第163話



〈いや、これまでの魔物とは格が違いすぎないか?〉

〈無理に助けに行かなくても……異世界人だって、敵か味方かわからないんだし〉

〈さすがに、これはやばいって……三人とも、ご自身の身を案じてほしいです〉


 ……コメント欄にはそういう声も多く溢れていたが、ここで見捨てたとなれば俺たちを薄情者と認識する人たちもいるだろう。

 だから俺は、異世界人と魔物を発見したとき、生放送中に伝えるかどうか迷ったのだ。

 澪奈のことを考えるなら、無茶なことはさせたくない。そりゃあ、こんなハプニングは視聴者が増える絶好の機会ではあるが、危険もあるからな。

 今も戦闘を行っているブラッディオーガと異世界人たちの情報を集めながら、分身を増産していく。

 だが、状況が変わった。


 それまで、ブラッディオーガと戦っていた騎士のステータスが大きく減った。

 ……何かの支援スキルで強化していたのだと思うが、再度騎士のステータスが上がることはなく、ブラッディオーガに一方的に攻撃されだす。

 それと同時に、騎士とともに戦っていた者たちが逃げるように動き出していた。

 ……まるで、彼らが逃げるための時間稼ぎのために、一人を残したかのような動きだ。

 そう考えられるような動きを理解したところで、俺も分身たちの準備を整えた。


「ブラッディオーガから離れた場所に分身を設置しました。二人はそちらに移動してください」

「マネージャーは?」

「戦闘中の騎士が押され気味ですので、助けに向かいます」

「……分かった。気を付けて」


 俺は澪奈とカトレアに指示を出し、すぐにインベントリに体を入れる。

 光が眼前に差し込んだ瞬間、俺は地面を蹴りつける。同時に、【雷迅】と分身から【鼓舞】のスキルを受けた俺はブラッディオーガへと迫る。

 ブラッディオーガの前にいた女性騎士は、俺とそう変わらないような若い女性だ。彼女は頭から血を流していて、今にも死にそうな様子だ。

 そちらは、分身に任せる。


 ブラッディオーガは全長三メートルほどだ。全身の筋肉が膨れ上がっていて、こうして対面するとその迫力に圧倒される。

 今にもそのプレッシャーに全身が押しつぶされそうになるが、俺は一気に距離を詰め、蹴りを放つ。

 力を込めた一撃だったが、さすがにブラッディオーガを吹き飛ばすほどの威力は出せない。

 それでも、俺に気づいたブラッディオーガが顔を顰めながら持っていた斧を振り下ろしてきた。

 攻撃を横に跳んでかわすと、その間に分身が女性騎士をブラッディオーガから遠ざけることに成功する。


 ブラッディオーガがちらと女性騎士へと視線を向けたが、すぐに俺と向き合う。

 そして、


「ガアアアア!」


 肺が目一杯膨らむと、そこから激高が吐き出される。

 こちらの体が思わずすくむ程の声量。同時に、地面を蹴りつけこちらへと迫る。

 ……速い。


 それでも、【雷迅】と【鼓舞】がある今なら、かわせる……!

 振りぬかれた斧をかわし、大きく距離をとる。

 俺の動きを見て、ブラッディオーガの視線も鋭くなる。


 その鋭い視線は、先ほどよりも迫力を増している。

 ……本気といったところか。

 ブラッディオーガが大地を踏みつけ、斧を振りぬいてきた。

 こちらに斬撃が放たれる。

 【斧術】スキルによる技だろうか? あるいは、自力でそれを生み出しているのか。

 とにかく、ブラッディオーガの一閃を横に跳んでかわすと、眼前にブラッディオーガが迫る。


 速い。だが、攻撃は拳だ。その一撃をかわしながら、手首をつかみ、その体を投げる。

 背負い投げのようなつもりだったのだが、ブラッディオーガは空中ですぐに態勢を戻し、斧を振り下ろしてくる。

 なので、地面に叩きつけることはやめる。その場で手首から手を離し、ブラッディオーガの一閃から逃れる。


 襲い掛かってきた斬撃を横に跳んでかわしたところで、着地したブラッディオーガに魔法が襲い掛かる。

 火の玉がブラッディオーガに着弾するが、ブラッディオーガは平然と受けていた。

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