第181話「サカイの街」
この大陸における西方最大の商業都市サカイ。
常に数百の商業船が行き交う大きな港に、一際豪華な客船がやってくる。
「あれがもしや、近頃評判のケイン王国の船ではないか」
一人の商人が指を指して言う。
大きな客船というだけなら他にもあるが、アルビオン海軍が誇る高速戦闘艦が護衛に付いている船となるとそうに違いないと、口さがない商人達は噂し合う。
「あの善王がついにサカイに来ましたか、これも商売の種になるかもしれませんな」
「ケイン王国産の陶器は品質もよろしいようですよ。うちの店でも、仕入れてみることにしますか」
ケインの乗った船を見て、あーでもないこーでもないと騒いでいる商人の中に混じって、じっとその船を睨めるように見つめる男が一人そっと路地裏へと消えた。
※※※
場所は変わって商業都市サカイに隣接するゼットランド侯爵の屋敷。
先程の男が、跪いて報告する。
「善王ケイン、サカイの街に入りましてございます」
「そうか。サカイが、我が領地ならばやりやすかったものを忌々しいことだ」
玉座の貴族は銀髪碧眼で整った顔立ちをしていたが、その態度が傲慢さを隠しきれていない。
「……」
「あの豊かなサカイの街は、本来なら我が領地だったのだ。あの忌々しい七賢者どもが都市の自治などを言い出さなければ……」
ブツクサと、ゼットランド侯爵が一人で延々と愚痴を言っているのを、かしずく男は黙って聞いている。
話が終わるのを待って、続けて言う。
「善王ケインを殺し、その罪を七賢者に着せれば国王陛下も考え直すのではないでしょうか」
「おお、それよ。一挙両得の案だ。その方は、知恵者だな」
「我が献策をお認めになる、ゼットランド侯爵閣下の慧眼あってのことにございます」
かしずく男の謙遜など聞こえぬ素振りで、ぶつくさと言う。
「ケインなどという成り上がり者が、国王陛下と対等の王を名乗っておることが間違いなのだ。まったく、国王陛下も何を考えておられるのか」
このままではいけない。
国の秩序を取り戻さなければならないと、虚空を見つめてまるで独り言のようにつぶやく。
ゼットランド侯爵は言葉を遮られるのを一番嫌うので、かしずく男はその繰り言が終わるのを待ってから言う。
「まったくもってその通りかと、全ては御意のままに……」
ゼットランド侯爵はそう頭を下げる男を無視して、ニタニタと笑いながらまるで何かに取りつかれたような動きでふらりと退出した。
※※※
商業都市サカイは、大陸でも有数の百万都市だ。
船から降り立ったケインは、あまりの壮大さに腰を抜かしそうになる。
「ほんとにでっかい街だなあ」
ただの商業の街ではない。
大陸の南方や東方、極東の商人までもがここで商いをしていて、異国情緒溢れるオリエンタルな商業地域となっている。
サカイにいるだけで、世界各国の様々な文化に触れることができるのだ。
市場を見ているだけで飽きない。
田舎者丸出しで、驚いているケインに魔女マヤが耳打ちする。
「ケインさん。ぜーったい、ここで二人を新婚旅行させるから」
「そ、そうか。そういう話だったね」
マヤには策があるのだ。
まず、一人ずつ分断していく。
「せっかくサカイまで来たんやから、ノワちゃんを賢者の運営する
「うん、でっかい学校いくー!」
そこには王国最大の図書館があり、七賢者の運営する世界でも最大規模の
新しい知識を求めているノワも喜ぶし、ケイン達も夫婦水入らずで過ごせるし一挙両得の策であった。
「でも、そんなでっかい学校にいきなり行って大丈夫なのかい?」
心配そうに言うケインに、マヤは胸を張って言う。
「ウチを誰やと思ってるんや。大賢者の娘やぞ。顔パスに決まってるやん」
「そ、そうなのか」
相変わらず最強のコネクションだ。
「まず、リゾートホテルに行って、それからノワちゃんを学園に連れて行くわ」
「じゃあ俺も行くよ」
ノワを預けるのだから、しっかり見てこなければとケインが椅子から立ち上がる。
「私も行くわよ」
ケインが動いたのを見て、アナ姫もセフィリアも付いてくる。
新婚旅行だというのに、いつまでくっついているつもりなのか。
こいつらも、なんとかせにゃならんなとマヤは考えるのだった。
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