第45話


 筋力と速度の数字が異常なことになっているが、これは装備品の合計が倍になっている、ってことか?

 ……もしかして、【格闘術】ってアクセサリーとかで強化してくれるのか?


 確かに、ナックルなどの拳系の装備はなかった。【格闘術】は本当に身一つで戦うスキルなんだろう。


 ……これは嬉しい誤算だ。

 ここからアクセサリーでも売却して、倍になる装備でも探そうと思っていたんだけどな。

 これだけステータスが上がってくれば、まず間違いなくワーウルフは余裕で倒せるだろう。


 俺は口元が緩むのを自覚しながら、家へと戻った。

 扉を開けると、鼻歌交じりの澪奈がキッチンに立っていた。

 なれた様子で我が家のフライパンを振り、料理をしている。視線だけが、こちらに向く。


「おかえり。外出てたんだ?」

「ああ。【格闘術】が買えるだけのお金がたまってたからさ……買っちゃった」


 一応澪奈には自由に使っていいとは言われていたが、素材に関しては澪奈と一緒に集めた分もあるからな。

 俺の言葉に澪奈が微笑を浮かべた。


「そうなの? 何か変わった?」


 別段雰囲気に変化はないようだ。

 ほっと安心しながら、俺は笑顔とともに変化について伝えていく。


「ステータスが上がったんだよ。【格闘術】はアクセサリーとかの装飾品で強化されるみたいでさ!」

「え? それって……じゃあ、今めちゃくちゃステータス高くなったんじゃない?」

「ああ、そうだな」


 俺がスマホのメモ帳で澪奈にステータスを見せると、驚いたようすだった。

 ついでに彼女のステータスも確認する。


 神崎澪奈(かんざきれいな) レベル31 筋力:89 体力:17 速度:130 魔法力:25 器用:54 精神:14 運:14

 ステータスポイント:0

 スキル:【氷魔法:ランク3】【剣術:ランク4】【銃術:ランク4】

 装備:【ロングソード 筋力+9 速度+9】【ハンドガン 速度+9 器用+9】【ロングソード 筋力+3 速度+3】【ハンドガン 器用+3】


 装備合計:筋力+12 速度+21 器用+12


 ちょこちょこレベル上げはしていたので、澪奈のステータスも上がっている。

 俺が【鼓舞】を使用すれば、お互い同じ程度に動けるだろう。


 ただ、今のワーウルフ相手だと少々レベルの上がるペースが落ちてきているのも事実だ。

 今後は装備品の入れ替えを行っていけるかどうかだが、そのお金は先ほど俺が使ってしまったからな……。


 ……今後金を稼いで200万ゴールドの装備に切り替えられれば、さらに強くはなれるはずだ。

 装備、大事。


「もうすぐ夕食出来上がるから」

「おう……ってなんか当たり前みたいに作ってもらって悪いな」

「夫婦なんだから気にしない」

「違うから」


 ……料理に関しては俺はほとんどしたことがない。

 せいぜいが乾麺類を茹でるとか米を炊くくらいしかしない。

 仕事が大変で料理している暇がなかったからな……。


 俺はパソコンに座り、届いていたメールを確認していく。

 澪奈の仕事用のメールアドレスだ。


 仕事用のメールアドレスには、いくつか誘いの仕事が来ていた。

 ……クランか。


 冒険者で利益を上げる企業たちがクランと呼ばれている。

 基本的には、会社とほぼ同義と考えて問題ない。


 メールアドレスにも、〇〇クランに参加しませんか? という話がいくつも来ている。

 お話だけでも聞きませんか? というのもあるが、クランに所属するとなると色々と制限がかかってしまうんだよな。

 まあ、それは澪奈が決めることだ。


「澪奈、いくつかクランの招待があるけどどうする?」

「クラン……うーん、今はいい。マネージャーと二人で活動したい」


 そう言ってもらえるのは嬉しい限りだ。

 俺も……事務所に所属していたときが大変だったからな……。


「それなら、断りのメールを入れておくな」

「うん。……でも、マネージャーがどこかに就職したい場合は止めないから」

「いや、俺も今は澪奈と一緒に活動していきたいな」

「……そ、そう?」


 今のように自由な時間に起きて、活動していきたい。


 クランともなると、人付き合いも増えていくだろうし、嫌なこともやらないといけないだろう。

 数年とはいえ、社会人として生活してきたため、それらの苦労は嫌というほど体験した。


 いつまでもこのままとはいかないかもしれないが、できるのなら一生今の生活を続けたい。







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