第97話「魔王残党の拠点壊滅」
順調にモンスター狩りを進めていた剣姫アナストレアたちは、魔王軍の内情をよく知るテトラの案内で、残党の拠点まで進撃していた。
「こっちでいいのね」
「ああ、前の拠点が確かだったらの話だが」
モンスターは、ダンジョンを巣窟にしていることが多い。
ここは、森の西側にいくつもある洞穴の一つであった。
「うわ!」
先導していたテトラがびっくりする。
洞穴から、ゾロゾロと無数のアンデッドが飛び出してきたからだ。
どうやら、殺されたエルフや死んだモンスターの死体を使ったリビンドデッドらしい。
敵にはネクロマンサーでもいるのかもしれない。
「趣味が悪いわね」
近づいてくるアンデッドをしっかり切り払いながら、眉をひそめるアナ姫。
「ど、どうするのだ!」
随伴していたエルフの弓兵隊長アトラスは焦る。
リビンドデッドは強さは大したことはないが、弓を撃ち込んでも平気で動き回るため、弓兵には脅威となる。
アトラスが一時撤退を提案しようとしたとき、聖女セフィリアが、私の出番とばかりに前に出た。
「……私が、やります。主神オーディアよ、
輝ける光が辺りに広がり、無数にいたアンデッドたちはすぐに浄化されて清らかな灰へと変わっていく。
王国唯一の聖女の力は絶大だった。
「おお、素晴らしい。感謝するぞ人族の聖女よ」
人族と侮っていたが、仲間に死後の安らぎを与えてくれる聖女の力に、アトラスは感謝した。
種族は違えど、同じ神を信仰する民に違いはないのだ。
エルフの死者たちも、アナ姫に切り殺されるより神聖魔法で浄化されるほうがよっぽど良いだろう。
リビンドデッドに混ざっているモンスターは、素早くアナ姫とテトラが片付ける。
こんな調子で、すぐに洞穴の奥まで到達してしまった。
「せっかく新しい拠点を苦労して築き上げたというのに、またお前らか!」
魔王の玉座……にしては、みすぼらしい骨でできた椅子に座っているオークの王が立ち上がる。
オークの上位種、ハイオークと呼ばれる種族だった。
それなりに強い悪鬼ではあるが、所詮はオークなので王冠をかぶって魔王を気取ると、できの悪いコスプレにしかみえない。
「あんた、誰だっけ」
またとか知ったように言われても、アナ姫に全く見覚えはない。
「聞いて驚け! 俺こそは新しき魔王、グラゴロ様だ! 者どもであえ! 忌々しい侵入者をやっつけギュゲ!」
相手の話を聞かないアナ姫は、最後まで聞かずに神剣を振って、スパンとグラゴロの首を断ち切った。
グラゴロが呼んだ援軍のオークキングたちも、アナ姫に瞬殺されてしまう。
「グラゴロか、魔王軍の妖魔将だったハイオークの族長だな」
アナ姫が倒した死体を見て、元は魔王軍の獣魔将であったテトラがそんなことを言う。
「あんたの元同僚?」
「そうだ。どうやら、残党を集めて魔王を名乗っていたようだが」
グラゴロの身体は、首を切られても生前の怨念に突き動かされ、死にきれずにうごめいている。
「あら、これもアンデッドですよ。可哀想な魂よ、安らかにあれ」
魔物にすら憐れみをみせるセフィリアは、聖者の光で浄化して灰へと返してやった。
「ふーん、アンデッドだったんだ。魔王軍の幹部だったら、全部殺してるはずだもんね」
いちいち名前や顔は覚えてなくても、アナ姫もさすがにそれぐらいは覚えている。
「グラゴロを、アンデッドとして蘇らせた敵がいるということか」
テトラはちょっと考え込む。
それはつまり、さらに敵がいるということなのだが。
「どうでもいいわ。とりあえず仕事終わりってことで、ケインのところに帰りましょうよ」
「しかし、グラゴロを蘇らせた敵がまだいるかもしれないぞ?」
グラゴロだけでなく、大量のアンデッドを作り出した敵だ。
油断していい相手ではない。
「それは、出てきたときに考えればいいでしょ。もう他に敵もいないようだし、ここにいてもしょうがないわよ。さっさと帰りましょうよ」
「それもそうか」
ケインのところに帰ろうと言うアナ姫の言葉に、テトラもセフィリアも特に反論はない。
頭脳労働担当のマヤがいないと、こんなものだ。
しかし、獣人隊とかエルフの弓兵部隊とか物々しく連れてきたのに、結局アナ姫一人でやってしまって何の役にも立たなかったなと、テトラはあっけなく思うのだった。
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