第162話
「カ!?」
顎の骨同士をぶつけるように叫んだスケルトンは、その驚きによって一瞬の隙が生まれる。
だから、地面を蹴りつけながら踏み出した拳をスケルトンの腹へと叩き込み、一気に仕留めた。
前衛はこれで処理した。後衛は……カトレアと澪奈たちの担当だ。
俺の分身たちは時間稼ぎくらいしかできなかったようで、すでに倒されてしまっている。
やはり、このくらいの相手となると一対一では難しいか。
視線を向けると、ちょうど魔法の準備を終えたカトレアが連続で魔法を使用していく。
一撃は範囲の広い風魔法だ。スケルトンウィザードたちを巻き込むように放たれた風の竜巻から、スケルトンウィザードたちは慌てたようすでかわした。
その回避に遅れた一体は風の竜巻に巻き込まれ、倒される。
回避できた二体は魔法を放とうとするのだが、それより早くカトレアが放った風の刃が首を跳ね飛ばす。
最後の一体……完全にカトレアに注目してしまっていたスケルトンウィザードは、横でに接近していた澪奈に気づいていない。
澪奈は剣と銃で近接戦闘へと持ち込み、なんとかそれに対応しようとしたスケルトンウィザードを速度で凌駕し、最後にはハンドガンのグリップ部分で頭を殴り付け、仕留めた。
倒れた魔物たちを確認したところで、俺は生放送を確認する。
〈この戦い、やばいな……〉
〈やべぇ……画面の前でドン引きしてるわ……〉
〈速すぎて目で追うのがやっとだぞ……〉
〈なんだよこれ、本当に同じ人間か?〉
〈澪奈ちゃんもマネージャーさんもカトレアちゃんも、皆俺より年下の冒険者なんだよな〉
〈ヤバすぎるwww〉
〈いいぞwもっとやってくれwww〉
……とりあえず、コメント欄は盛り上がってくれているようだ。
戦闘も終わり、視聴者もさらに増えていったところで、次の魔物のもとに行くかな……とか考えていた俺のもとに、連絡が入った。
それは、派遣していた分身からのものだ。
「私たちもかなり連携の練習していますからね。うまく決まりましたね、レーナ様」
「うん……マネージャーが前衛で魔物を押さえてくれていた部分もあると思う。って、マネージャーどうしたの?」
「……いや、そう、ですね……」
歯切れ悪く答えた俺に、澪奈とカトレアが首をひねる。
「言いづらいこと?」
「もしかして、急に私への愛の気持ちが溢れてしまった、とかでしょうか?」
「それはないと思う。マネージャー、大丈夫?」
分身からの情報を伝えるかどうか迷った俺だったが……これは動画のネタになるかもしれないしな。
迷いはあったが、決断する。
「分身からの連絡なのですが、森の出口付近に、かなり強い魔物と……人間を発見したみたいです」
俺がそういうと、二人は驚くような声をあげるとともに、コメント欄が一気に盛り上がっていった。
〈新たな異世界人ってことか?〉
〈それに、かなり強い魔物って、どういうことだ!?〉
〈マネージャーさんが強いと感じるってやばくないか?〉
〈ていうか、新しい異世界人も気になるぞ、魔物と一緒にいるところを発見したってことは、魔物を管理しているのか?〉
「マネージャー。ちょっと、状況の詳細が知りたい」
「……そうですね。短くまとめますと、魔物と異世界人が交戦状態のようなんです。それも、少しばかり異世界人側が追い込まれている状況ですね」
「それなら、助けに行かないと」
澪奈のいう通り、助けに行くべきだとは思う。
ただ、怖いのは異世界人に俺たちがどう映るかだ。
……同じ人間、と考えてくれるのならいいが色々と面倒なことにならないことを祈るしかない。
それと、問題が一つある。
分身から伝わる相手の魔物のステータスが、かなり高いことだ。
「戦闘を行う際、澪奈さんとカトレアさんは絶対敵に見つからない位置に隠れていてください」
「どういうこと?」
「相手の魔物――ブラッディオーガのステータスがこんな感じなんです」
そういって、俺はメモ帳にブラッディオーガのステータスを記し、さらにそれを生放送の概要欄にも更新しておく。
ブラッディオーガ レベル130 筋力:1254 体力:1276 速度:1264 魔法力:323 器用:528 精神:519 運:554
ステータスポイント:0
スキル:【斧術】
装備:なし
戦闘に使うだろうステータスにおいて、高水準だ。
……何とか通用するとすれば、俺が【雷迅】と【鼓舞】を使用中くらいだろうか。
それでも、厳しい戦いになるのは確実だ。
相手を倒す戦闘よりも、異世界人たちを逃がし、俺たちも逃げることを優先したほうがいいかもしれない。
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