第107話

「それじゃあ、今日は初めにも言ったとおり、ここで一度生放送は区切りましてまたあとで、いつもの迷宮で配信を行いますので、一度ここで区切りますね」

〈お疲れ様です!〉

〈またあとの生放送も楽しみにしてます!〉


 せっかく人が集まってくれてはいたが、あくまで俺たちはこの施設を貸してもらっているわけだからな。

 そこで生放送は一度中断し、澪奈が小さく息を吐いた。


「……ふぅ。皆さん、今日は協力していただいてありがとうございます」


 澪奈がぺこりと職員と秋雨会長に声をかけていくと、秋雨会長が微笑とともに首を横に振る。


「いや、許可を出しているのだから気にしないでください。……そして、改めて二人に問いたいのだけど……冒険者協会に入ることは……やはり難しいですか?」

「私は……そうですね。申し訳ありませんが、今くらいの立場で冒険者活動したいです」

「私も同じです。申し訳ありません」


 澪奈の言葉に合わせ、俺も同じように返す。

 しかし、秋雨会長は気にした様子はなく、首を横に振る。


「いや、いいんだ。今の君たちを見ていれば、今が楽しいというのが良くわかる。皆の手本となれるような冒険者になってくれたら、嬉しい限りだ」

「はい、分かっています」


 俺たちはそう言って、秋雨会長にお礼のつもりで頭を下げてから、検査室を後にする。

 ともについてきた職員が困った様子で声をかけてきた。


「今現在、表も裏もマスコミが張り付いていますので、出るのは至難の業だと思いますよ……」

「……そうですか。それなら、むしろ表から行きましょうか」

「え? そ、それですと他の冒険者の方々に注目されてしまって余計に大変なことになると思いますが……」

「いえ、大丈夫だと思います」


 俺と澪奈は顔を見合わせてから、気配を消すように意識する。

 ……すると、目の前で話していたはずの職員が驚いたように声を上げる。


「あ、あれ!? まるで消えたみたいに……」

「一応、気配を消すのに慣れているので。この状態なら、誰も声をかけてこないでしょう? それで、他の冒険者の出入りに合わせて外に出れば、問題ないと思います」

「な、なるほど……」


 まあ、どこまでうまくいくかは疑問が残るが。

 俺と澪奈はその作戦を実行するべく、表に向かう。

 ほかの冒険者たちに混ざるようにして外へと出る。

 ……外は、確かに記者たちが待ち構えていた。

 しかし、彼らは俺たちには気づいていなく、今も記者同士で雑談を行っている。


 変装した状態で気配も消せば、もはや誰も俺たちには気づけないようだ。

 これが、感知能力が高い人なら話は別だろうが、俺たちを超えるほどの人はそうはいないだろう。

 ともにギルドを出てきた冒険者集団に内心で感謝を伝えてから、俺たちは自宅へ向かって歩き出した。





 家に帰ってからテレビを見てみると、秋雨会長が会見を行っていた。

 ……すでに俺たちが帰宅したあとだということを伝えると、マスコミたちからは驚きとともにいくつもの質問が浴びせられていく。


 なんか、色々秋雨会長に押し付けてしまって悪いことをしてしまったな、という気分である。

 とはいえ、代わりに残ってマスコミの対応をするつもりはなかったので、俺たちにできることはこれ以上なかったわけだが。


 これが事務所にでも所属していれば否応なしに対応する必要があったので、今くらいの立場のほうがいいという気持ちはやはり強い。


 部屋に戻ってきた俺たちは、昼食をとってから生放送を再開することになる。

 カメラの確認を終えたところで、生放送を開始する。

 ……途端に、爆発するかのように視聴者が増えていく。

 あっという間に十万人を超えたのは、先ほどの再検査のおかげだろう。


「皆さん、久しぶりです」

〈測定生放送見ていました!〉

〈Sランク冒険者おめでとうございます!〉

「ありがとう。今日はこれからいつも通り、迷宮潜って雑談配信します」

〈楽しみです〉

〈そりゃあ、Sランク二人もいたらAランク迷宮相手にも苦戦は少ないよな……〉

〈だからって、魔物狩りながらの雑談配信は草〉

〈俺、最近雑談配信の意味が分からなくなってきたよ……〉


「あっ、マネージャー。武器とかまだ受け取ってなかった」

「……そういえば、そうでしたね」


 普段ならば生放送の前に澪奈に装備一式を渡しておくのだが、今はまったく用意していない。

 ……こういうことがあるので、俺はインベントリだけはスキルの一つとして公開することにしたんだよな。

 澪奈にインベントリから出したロングソードとハンドガンを手渡すと、再びコメントがあふれていく。


―――――――――――

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