第56話
「分かりました。ひとまずは来週の水曜日に、あちらの荒地エリアのロケハンをしてみて、継続するかは考えます」
〈おお!〉
〈アンケートしてよかったです!〉
〈頑張ってください!〉
〈楽しみにしてます!〉
「……ほとんどコメントは見られないかもですし、完全にソロになるのでカメラとかはかなり不安定になると思うのであまり期待しすぎないでくださいね」
〈もちろんです!〉
〈絶対見に行きます!〉
〈まあ、完全ソロだとそうなるよな……完全ソロでの配信者とかそうそういないしな……〉
……まあ、これに関しては仕方ない。
アシスタントを雇ってもいいが、お金の心配や信頼的な問題がある。
澪奈が俺に自由に振る舞える環境のほうが、澪奈自身がのびのびできるんだよな。
周囲の目があるときは、俺に対して踏みこんだ冗談を言ってこない。
ただ、澪奈としてはそれでストレス発散というかメンタルケアをしている部分もあるようなので、アシスタントを増やすと澪奈が自由に振る舞えなくなる可能性があるんだよな。
そうなると、今の澪奈の楽しそうな雰囲気が失われ、魅力が下がってしまうかもしれない。
奇襲などに関しては、ある程度俺たちが索敵できるようになったので、今はそこまで心配はしていない。
この迷宮に関して言えば、魔物もランダム出現ではないからな。
「それじゃあ、マネージャーへの質問もこの辺りで……結構いい時間になってきたから、そろそろ終わりにしましょうか。また来週です」
〈お疲れさまでした〉
〈お疲れですー〉
〈水曜日楽しみにしてます!〉
「マネージャーはTwotterのアカウントとか持ってないので、何か追加情報あれば私のほうで伝えます。それでは、最後にスパチャ送ってくれた方々のほう読み上げていきますね」
〈あっ、今ちょうど三十万人登録者行きましたよー〉
「え? ほんとだ。凄い、皆ありがとう」
澪奈が笑顔とともに手を振ると、コメント欄が加速する。
〈澪奈ちゃんの久しぶりの満面笑顔見た!〉
〈切り抜き確定! これで来週も頑張っていける!〉
〈可愛い! ありがと笑顔!〉
「……そんなに盛り上がらなくても。それじゃあ、改めてスパチャのほう読み上げてく」
ちょっとばかり照れた姿に、またコメントが伸びていき、スパチャも増えていく。
澪奈がそういって慣れた様子でスパチャを読み上げていく。
……そういえば、俺が澪奈の代わりをするならそれ含めてやらないといけないんだよな。
……当日はスパチャ投げられないようにしておくか?
配信を終えたあと。
俺は澪奈を家まで送るために街を歩いていた。。
今の澪奈はベレー帽にショートヘアーを押し込むようにして隠している。
もともとベレー帽は好きなようで、毎度いろいろなベレー帽を身に着けていたが、今はそれにサングラスとマスクをつけている。
……完全に不審者であるが、変装は完ぺきだ。
「最近はその恰好で歩いているのか?」
「目立たない場面では。目立ちそうな場所ではサングラスは外してる。けど、目の色も水色のせいで目立ちはする」
「そっか……もうすっかり有名だもんな……」
配信のときに指摘されていたが、登録者は三十万人を突破してるんだもんな。
Twotterのフォロワーも順調に伸びているので、もうすっかり人気者だ。
「……それに。最近は事務所の関係で変に注目されてるから」
「……だな」
そのせいか、最近は俺たちをつけている人間もいるようなのだ。
あとは、事務所時代の知り合いから取材できないかと連絡も来ている。そっちは、親しい相手なので、あとで対応する予定だ。
記者とはできる限り仲良くしておくに限る。
相手も仕事とはいえ人間だ。親しくしておけば、ある程度の行動に関して目を瞑ってくれるものだ。
「澪奈も感知できるんだよな?」
彼らに関しては、感知能力が向上しているので手に取るように居場所が分かる。
俺の問いかけに、澪奈も頷く。
「うん。だから、いくらでも逃げられるけど……まあ、あまり不自然な動きをするつもりあはに」
俺も同じだ。
こちらに注目している人間の気配はすぐに特定できる程度に、成長している。
これもスキルの影響もあるのかもしれない。
「これから自由に買い物とかできなくなるかも……でも、週刊誌に私とマネージャーの婚姻関係を伝えれば……外堀埋められる?」
「何物騒なこと考えてるんだ? まあ……最終的にどうするかはともかくとして、何か被害が出るようなことがあったら言ってくれ」
「うん、大丈夫。ていうか、私だけじゃなくてマネージャーも」
「俺も?」
「マネージャーも、言っておくけど凄い注目されてるから」
「……それ、澪奈が俺を少しでも動画に出そうとするからじゃないか?」
まあ、俺が少しでもチャンネル発展に役立っているなら別にいいけど。
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