第81話
「とりあえず、向こうと話をしてみてまた決まったら連絡するけど……本当に難しかったら言ってくれよ?」
『うん、ありがとう。お願いするね』
「……ああ」
……あとは、澪奈の疲れが目立つようならこちらで判断するしかないな。
『あと、マネージャー。なんかTwotterでマネージャーにサインしてもらったとか凄い見たけど、何かあったの?』
「それが、コンビニに飯買いに行ったら絡まれてな。断るわけにもいかず、サイン会みたいになっちゃったんだよ……」
『それは……もうほとんど身バレしてない?』
「そうなんだよ……変装しておけばよかった……」
澪奈が向こうで苦笑しているのが分かった。
『でも、それだけ注目されてよかった。それに、私と一緒にいてももうまったく怒られない』
「そういえば、そうだったな……澪奈のファンもいたけど、二人のファンですって人が多かったな」
『計画通り。皆カップルチャンネルだと思ってくれたみたい』
「普通に冒険者の二人組、と思われているみたいだったな。アイドルとかじゃなくて、冒険者って名前が多かったよ」
『……それは、今度歌配信でもしないと。私、一応アイドルしてたんだし』
「……だな。どこかの日曜日にカラオケで配信でもするか?」
『うん。スケジュール組んで余裕があったらやろう』
澪奈の楽しそうな声が返ってきて、俺もついつい口元が緩む。
色々と仕事はあるが、あくまで澪奈の気持ちを優先したほうがいいだろう。
通話はそこで切り、俺は届いていたメールの連絡先に片っ端から電話を行っていく。
……曜日の交渉を行うとき、学生の立場がある澪奈は結構向こうも都合をつけてくれるから助かる。
先方がどうしても難しいという場合は、さすがに仕方ないが、わりと平日の夕方ぐらいからというのでもオッケーな人は多い。
特に、インタビューに関しては通りやすかったな。
撮影に関しては休日のほうがいいということが多かったので、土曜日日曜日を使う。
……軽く打ち合わせをしたところ、俺と澪奈のツーショットが欲しいというのもあったな。
俺が澪奈の隣にいると完全に霞むので、できれば一緒に映りたくないんだけどな……。
『和心クラン』の撮影も休日だ。
ただ、撮影が終了したあとに打ち上げなどもあることがほとんどなので、夜は明けておかないとな。
というわけで、午後の時間を使って調整を終えた俺は、澪奈に新しく作り直したスケジュールをメールしておいた。
……あとは、全員最低でも一回は直接あって打ち合わせをする必要がある。
さて、そろそろだよな。
俺が部屋の時計を確認したところで、部屋の外に人の気配を感じた。
ちょうどチャイムが響いたのでそちらへ向かうと、迷宮調査課の男性がやってきた。
もう二度検査してくれている人だ。
俺が笑顔で迎えると、男性は何やら緊張している様子だった。
「お久しぶりです。どうかされたんですか?」
「生放送見ました……まさか、マネージャーさんと澪奈さんだとは……」
「いえ……あっ、一応身バレとか怖いので住所とかは言わないでくださいね。まあ、もうほとんどバレてますけど」
「も、もちろんです。守秘義務は理解しておりますから…………検査結果でましたAランク、迷宮ですね」
「……Aランク、ですか」
「はい。一応、攻略依頼出しておきますか?」
「とりあえずは、大丈夫です」
迷宮調査課の男性が家を出たところで、俺は澪奈にメッセージを送った。
『検査結果、Aランク迷宮だって』
『やっぱり、そのくらいなんだ。分かった』
澪奈もTwotterなどで情報を公開する必要があるからな。
迷宮調査課の男性から念のためにもらった迷宮のランクを示す電子証明書も画像で送ってから、俺は軽く伸びをした。
さてと。
家での用事が終わったので、いくつか打ち合わせに行くとしようか。
澪奈にもらった変装グッズを身に着け、俺は家を出る。
……サングラスとマスクをつければ、俺はあとはもうどこにでもいる普通の見た目なので、特に外でも声をかけられることはなかった。
いやまあ、普通に怪しまれてたけどな……。
打ち合わせを終えて帰ってくると、澪奈が部屋にいた。
いつものように料理を作っていて、玄関を開けた俺に澪奈が笑顔を向けてくる。
「お帰り」
「ただいま。今日も迷宮に潜るのか?」
「うん。明日の生放送前に、軽く下見しておこうと思って。何かあったら大変」
「……そうだな」
「そういえば、キングワーウルフが落としたアクセサリーはどうだった?」
「あー、すっかり忘れてたな……」
一日仕事三昧だったからな。
とはいえ、うれしい悲鳴だ。
澪奈に料理の準備をお願いしながら、俺は装備を確認する。
キングワーウルフの指輪 ランク13
効果:【筋力+30】【速度+30】
スキル:【雷迅】
これは、かなりの代物ではないだろうか?
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