第79話


 澪奈のチャンネル登録者が……八十万人を突破していた。

 キングワーウルフ戦、迷宮のイレギュラーが多くあったからだろう。

 俺も迷宮攻略に向かいたかったのだが、いかんせんメールの対応が多すぎる。


 それと、またクランからの勧誘がいくつもあったからだ。


 日本を代表する上位四つのクランはもちろん、それ以外の上位に近いクランからも数々のメールが届いていたのだ。

 ……さすがに、それらは大企業なのでメールを無視するというわけにもいかず、お断りのメールを出す必要があった。


 俺も澪奈も特にクランに所属するつもりはなかったので、それらに断りのメールを返しながら、いくつか別の仕事の話も来る。

 インタビューしたい、とかだ。


 ……まあ、これに関しては受けてもいいかとも思っているのだが、ただ対応しきれるかどうかも分からない。

 他にも、モデルの仕事や装備品提供の話などもある。


 装備品提供は簡単にいえばスポンサーだ。武器を製造している会社から提供してもらい、それを動画などで使用して紹介するというものだ。

 銃を扱う冒険者はそこまで多くないため、澪奈に是非ともという話がある。


 ちなみに俺に武器提供の話はない。使ってないからな。


 メールを見ていると、モデルの仕事に関しては俺にまで来ている。ていうか、テレビ番組の出演オファーまでもある。


 『和心クラン』が管理している番組で、名目は注目の冒険者を紹介する、というものだ。

 毎回有名冒険者を呼んで、司会を務めている『和心クラン』のリーダーが話を聞くというものだ。


 この辺りの活動にも参加していきたい気持ちはあるのだが、そうなるとマジでスケジュールがな……。

 今の生放送の頻度を落とすことはあまり好ましくない。

 生放送の頻度を落としてしまい、そういった別の活動の時間を増やすというのは澪奈のファンがあまりいい顔をしない可能性がある。


 ……わりと難しいんだよな、こういう問題は。

 そうなると毎週土曜日の夕方くらいまでと日曜日に捌いていく必要があるが、澪奈も学生だからなぁ。

 とりあえず、今後に関してはすべての仕事を受けた想定で一度スケジュールを作り、澪奈に確認してみようか。


 澪奈が興味ないといった仕事は削ればいいんだしな。


 俺はスマホのスケジュールでメモを行っていき、メールを確認していく。

 そうしてスケジュールをまとめ終えると……うん、結構ぎゅうぎゅうになってしまったな。

 ほとんど毎週何かしらの撮影、インタビューが入っていて、テレビなども入る。

 

 このスケジュールで一度澪奈に確認だ。

 澪奈にメッセージを送り、とりあえず午前中の仕事は終わりだ。

 昼食のコンビニ弁当を買いにいくため、外に出る。


 俺の家からだと微妙にコンビニが遠いんだよな。仕事をしていたときは駅前のコンビニで買ってから帰るのが日課だった。

 十分ほど歩いてコンビニ弁当を吟味していると、


「マネージャーさんですよね!?」


 後ろから突然声をかけられた。

 驚きながら振り返ると女子高生っぽい二人組に声をかけられた。


「……ああ、そうですけど」


 わざわざ、マネージャーと呼ばれるなんて……理由は一つしかない。

 引きつる頬を自覚しながら、笑顔の女子高生たちが歓声を上げる。


「わあああ! 本物だ! 昼休みにちょうどごはん買いに来てよかった!」

「ほんとね! あ、あのサインとかってしていただけますか!?」

「サインって……言っても……俺サインとか用意してないんですけど……」

「ま、マネージャーって書いてもらうだけでもいいですから!」


 それ俺かどうか分からなくね?

 女子高生たちはノートとペンを鞄から取り出し……俺はちらと店員を見る。


「分かりましたけど……とりあえず買い物して外で、ってことでいいですか? 店内だとお店にも迷惑かけてしまいますから」

「そ、そうですね! すみません、お願いします!」


 ……というわけで、俺たちはコンビニ弁当を購入する。


「マネージャーさんとお揃いのコンビニ弁当です!」

「や、やった!」


 ……お揃いって言っても、何かあるわけではないだろう。

 俺は困りながら女子高生二人にサインをしていく。

 ……さすがにマネージャー、だけだと問題なので、澪奈のマネージャーとして、澪奈のデフォルメした絵も添えておいた。

 ちょっとだけ絵を描くのは得意だからな。


「はい。これでいいですか?」


 二人に渡すと、二人はそれはもう感極まったような声を上げ、ノートを抱きしめた。


「あ、ありがとうございます……! 家宝にします……!」

「……それは、ありがとうございます。家宝に恥じないよう、頑張りますね」


 手を振ると、女子高生たちはとてもうれしそうに叫び大きく手を振っていく。

 ……ここまで自分なんかにあって喜ばれるとは思っていなかった。



―――――――――――

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