第三章「オリハルコン山」

第99話「ドワーフとの諍い」

 ケインたちは、エルフ七部族会議の代表アーヴィンの要請を受けて、古の森の北側までやってきていた。

 ドワーフとのいさかいが起きているので交渉の場を設けたが、人族のケインならば中立的な立場で仲裁ちゅうさいができるだろうとの願いだった。


「アーヴィンも、ついにケイン様のことを認めたんですかね?」


 フフンと笑いながらローリエが言う。


「争いの仲裁なんて気が重いですけど、頼まれたからには頑張ってみます」


 なんと、アーヴィンはこの問題についての外交権をケインに一任すると言ってきた。

 外交なんてケインにできるはずもないと思うのだが、魔女マヤが「いざとなったら、うちがあんじょうようやったる」と言ってくれたので、とりあえず現場まで来てみたのだ。


 会場となった古の森の一番北側のエルフの村で、さっそくドワーフたちとエルフが争論を起こしている。


「あれが、ドワーフか」


 自分の育ての親がハイエルフなので、エルフは見慣れているケインだが、ドワーフを見るのは初めてだった。

 ドワーフたちは、古の森の北側にある鉱物資源が豊かなオリハルコン山に住んでいる。


 名前の通り、希少資源であるオリハルコンが採掘できることで有名だ。

 その他にも白金貨や錬金術の稀少原料にもなる白金、ミスリル、金、銀、銅、鉄、錫に鉛までなんでも取れ、ドワーフの地下王国はエルフに並ぶ繁栄を誇っていた。


 背の低い髭面、ずんぐりむっくりとした体型のドワーフたちは、鉄兜をかぶって鉄の鎧を身にまとい、手に斧やツルハシを持っている。

 交渉すると言っているのに、向こうは露骨に武装してきている。


 エルフのほうも敵愾心てきがいしん剥き出しで、弓を構えているのだから文句を言えたものではないが。

 ほとんど武力外交となっている。


「我々の森の木を勝手に切るとはなにごとか!」

「お前たちエルフだって、ワシらの山から石や砂を勝手に取っとるじゃろうが!」


石塊いしくれごときと、我らの神聖なる木を一緒にするな!」

「なんじゃと、そもそもこっち側はワシらの土地じゃぞ!」


 両方とも一歩も譲らず、今にも戦争になりそうな勢いだ。

 仲裁なんてしたことがないから、なんとかしろと言われてもケインは困ってしまう。


「どうしたものかなあ……」


 ケインは、知恵のあるマヤに尋ねてみる。


「ドワーフは、木を欲しがってるみたいやから交易したらあかんのか?」


 ドワーフが作る金属製品や宝石のアクセサリーなどは、エルフも欲しがる物資であるはずだ。

 しかし、ハイエルフの女王であるローリエは左右に頭を振る。


「難しいですね。エルフとドワーフの仲の悪さは大昔からですから」


 そもそも、交易自体はしているらしいのだ。

 しかし、お互いに寄ると触ると衝突しあってるので、隣国であるドラゴニア帝国の商人が仲介して取引しているらしい。


「なんや、そんなもったいないことをしとんのか!」


 それでは、帝国の商人が儲かるばかりでお互い損をする。

 アウストリア王国の官僚でもあるマヤとしても、帝国側が儲けてるのはとても面白くない。


「まあ、ケインさん。まずうちが向こうのトップに交渉してみるわ」


 こちらは、ハイエルフの女王であるローリエが来ると伝えてあるのだ。

 向こうも、オリハルコン山を治める大王が出てきている。


 偉大なる金槌かなずちのバルカンと呼ばれる。

 ドワーフの諸氏族を束ねる王の中の王として、有名な人物だ。


「なぜ、人族がいるのだ」


 ドワーフの中でも一際体格が大きく、立派なヒゲの厳格なるバルカン大王が、マヤとケインに声をかけた。

 首に金の鎖をかけて、宝石に彩られた王冠をかぶって、いかにも王様という風体だ。


「うちらは、今回の仲介役や。うちがアウストリア王国の顧問官のマヤ・リーンで、こっちが古の森の南側の領主代行であるケインさんや」


 大王と交渉できるように、それなりに立場がある人間だということをアピールしたのだが。


「人族の役職など知ったことか。関係ない国が、エルフとドワーフの話に口を挟むな!」


 一喝されてしまった。

 これでは、取り付く島もない。


「エルフの国の女王である、私が依頼して来てもらったのです」

「そちらの都合など知らぬと言っておるだろう。エルフの女王よ、こちらはすでに一戦交える覚悟で来ておるのだぞ」


 尊大なる態度。

 エルフもエルフだが、ドワーフもドワーフだ。


 交渉の場に姿を現しているのだから、いきなり開戦するつもりはないだろうが、エルフの国が魔王軍の残党に襲われて、弱体化しているとわかっての威圧でもあろう。


「あれがドワーフの大王様か」


 怖い人だなと、ケインは思う。

 目が合ってしまい、ギロッとケインを睨んだドワーフの大王は声をかけてきた。


「おいそこの人族、貴様が腰に付けているその剣……」


 大王がそう言いかけたとき、騒ぎは起こった。


「大変だ! モンスターが出たぞ!」


 一瞬、ついにドワーフとエルフが戦争を始めてしまったのかと思ったが、魔王軍の残党がこの最果ての村にまで襲いかかってきたらしい。

 戦争になるよりはいいが、襲ってきたモンスターの数は多い。


「ケインさん、これはチャンスや」


 魔女マヤが、なにやら考えが有りげな顔でケインにささやきかけてきた。

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