第22話

「それは、当然です。澪奈さんの身を任せてもらっている立場ですので……それで、これからの活動についてなのですが……」

「澪奈から聞いているよ。これからも似たような活動を続けていきたいと。私としては勉学さえ疎かにしないなら自由にしていいとは伝えたよ」

「……分かりました。ありがとうございます。必ず、澪奈さんの夢が叶えられるように援助していきます」

「ああ、ありがとう。ただ、少し不安もあってね」


 不安。それは当然だよな。

 これからは事務所の後ろ盾がなくなる。……それどころか、その事務所が敵に回る可能性だってある。


 俺の所属していた場所は決して大きな場所ではないが、それでもコネがまったくないわけではない。

 そういった場所での活躍はほぼ不可能だ。


 ……現状、その不安を払拭できる手段はない。一応、登録者数が5000人に到達したので、最低限の稼ぎは出せるようにはなるだろうが……それで不安がなくなるわけではないだろう。


「茅野くんは今、仕事がないのだろう?」

「え? あ、ああそうですね」


 予想外の指摘をされ、返答に戸惑ってしまう。

 ただまあ、確かにそれはそれで心配されてしまうか。

 澪奈の活動費をどこから捻出するのだという問題があるからな。


「そうなると……生活が大変だろう。大丈夫なのかい?」

「一応、今貯金もありますし……それに、俺もそれなりに冒険者として戦えるので稼ぎはどうにかなりそうです」

「それならいいのだが……澪奈が無理をいって一緒に事務所を辞めてきてしまったのだろう? 澪奈はともかく、茅野くんを巻きこんでしまって……済まないね」


 どちらかというと俺が巻き込んでしまったというほうが正しいのだが、澪奈が恐らくそう説明したのだろう。


「いえ……それに関しては、俺が巻き込んでしまった部分もありますから。どちらにせよ、あのまま仕事を続けていた俺も体を壊していたかもしれませんし」

「それなら、いいんだが。もしも正社員としての仕事が欲しいときは言ってくれ。茅野くんならいくらでも仕事を紹介できるだろうしね」

「ありがとうございます。本当に大変になったら、助けていただくことになるかもしれませんが……今は今の仕事を頑張っていこうと思います」

「……ああ。分かった」


 それから澪奈の父親は澪奈がまだ二階から降りてこないのを確認してから、苦笑を浮かべた。


「澪奈は……あまり笑わない子だったんだ」

「……わ、笑わない子だったんですか?」


 今からは考えられない。


「そうだね。……ほら、澪奈はスキルの影響で髪の色が特殊だっただろう?」

「……そう、ですね」


 スキル、というよりは体に流れる魔力の影響と言われている。

 日本人であっても、今では様々な髪の色が珍しくなく、街を歩けばそういった人を見かけることもできる。


「子どもだと、そういった違いに敏感でね。簡単に言うと、いじめられていたんだ。いじめていた本人たちからすればからかいくらいだったのかもしれないけど、澪奈は気にしてしまってね」

「……よく、ありますよね」


 からかう側は本当にお遊びくらいの気持ちなのかもしれない。

 でも、それを受け取る側の心を深く傷つけることは……よくあることだ。

 ……でも、俺が初めて澪奈にあったとき、彼女を褒めるときに髪の色についても触れてしまっていたような気がするが……あれも、実は傷つけていたのだろうか?


「だから、澪奈はスキルを持っている自分を嫌っていてね。学校ではそういうことがあったから、あまり登校もしていなくて……それが今では自分のスキルを使って、自分の容姿を気にせずに生きている。……だから、私はできる限り澪奈の今楽しめていることを応援したいと思っているんだ」

「……俺も、澪奈さんが目指している場所までいけるように支援しようと思っています」

「ああ、楽しみにしているよ。ただ、二人とも怪我だけはしないようにな」

「……はい」


 その気遣いが、本当に心にしみた。

 澪奈の両親と話していると、荷物を持った澪奈が階段を下りてきた。鞄に入れた服をこちらに持ってきていて、それを俺の前に置いた。


「これだけあればしばらく大丈夫だと思う」

「……分かった」

「おいおい、澪奈。これもっていかせるのは大変じゃないか? 茅野くん、車出そうか?」

「いえ、大丈夫です。俺【アイテムボックス】みたいなもの持ってるんで」


 俺の言葉に澪奈の両親は首を傾げたので、一目でわかるようにインベントリに鞄たちをしまった。

 驚いたように目を見開いた俺がそれを受け取り、インベントリにしまった。


「き、消えた!? そ、それもスキルなのかい?」

「ええ、まあ。自由にものをしまえるスキル、みたいなものですね」


 俺は先程しまった澪奈の荷物を取り出すと、二人は驚いたように目を見開いた。

 ……別に、この人たちなら隠す必要もないだろう。

 俺のスキルを見ていた澪奈の母親が声をあげる。


「これを使えば、自由にスーパーのものとか盗めない?」

「母さん、そんな真っ向から警察を敵に回すようなことを言うんじゃない。……いや、でも驚いた。そのスキルはとても便利だね……」


 母は冗談めかしく笑っている。

 澪奈の突拍子もない冗談は、やはり母親譲りのようだ。


「そうですね。そういうわけで、大丈夫です。……それでは、失礼します」

「ばいばい。明後日も放課後に行くから」

「茅野くん、夜遅いから気を付けて帰るんだぞ」

「今度は一緒に食事でも行こうねー」


 澪奈がひらひらと手を振ってきて、それから両親も手を振ってくる。

 俺もそれぞれに返事を返しながら、家を出た。

 ……ふぅ。

 とりあえず、今の活動に関して非難されなくて良かったぁ。


 安堵の息を漏らしながら、俺は自宅へと戻っていった。




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