさらに速い。

 さすがにパワーワーウルフが相手となるとこちらも本気で相対する必要がある。

 振りぬかれた拳をかわし、カウンターに蹴りを放つが、パワーワーウルフは耐えてくる。

 その持ち前の耐久力を活かし、俺の足を掴んで来ようとするので、すぐに引いて逃げるように動く。


 パワーワーウルフ相手にはこちらの武器である速度を活かして戦う。

 足を動かし、拳と蹴りを叩きこんでいくと、


「ガアア!」


 パワーワーウルフが背中を向けてタックルを放ってくる。

 無駄のない最小限の動き。

 だが俺は、その動きを読んでいた。

 ……最近、【格闘術】のランクがあがったからか、敵のどの部位に力が集まっているのかが分かる。


 それが分かると、次はどのように動くのか、なんとなく予測できるのだ。

 俺が懐へと迫ると、パワーワーウルフが慌てた様子で腕を振るう。

 それをかわしながら、俺は親指で石を弾いた。


 魔力で生み出した石のような塊。

 ……昨日購入した【石投げ】の効果は、石のような魔力の塊を作るものだ。

 最大サイズは拳ほどの石まで。今使ったのは親指の爪ほどのサイズのそれで、こういった不意打ち程度に使うものだ。


 顔にものが当たり、パワーワーウルフが驚いたように動きを硬直する。

 その隙に懐へと入った俺は、腰を落として構える。


 パワーワーウルフは地に足をつけた攻撃が多い。その巨躯を活かした攻撃をするなら、そのほうが有利だろう。


 だから、まずは重心を上げる。

 攻撃をかわしながら懐へと入った俺は、地面を踏みつけながらその腹へと拳を振りぬいた。

 パワーワーウルフの上体がぐっとあがる。

 ……こうなれば、踏ん張りは効かない。

 

 魔物だろうと、空中を飛べるようなものでなければ、基本は地面を使って戦う。

 足が浮いている状態では、まともな攻撃などできない。

 パワーワーウルフも状況がまずいと思ったのだろう。こちらに腕を振りぬいてきたが、踏ん張っていない一撃は、赤ん坊の駄々っ子のようなものだ。


 動きも雑で、力のこもっていない一撃。……それでもまあ、ステータスに物言わせた攻撃なら一般人くらいは重傷なんだけど。

 最後のあがきによる一撃をかわした俺は、回転蹴りを放った。

 パワーワーウルフの腹部に直撃し、吹き飛ばす。魔力を込めた一撃にパワーワーウルフが呻くような声をあげ、意識を失って消滅した。


 パワーワーウルフが倒れたのを確認したところで、橋本さんをちらと見る。


「まだ戦闘見ますか?」

「い、いえ……大丈夫です。それよりいくつか質問してもよろしいですか!?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 橋本さんは俺とパワーワーウルフの戦闘で納めた写真をこちらに向けながら、戦闘に関しての質問を重ねてきた。

 攻撃のタイミングや、攻撃の仕方についての質問が多くあり、それらに答えると橋本さんはそれをすぐさまメモしていた。

 俺もあまり言語化は得意ではないが、体を動かしているときに意識している部分については伝えるようにしていた。

 迷宮を出るころには質問責めも終わり、橋本さんはとても満足そうにしていた。


「これだと、うちで扱っている冒険者雑誌のほうがいいかもしれませんね。本当は別の記事を書く予定だったんですけど……」

「それだったら、また何かインタビューしますか?」

「いえ。大丈夫です。また今度澪奈さんとのお二人がいるときにでもお願いします」

「分かりました」

「本日は貴重なお時間を割いていただき、誠にありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げてきた橋本さんに合わせ、俺も頭を下げた。

 橋本さんを外まで見送ったところで、俺は背中を伸ばした。

 ……ひとまず、これで仕事は終わりだな。

 あとは水曜日の配信まで、レベル上げでもするかな。





―――――――――――

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