第94話




 次の日。

 とりあえずメールを頂いていた冒険者協会に連絡を取ると、すぐに打ち合わせが決まった。

 ギルドを統括する冒険者協会の本部で話をするのかと思っていたが、向こうの会長がたまたま俺の近場のギルドに用事があったらしく、打ち合わせはそこで行うことになった。


 向こうが俺に気を遣ってくれたのではないかとも思っているが、深く追及することはしない。

 いつも利用しているギルドに来たのだが、今回は裏口から入れてもらうことになった。


 ……最近、注目されることが多かったためあまりギルドを使うことはなかった。

 素材の売却を行っている間にだいたい注目されて声をかけられるからだ。

 裏口から職員に誘導され、会議室へと案内される。


 会議室に俺が着席すると、間もなく二人の男性がやってきた。

 男性の隣には、彼のボディーガードのような男性がいる。……サングラスを身に着け、体格の良い人であるが……その人よりも気になるのは守られている側の男性だ。


 ……その男性はテレビで見たことのある人たちだ。

 間違いない。冒険者協会トップである会長だ。

 俺は彼のステータスをじっと観察する。


 秋雨竜太郎(あきさめりゅうたろう) レベル60 筋力:221 体力:176 速度:220 魔法力:80 器用:107 精神:110 運:119

 ステータスポイント:21

 スキル:【竜術:ランク12】【棒術:ランク3】

 装備:【ドラゴンソード】【ブレスリング】【ウームネックレス】【スペクタルシューズ】


 冒険者協会の会長は、Sランク冒険者という話は聞いていた。

 その彼の能力も、確かに高ステータスではあった。

 ……ボディーガードの人よりも圧倒的にステータスが高いので、護衛なんて不要なのではないかとは思わないでもなかった。


 筋骨隆々の彼は、すでに五十歳を超えていたと思うがそれでもその体に衰えは見られない。

 こちらに気づいた彼は温和な笑みを浮かべた。


「秋雨会長。本日はこのような時間を用意していただき、本当に感謝しています」

「……いえ、私たちもお願いしたいことがありましたから」


 お互い、利害関係があったからこそ、ここに来ている。

 名刺交換とともに自己紹介を行ってから、席に座る。


「それでは、早速になりますが……茅野さん。まずはあなたのほうからお話してください」

「……分かりました。自分たちの頼みは……凄い個人的なものになるのですが、現在私たちはMeiQubeにて活動を行っていて――」

「ええ、いつも拝見させていただいていますよ。……あれほどの実力を持っている方は日本でも数少ないですから」

「ありがとうございます。それで、メールでもやり取りをさせていただきましたが、能力の再検査を生放送、あるいは撮影を行いながらでお願いしたいのですが……」

「ええ、もちろん構いませんよ。たまにですが、そういった頼みを受けることもありますしね」


 確かに、クランなどが借りて撮影などを行っていることはある。

 だから、この頼み自体は通りやすいとは思っていた。

 ……とはいえ、俺はこのあとにされる秋雨会長の話を断るつもりでもあった。


「それは、ありがとうございます。……ただ、秋雨会長がされる予定の話についてなのですが……私たちは断ろうと考えていました。それも考慮してから、結論を出していただければと思っています」

「やはり、断られてしまいますか」


 秋雨会長は残念そうに目じりを下げる。

 ……お互い、事前にメールでやり取りをしているのでここでの話し合いは顔合わせと最終確認程度のものだ。


「……はい。協会に入って、ギルド職員としての仕事に関しては……今は考えていません」

「……そうですか。冒険者協会としては、茅野さんと……すみません、活動名のみしか知らないのですが……澪奈さんのお二人には特別なポストを用意しようと考えていました」

「特別なポスト、ですか?」

「ええ。お二人にはいずれ、会長、副会長の座についてもらいたいと考えていました。ですので、私たちの秘書のような立場についてもらい、仕事を観察していっていただき、ゆくゆくは完全に後を継いでもらいたいと考えていました」


 会長の表情は真剣そのものだった。

 

「……どうしてそこまで?」

「私ももう若くはありませんから。跡を引き継いでくれる人間がどうしても必要なのです。冒険者協会には、どうしても強い力を持った人間が必要なんです」

「そこまで、でしょうか? 協会は警察や自衛隊の機関やクランと連携して国を守っていますよね? 別に、私たちじゃなくても常識を持った人間が会長になれば、問題ないと思いますが」

「ええ、普通であればそうです。ですが、今もどんどんクランは規模を増し、力をつけています。彼らがもしも手を組み、暴れだしたとしたらどうなるでしょうか?」

「……それは、あまり考えたくありませんね」


 最悪すぎる結末になるのではないだろうか?

 あるいは、暴れだすまではいかなくとも、国が制御できないほどの力を有したとなれば、その力を脅しの道具として使う可能性だってある。







―――――――――――

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