第12話「悪漢カーズの最期」

「チイッ、ジンクスめ。しくじりやがったな……だがこれで、追いついた。逃さねえぜ!」


 弓を捨てて、腰の剣を引き抜きながら油断なく悪漢カーズが走りこんでくる。


「カーズ!」


 ケインは、こんな時のためにワイルドガーリックの粉末で作っておいた煙玉を投げる。


「ゲホゲホ、ガーリックか? 味な真似をしてくれやがるぜ」


 強烈な刺激臭の煙でカーズの視界と鼻が潰された隙に、逃げ出そうとしたケインだが、悪漢カーズはやすやすと回り込んだ。

 目と鼻を潰されても逃がさない、スピードが段違いだ。


「クソッ!」

「ジンクスは、Cランクになったばかりの小童だった。だが、このカーズ様は熟練のCランクの冒険者だ。この意味がわかるか?」


「犯罪者に堕ちたお前らが、冒険者の名を騙るな!」

「そりゃこっちのセリフだ。お前がのんびり薬草を摘んでる間に、俺はずっとモンスターや人間を殺し続けてたんだぜ!」


 逃げきれぬと悟り、ケインはミスリルの剣を振るって立ち向かう。


「うぁぁあああ!」

「ケイン、オメエも筋はそんなに悪くはねえが、人を殺しなれてない剣だな。それじゃあ俺は殺せねえよ」


 ミスリルの鎧に身を固めるケインは、切れ味の鋭いミスリルの剣。

 革鎧しか着ていないカーズは、切れ味の鈍い鉄剣にもかかわらず、剣を打ち合うごとにケインが押されていく。


 対人戦は、モンスターとの戦いとは性質が違う。

 二人の経験値に差がありすぎるのだ。


「人を殺したことがそんなに偉いのか!」

「偉いさ。その証拠に、お前みたいな綺麗事を抜かす雑魚より、俺はずっと強い! 冥土の土産に、ランクの違いってものを見せてやろう。俺は、ジンクスのような毒は使わねえ。最後は、正攻法でお前を圧倒して殺してやる!」


 ケインと同世代のカーズは、前々から一方的にケインを嫌っていた。

 自分より格下のくせに、みんなが嫌がる薬草狩りの依頼ばかりを受けてヘラヘラとバカみたいに笑ってやがる。


 それで『薬草狩りのケイン』なんて揶揄されながらも、人に感謝されているこの男の善意が、修羅の道を歩んだ自分の生き方を否定しているように思えたのだ。

 だから、ケインが大事にしている教会の孤児院を狙うようにスネークヘッドにも進言した。


「カーズ、お前はなんで!」

「何が善意だ、何が善行だ! お前の大事なシスターも、俺がすぐに汚しきってやるよ! テメェの無力さを思い知れケイン! 負け犬のお前は、ここで俺に殺されて惨めに死ぬんだ!」


 熟練のCランク冒険者カーズは、吠えるだけの実力を有していた。

 切れ味にまさるケインのミスリルの剣を、巧みに硬い鉄剣の腹で受けて、強烈な反撃の一撃を喰らわせる。


 そして何より、人を殺す技術に長けているカーズと不慣れなケイン。

 殺し合いの瀬戸際で、この差は圧倒的だった。


「グッ……」


 ついに、ケインが追い込まれたその時だった。

 カーズの頭の上から、石つぶてのようなものが大量に降り注いでくる。


「ぐあっ、こりゃなんだぁ!」

「カーズ!」


 まさにそれは、天の怒りだった。

 頭に強烈な打撃を受けて、カーズは反射的に腕を上げてしまう。


 その一瞬の隙に、ケインは決死で剣を突き出す。

 鋭いミスリルの剣は、革鎧など物ともせずにカーズの胸を貫き通した。


「負け犬が、俺を……こんなの、絶対許せね……」


 悪漢カーズは血反吐を吐きながら、せめてケインに最後の一太刀を浴びせようと思ったが。

 その振り上げた腕すら石つぶての雨にパァンと弾かれ、剣を取り落としてそのまま絶命したのだった。

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