第170話「閑話「深夜ラジオ」」
テレッテ~♪ テーテッテレテッテレ~♪
深夜ラジオ風の音楽が流れる中、万能の魔女マヤはテーブルから一枚のハガキを取り出す。
「次は、高所に咲く薔薇乙女団に質問のコーナー、ドンドンパフパフ!」
自分で効果音まで言ってしまっているが、誰もツッコんでくれないのに一瞬苦笑するマヤ。
同じくテーブルに着席している神速の剣姫アナストレアと純真の聖女セフィリアは、突然の場面転換についていけずに、キョロキョロと当たりを見回す。
「えっ……なんなのマヤ! 何ここ!?」
「だから、読者からのお便りのコーナーや」
「だからじゃないわよ! 何よお便りって、いきなりなんなのよこれ! エルンの街じゃないの。どこなのよここ」
「スタジオや」
「わけわかんないんだけど、ちゃんと説明しなさいよ!」
「説明せんでも、すぐにわかるで」
スタジオと言う言葉は聞いたことがないのだが、何故かアナ姫の脳内に現代日本のメタ的な情報が入り込んできて、頭を手で押さえる。
頭が混乱する。
「ラジオ風、スタジオ……なによ、これ……」
いち早くこの場所に対応していたマヤはフフンと笑う。
「な、不思議なもんでわかるやろ。うちの予測やと、ここは一つ次元が上の世界やと思うで。まあこの話はSFやないから、わりとどうでもいいんやけど」
「いや、それどうでもよくないでしょ」
「まあまあ、とりあえずこれ読んでみい」
マヤが差し出すプレートを読むアナ姫。
「おまけのショートストーリー?」
「せやで。ここはおまけ時空やから、なんでもアリやで」
「……さっきからおかしいと思ったんだけど、いつもと違ってマヤがボケ倒して、私がツッコんでるのもおまけ時空だから?」
メタフィクション? おまけのコーナー?
よくわからないが、肌寒さを覚えて震えるアナ姫。
「フフ、そういうこっちゃ。じゃあ、おハガキを読むで、大事な読者様からの質問やから回答拒否はなしのルールやで。グヘヘ、セフィリアちゃんのスリーサイズでも聞いてくれたらええな」
「マヤ、いつもとキャラ変わりすぎでしょ……」
アナ姫のツッコミも無視して、お便りを読み始めるマヤ。
「えっと、『マンガ版は原作小説と違ってマヤさんがかなりはっちゃけてますが、どうしてなんでしょうか』……なんや、つまらん質問やな。もっと色気のある質問をせんかい!」
「私もそれ気になってたけど、マヤはマンガになってからはっちゃけすぎよね」
「あーそれな、原作者と漫画家の先生との間でどういう相談になったんか知らんけど、漫画はもっとうちをはっちゃけさせようって話になったらしいで。まあ、あれやな原作はアナ姫やセフィリアが好き勝手するから、うちがツッコミに回らんといかんからなかなか自由に動けへんかったし」
「なんか全部私のせいみたいにされてるけど、マンガでもちゃんとマヤはツッコミもやって話をまとめてるし、単に原作者が力量不足だっただけじゃないの!?」
スタジオの外から、「さっさと次の話題行って!」という声がかかりマヤが苦笑する。
「まあ、そこは深くは触れんといたるわ。次のおハガキ行くで、えっと、聖女のセフィリアは十三歳にしては胸が大きすぎませんか。何を食べてそんなに大きくなったんですか。それと、スリーサイズを教えてください、キマシタワー!」
「……えっと」
アナ姫は言葉に詰まる。
キマシタワーというより、悪ノリでセクハラするおっさんでしかない。
「グヘヘヘ。さーて、セフィリアちゃん。スリーサイズ公開の時間やで」
「……」
セフィリアは顔をうつむかせると、もじもじするだけで何も答えない。
「なんやセフィリア。あんまり時間もないんやし、焦らさんでちゃっちゃと答えんか」
「そういや、セフィリアここに来てからほとんどしゃべってないわね……って、ちょっと待ちなさいよ! ハガキにスリーサイズの話なんて何も書いてないじゃない!」
マヤが持ってたハガキを覗き込んだアナ姫が、鋭いツッコミを入れる。
「番組が面白くなるように、ちょっと脚色を加えるのが優れたパーソナリティーってもんやで」
「私達は、パーソナリティーじゃなくて冒険者パーティーでしょ!」
「あーアナ姫、そのツッコミは下手っぴやわ。ダジャレのつもりか、まだまだやな」
「そんなつもりで言ったんじゃないわよ!」
強引に滑った空気にさせられて、ムッとするアナ姫。
「はーい、アナ姫のツッコミが滑った罰でセフィリアのスリーサイズ公開や。なんなら、うちにだけ教えてくれてもいいで」
マヤがそう言うと、ゴニョゴニョと恥ずかしそうにセフィリアが耳打ちする。
ほうほうと、嬉しそうに聞き耳を立てるマヤ。
「マヤだけに教えても、読者は何も嬉しくないでしょ!」
「ひゃ、百ぅ!? 嘘やろ。前そこまでやなかったやろ。いつの間にそんなに育ったんや!」
わざとらしく一部のサイズを漏らしてしまったマヤの背中を、セフィリアは真っ赤な顔で睨みつけてバンバンと叩く。
「冗談やって、生暖かい目でいつも見守っとるうちがセフィリアの成長に気が付かんはずないやろ。作中で一年以上経っとるし、育ちもするわな」
呆れるアナ姫は、これをどうさばいたらいいんだかわからない。
今日のマヤは、テンションがおかしすぎる。
「はぁ、なんかツッコミ役って疲れるわね」
「これでアナ姫たちのボケに振り回されるうちの気持ちが、これで少しはわかったやろ。たまにはうちにもストレス解消させろって話やねん」
「もうマヤも気が済んだでしょ。いい加減帰りたいんだけど」
「ついでやし、アナ姫のスリーサイズも発表しとくか。うち知っとるで」
ついに読者のハガキも関係なく、マヤがそんなことを言い出す。
「いい加減にしなさいよ!」
あっ、これは自分がオチに使われるやつだと気がついたアナ姫は、立ち上がって神剣
「ちょ、アナ姫、何する気や! ここで抜剣は反則やぞ!」
「そんなの知らないわよ。これが私のできる最大のツッコミよ!!」
アナ姫は、ズバッと音を立てて、スタジオの壁ごと時空を斬り裂いた。
「ひぇぇ、時空ごと斬り裂いて強引におまけショートストーリーを終わらすなんて、ムチャクチャすぎるやろ! またこんなオチかいな!」
スタジオの壁が斬り裂かれてぐるりと世界が一転すると、Sランクパーティー『高所に咲く薔薇乙女団』の三人は、辺りはエルンの街の路上に戻っていた。
「あれ、うちら何しとったんや?」
「……マヤ嫌い(ボソッ」
「ななな、なんでうちがセフィリアに嫌われとるんや。アナ姫、これ一体どういうこっちゃねん!」
どうやらいつもどおりに戻ったらしいと安心したアナ姫は、「そんなのどうでもいいわ。さっさとケインの家に行くわよ!」と呼びかけて、ズンズン歩いていくのだった。
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