第132話


 ……これは、悪いことではないな。

 とりあえず、動画に出演したいという話は理解したし、精霊を用いた理解力の高さがあればひとまずどうにかなるだろう。

 ちょっとだけ話は進んだところで、浮かんだ疑問について問いかける。


「そういえば、カトレアって……文字とか読めるのか?」

「はい。先ほどの魔道具で自動変換できますよ」

「……もしかして、それって他にもまだ余ってるのか?」

「両親が使っていたものもあるので、あと二つ余っていますね」

「……それ、俺たちにも貸してもらうことってできるのか?」

「はい。もちろんです。ちょっと待ってくださいね……」


 カトレアはそういって空間に穴をあける。その空間から見える景色は、建物の中だ。


「もしかして、穴って任意の場所に開けられるのか?」

「はい。ですので、疑似的にですが【アイテムボックス】のような使い方ができますね」

「……なるほどな」

「こちらです。どちらも腕輪型ですね。身に着ける際に自動でサイズが調整されますから、どうぞご自由に使ってください」


 俺と澪奈はカトレアから渡された腕輪型の自動変換機を受け取り、さっそく腕に着けてみる。

 俺の腕に近づけると、カトレアが言ったように自動でサイズが調整される。

 ……つけている感覚はまるでないな。ずっとつけていても、問題なさそうだ。


「これ、水とかつけても大丈夫?」

「大丈夫です。両親は魔道具の天才でしたからね。安物の変換機だと壊れてしまうことはありますが」

「……そうなんだ。うわ、マネージャー……これ凄い。このサイト、海外のサイトなんだけど、全部日本語になってる」


 澪奈がスマホの画面をこちらに向けてくる。

 ……澪奈が見せてきたスマホの画面は、すべて日本語で書かれていた。

 きっと、カトレアの目にはまた違う言語で書かれているのだろうな。

 試しに魔道具を外してみると、日本語から英語に戻っていた。


「……凄いなこれ」

「そう、みたいですね。私の国ではこれが基本的な言語。でも、精霊から聞きましたが、この世界にも色々な翻訳機などがありますよね?」

「あるけど、精度はやっぱり高くないんだよなぁ。話の流れで変わるニュアンスとかは、うまく拾えないことも多いしさ」

「脳内にチップとか埋め込んで、目や喉に特殊な機械を埋め込めばできそうですが……と精霊が言っていますよ?」

「……まだそこまで人類のサイボーグ化は進んでないんだ」


 確かに、色々人道を無視すればその領域に近い存在を作り上げることはできるかもしれないが……。


「とりあえず、これをつけて生放送すればこれまで見てくれた外国人にも伝わりやすくなるよな」

「……ていうか、どの国の人にも伝わる言語で話せるんだから、凄いことになる。……これ、量産できたら凄いことになる、っていうか異世界で買って日本に持ち込むだけで大金持ちになる。カトレアも作れるの?」

「私は魔道具を作れないんです。私が作った自動変換器はなぜかすべて喘ぎ声になってしまうんです……」

「それはそれで需要あるかも」

「本当でしょうか? では、今度時間があるときに作ってみましょうか」


 あほな話には参加せず、俺は話を戻すことにする。


「とりあえず、カトレアが動画に出るってことはいいとして……今後どうするかだよな? カトレアはひとまず、家で寝泊まりするのか?」

「……それが、諸事情により、あまり家には帰りたくないんですよね。あっ、諸事情って早口にしたら処女って聞こえそうですね」

「どうして帰りたくないんだ」


 後ろで澪奈が試しとばかりに早口で言っているが、すべて無視する。


「家を守っている結界が崩壊寸前なんですね。両親が作ってくれた結界がさすがにもう壊れそうでして……私、攻撃に特化したエルフでして補助系の作業が苦手なんですよね……」

「……そうなのか」


 結界が壊れるとなると、魔物も入ってくるだろうし危険だよな。


「カトレアが異世界を移動する魔法は補助系じゃないのか?」

「それは両親の研究の成果ですね。両親は新たなスキルの開発をしていまして、その一つに異世界移動のスキルがあるんです。私がさらに研究して、ポーションとして製作して自分に使ってみたらうまくいった感じです」

「……スキルの、開発なんてできるのか?」

「普通はできないと思いますが、両親が天才だったんだと思いますね。様々なスキルを開発しては魔物で実験を行っていて……まあ、だから人里離れた場所で生活していたんだと思いますね。スキルって神から与えられたものですので、わりと禁忌の部分なんですよ……」


 ……な、なるほどな。

 ようはカトレアの両親ってわりとマッドサイエンティスト的な側面があるのだろう。

 それでも、こうしてカトレアが真面目に……少し抜けた部分はあるが立派に育っているあたり、人の親としては悪い人達ではなかったのだろう。


「カトレアも、研究を続けているのか?」

「ほとんどの研究成果は廃棄されていまして……たぶん両親が廃棄忘れた異世界移動のスキルだけ、私が引き継いで完成させたんです。……まあ、これにざっと百年近くかかってしまって、そんなことやってる間に結界が脆くなってしまってあわあわしてたんですけど」

「え、お、おばあちゃん?」


 澪奈がぽつりと漏らし、カトレアがむっと頬を膨らませる。


「私、まだ百十八歳です。人間で言ったら、十八歳くらいです」







―――――――――――

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