第7話


 次の日。

 ……いつものように午前四時に目が覚めてしまった。

 ここから支度をして出勤するのだが、俺はもう仕事を辞めたからな……。


 晴れやかな気分だ。


 そういえば、『ライダーズ』のチャンネルはどうするのだろうか?


 俺も自分のスマホで動画などを確認するためにログイン状態にしていたのだが、今のところ更新はされていないようだ。

 登録者数はこの前で一万人に到達したもので、MeiQuberとしてはあまり人気があるほうではない。


 ……もちろん、一万人でもかなり凄いんだけどな。

 少ないとはいえ、ファンたちもいる。

 だから、『ライダーズ』に関して澪奈が脱退する……とかそんな感じの動画をあげたほうがよさそうな気がするんだけど、辞めた俺が何かできるはずもないんだよな。


 アカウントからはログアウトしておき、次にTwotterを確認する。

 『ライダーズ』の三人ともアカウントを持っているが、そのうち花梨と麻美のアカウントに関しては俺が管理をしていた。


 二人とも面倒くさがりなので、ほとんど呟くことがなく、二人を真似して俺が朝の挨拶とかイベントの告知とかしてたんだよな……。

 それをする必要もなくなったので、肩の荷が下りたような気分だ。とりあえず、こちらもログアウトしておいた。


 ……動画の投稿などもないので、本当にやることがない。

 仕事を辞めるというのはこういうことなんだな……と思ったが、とりあえず連絡先を知っている人たちには挨拶をしておこうか。

 俺が名刺を交換した人たちに退社したことをメールで伝え、それも終えた俺は澪奈にLUINEでメッセージを送る。


『昨日話していた通り、学校が終わったら俺の家に集合ってことで。見てほしいものがあるんだ』

『変質者みたい』

『そういう意味じゃないぞ』


 澪奈のネタを訂正しつつ、俺は自分の部屋の迷宮をちらと見る。

 とりあえずは、迷宮でレベル上げでもしていようか。



 

 夕方になり、澪奈が家へとやってきた。

 玄関を開けると、スーパーの袋を持っていた澪奈が家へと上がって来る。


「あれ? それはどうしたんだ?」

「夕食。作ろうと思って」

「……わざわざいいのか?」

「うん。大丈夫。お母さんとお父さんも今日は仕事で帰りが遅くなるし」


 それなら、別にいいけど。

 澪奈がキッチンへと向かっていき、料理の準備をしようとする。


「……今さらな話だけど、部屋に澪奈を呼ぶのって結構社会的にまずい状況か?」

「マネージャー何かするつもり?」

「いやいや、そんなことはしないぞ?」

「そうなの? 私は色々と企ててるけど……」

「澪奈さん?」

「冗談。何もしないなら問題ない。私もマネージャーの家からそこそこ近いから。打ち合わせするならここのほうがラク。……それより、アレ、何?」


 澪奈が驚いた様子でリビングのほうを指さす。

 わが家は狭いため、玄関入ってすぐに廊下があり、その廊下にキッチンがある。

 キッチンの背中側にリビングがあるので、迷宮の入り口もばっちり見えるというわけだ。


「メッセージで伝えていただろ?」

「うん。部屋が大変なことになってるって。てっきりエロ本とかがいっぱいあるのかと思ってたけど……」

「そんなこと宣言しないっての。……ちょうど昨日、俺の部屋に迷宮ができたんだよ」

「……迷宮。確かに、あの黒い渦は迷宮だけど……部屋に?」


 澪奈は迷宮を目の前にしながらも、驚きが隠せない様子だった。

 これほど澪奈が困惑している姿は初めてかもしれない。

 俺も見たときは少し驚いたしな。


「そうなんだよ。……でも、これってこれからの活動に使えるかもと思ってさ」

「これからの活動……配信とかでこの迷宮攻略をしていく、ってこと?」

「ああ。他の迷宮だと冒険者協会から依頼を受ける必要があるけど、ここは俺の迷宮だからな。何より、周りの人を気にしないで済むから、生放送もできるしな」


 ……迷宮内でも問題なく電波が届くのは、すべての迷宮で確認されているのだが、生放送する場合は周りの冒険者をなるべく映さないよう配慮する必要がある。

 一般の迷宮だと他の冒険者も多くいるので、生放送をするとなると配慮が大変だが、ここなら貸し切りだからな。


「……確かに。迷宮の生配信は大手ギルドにしかできないから需要あると思うし、自宅に迷宮ができたのもインパクトある。……でも、それだとカメラマンとしてマネージャーも同行する、ってこと?」


 俺が無能力者だということを知っている澪奈はとても心配そうである。

 ……能力を持たない人が、迷宮に入ってもゴブリンと戦うのだって危険だ。

 でも、今の俺は違う。


「心配するな。……なんと迷宮に入ったときに俺も能力を手に入れてな」

「……え? ほんと? それなら一緒に戦っても問題ない?」

「ああ。それに、結構戦えてな。この迷宮がGランク迷宮っていうのもあるかもしれないけど、普通に一人でそれなりに戦えてるんだ」

「ひ、一人で? さすがにGランクでも一人は危険」


 澪奈は心配するように俺の体を眺めてくるが、これでも問題なく戦えているんだよな。

 それをどうにか証明できないだろうかと澪奈のほうを眺めていると、


 神崎澪奈(かんざきれいな) レベル10 筋力:12 体力:8 速度:12 魔法力:14 器用:9 精神:9 運:9

 ステータスポイント:54

 スキル:【氷魔法:ランク3】【剣術:ランク1】【銃術:ランク1】

 装備:【なし】【なし】【なし】【なし】


 澪奈のステータスが表示された。


―――――――――――

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