第102話「大王からの依頼」
「頭を上げてください、バルカン大王。ドワーフを救うとは、どういうことですか」
一国の王に、いつまでも頭を下げさせているわけにはいかない。
買いかぶられても困るのだが、ケインはまず詳しく聞こうという姿勢を見せた。
「子供が殺されようとしているのを黙って見ているのかという、先程のおぬしの言葉。あれはワシの胸に突き刺さった。話せば長くなるが、聞いてくれるか」
大王によれば、オリハルコン山のドワーフも、大きな問題を抱えているというのだ。
それは、ドワーフが繁栄し過ぎたがゆえの人口問題であった。
「人が増えすぎたんですか」
「そうだ。このオリハルコン山だけでは支えきれぬほどにドワーフの数が増えている。かといって、ドワーフはこの山から離れて生きられぬ」
「大変な問題ですね」
「それ故に、山の民の心は
民を守る統率者として思い悩むあまり、人としての心を忘れていたと、バルカンは苦渋の表情で語る。
エルフと争いになると知りながら、古の森まで越境して材木を集めなければならない理由もそこにあった。
ドワーフの仕事には燃料として薪が不可欠なので、オリハルコン山は禿山になりつつある。
このままでは、滅びが待っていた。
「知らぬこととは言え、無礼なことを言ってすみませんでした」
「いや、謝るのはワシのほうだ。民を守れぬ王などに何の価値があろう。善者ケインよ、子供にエルフもドワーフも関係ないと言った、その言葉を信じて頼むのだ」
「もちろん俺にできることなら、なんでもさせてもらいますが……」
助けてくれと言われても、ケインはただの冒険者だ。
できる限りのことしかできない。
「おぬしは、神に見込まれるほどの人間だ。ワシにできることはなんでもしよう。報奨は何がいいだろうか」
そう言って、バルカンが勢い込むのを待ってくださいとケインは押さえる。
あんまり期待されても困るが、できることを考えてみる。
「とりあえず、足りない木材はすぐにローリエさんたちに頼んで、こちらに送ってもらうようにしてみます」
この前の間伐で出た木材が、ちょうどあったと思い出した。
エルフとドワーフが縁を結ぶにはちょうどいい。
「それは助かる。一方的な贈り物はドワーフの誇りにかけて受けられんから、その分を他の物資で返すとしよう」
やはり為政者たちは、現状の問題を認識しているのだ。
エルフを嫌うドワーフたちの手前、直接交易するとは言えなかったが、大王は実質的に交易をすると言っている。
これでドワーフとエルフの国境の争いも収まるだろう。
しかし、根本的な人口問題はいかんともしがたい。
木材が手に入っても土地が足りなかった。
山に暮らすドワーフは、山を離れては生きられない。
「マヤさん」
「なんや、ケインさん」
「何かいい方法はないだろうか」
そう言うと、マヤはクスクスと笑いだした。
突然どうしたと、ケインは目を見張る。
「いや、すんません。もしこれがアナ姫やったら、うちに何も聞かずに力ずくで解決しようとしてたやろうなと思ったら笑ってしもてな」
同じ神剣の持ち主でも、アナ姫ではなくケインを頼ったバルカンの判断は正しかったように思える。
「俺が頼まれているのに、マヤさんに振ってしまったのは無責任だったかな」
「いやいや、困ったときに誰かに相談するって大事なことやで。そうやって頼ってもらえたら、うちも嬉しいわ」
「そう言ってくれると助かるよ。もしかして、何かいい方法があったりするかな?」
「もちろん心当たりはあるで、これでもうちは大賢者の後継者や。ここは知恵の見せ所やろう。なあ、大王はん」
「なんだ!」
バルカンは、
「ドワーフといっても、土や砂地で暮らすドワーフもおるんやろ」
マヤがそう言うと、大王は驚いた顔をした。
「ほう、人族がよく知ってるな。土ドワーフ族や、砂ドワーフ族という変わり者らがおるよ」
「だったら、住める場所は山に限らんっちゅうことやないか」
土ドワーフ族は粘土をこね回して土器や
鉱山でなくても、地中であれば住めなくもないとは言える。
「そうは言っても、空いている土地など、ここらにはあるまい」
「それがな、うちに移住先の心当たりがあるんや。しかも、食糧も確保できるおあつらえ向きのところがなあ」
そう言うと、マヤはニンマリと笑った。
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