第184話「新婚旅行」

 ここ数日、サカイの港町の観光を楽しんでいるケインとアルテナは、岬にある大灯台を見物に来ていた。

 高さは西洋一だとも言われる、大理石で出来た高さ百三十四メートルの大灯台はまさに壮観であった。


 ケインはこんなに高い建物を見たことがなく、口をあんぐりとあけて見上げるしかない。


「ねーねー、お客さんアイスクリーム買ってよ!」

「サカイ名物の甘くて美味しいアイスクリームだよ! うちのお店が一番美味しいよ!」


 ぼんやりと見学しているケインは、アイスクリームを売る売り子の兄妹に囲まれてしまった。


 大灯台の周りは公園として整備されており、観光地であり市民の憩いの場所でもある。

 商売上手なサカイの商人が、ここに出店を出さないわけがない。


 人の良さそうな顔をしているいかにも田舎者のケインは、物売りの兄妹には格好の商売相手に見えるのだろう。

 まだ幼さが残る黒髪の兄妹だけで屋台をやれているのは、サカイの街の治安が良いということだった。


「ケインは、昔からそうよね」


 どこにいっても、さっそく売り子に囲まれてしまうケインを見て、アルテナは笑う。


「アイスクリームってなんなんだい?」


 片田舎であるエルンの街から出たことがない田舎者のケインは、もちろんアイスクリームを知らない。


「甘くって、冷たくって、とっても美味しいんだよ!」

「大賢者様の魔法の氷を使ってできてるんだ!」


 このアイスクリームの屋台。

 余談ではあるが、マヤの父親である大賢者ダナ・リーンが経営している店の傘下である。


 アイスクリームを作るための大量の氷は、それなりに魔法力がある魔術師にしか作ることができない。

 そのため、大賢者のアイスクリームはほとんど専売特許みたいなもので、ダナ・リーンの商会はかなりの儲けを出していた。


「そうか、じゃあ二ついただこうかな」

「毎度あり!」


 銀貨六枚を渡してアイスクリームを二人分買ってみるケイン。


「アルテナも食べてみる?」

「これがアイスクリームなのね、甘くて美味しいわ」


 アルテナは、長らく女神様をやっていたから下界のことをかなり知っていた。

 サカイの街で評判のアイスクリームも、食べたことはなくてもどういうものかは理解しているので上手に舐めて味わっている。


「つ、冷たい!」


 アイスクリームを初めて知ったケインは、甘くて美味しいというより。

 まず、その冷たさに腰を抜かしそうになるほど驚いた。


「アハハッ! ケイン、鼻にクリーム付いてるわよ。じっとしてなさい」


 アルテナは、ハンカチでケインの鼻についたクリームを拭いてあげる。

 まるで、子供の頃の二人に戻ったみたいな気分であった。


「じゃあ、そろそろ次の場所にいこうか」

「おじさん買ってくれてありがとう!」


 そう言って手を降って去っていく、黒髪の売り子の兄妹をケインは見て。


「ノワは、学校で元気にやってるかな……」


 そう思い出したように、つぶやくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おっさん冒険者ケインの善行 風来山 @huuraisan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ