第25話「クコの村でのケインの評判」
後日、剣姫アナストレアたちはクコの村でケインの評判を聞いて回った。
「ケインのことについて聞きたいんだけど」
「おお、お嬢さん方、ケインさんのことについて聞いてくれるか。まずこの食料の山を見てくれよ。日用品もこんなにあるし、当座の資金まで入っていた。仕事に出られなかった俺たちのためにケインさんがくれたものだ」
村の若い衆は、まるで我がことのように自慢する。
「でもそれって、匿名で配られたものなんでしょう」
「ああ、でもケインさんがしてくれたって疑うものはいねえよ」
「なんでなの?」
「この送られてきた品々を見たらわかる。この村の
村人は、感謝の面持ちで切々と語る。
「そうだよ、冒険者たちがケインさんがゴブリン討伐の報奨金を、みんな村の支援物資に充ててくれたんだって言ってたもん」
どうやら、匿名でという形式がまったく機能していないようだった。
それもそのはず、百人以上の人間がケインがゴブリンの大巣窟を討伐したところを見たのだ。
そこにはクコ村の若い狩人たちも参加していたので、噂が広まらないわけがない。
「へー、ケインって偉いのね」
そう言う剣姫に何を白々しいと魔女マヤは呆れるが、まあツッコむ程の話ではない。
「そうだよ。ケインさんはすっごく偉いんだ。うちの村の誇りだよ!」
村人でもないのに、ケインは村の誇りにされてしまっている。
「ケインのおいちゃん、すごーいの。お菓子くれるもん!」
ヨルクの孫娘のカチアも、手放しに喜んでいる。
支援物資の中に、ちゃんとカチア用のお菓子が入っていたのでごきげんであった。
ケインは子供にも人気があるのかと、剣姫アナストレアと聖女セフィリアは喜んでいるが、マヤは笑いをこらえるのに必死だった。
そこに、黒々とした立派な丸太を運んできた木こりたちがやってくる。
「おお、ケインの話をしとるのか」
そう言って微笑んだのは、茶色の髪や頬髭に白髪が目立ってきたヨルクだった。
「ヨルク、これは立派な黒石松の丸太じゃの」
村人たちが、丸太に集まってくる。
「取っておきのを切り出してきたところだ。これで、ケインに少しでも恩返しをしようと思ってな」
「ヨルク、ケインさんがまだ家を建てるとは聞いとらんぞ」
「うむ、家はまだだが、ケインが大事にしとった山の麓の祠があったろう」
「あーそういえばあったな。何の神様か知らんが、ケインがあんなに真剣に拝んどるから、ご利益があるんだろうと思ってワシもたまにお参りしとるわ」
「そこで、この取っておきの黒石松だ。家具屋! 材木屋! 大工屋! お前らならあの素人が作った掘っ立て小屋より立派な
かなり硬い黒石松の木は、切り出すのが極めて大変ではあるが、材木にして丁寧に磨くと美しい艶が出る。
このあたりでは、最上級の高級材として知られている。社を作るにも、申し分ない素材だ。
「なるほど、これほどの丸太ならケインの神様にふさわしい社を作ってやれるぞ!」
「ワシらもみんなで手伝うでな、ケインを喜ばしてやろう」
村の職人たちが力を合わせて、みんなでケインの神様の社造りが始まった。
盛り上がっている村人をよそに、剣姫たちはエルンの街の方へと歩いていく。
「アナ姫、また良からぬことを企んでる顔やな」
「これだったんだわ。やっぱり
今度は、質より量作戦でいくらしい。
次から次へとよく考えるものだと、マヤは呆れる。
「いや、評判が良かったのは、ケインが報奨金をみんなに配ったからやないんか」
「今のクコ山には、ゴブリンロード、オークロード、オーガロードと討伐対象がよりどりみどりよ!」
この子はまた話を聞いていない。
だが、アナ姫が言うことも本当のことだ。
隣のシデ山から渡ってきたのか、それとも悪神の影響で発生してしまったのか、今のクコ山の奥地にはロード級のモンスターの姿を見かけるようになった。
それを人知れず退治して回っているのが、マヤたち『高所に咲く薔薇乙女団』だったりする。
「まず、それらの敵の討伐依頼を冒険者ギルドに私から出すわ」
実際にロード級のモンスターは出没しているのだ。
それらの討伐依頼を出すこと自体は特に問題ない行為ではあるが、Dランク冒険者のケインが受けるとも思えない。
「なんか嫌な予感がするんやけど、アナ姫はどうやって依頼をケインのおっさんに受けさせるつもりなんや?」
「それはそうね。ケイン担当の受付嬢の……なんて名前だっけ? あの色気ピンクオバサンにでもやらせればいいでしょう」
あかん、これは止められへんと、マヤは真っ青になった。
エレナさん逃げてー!
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