第13話「ケインの新しい剣技?」
ケインがカーズとジンクスを倒して森を去った後。
また性懲りもなくこの戦いをこっそり眺めていた剣姫アナストレアがひょっこりと現れる。
もはや言うまでもないが、ケインの拾ったミスリルの鎧は、アナストレアがさり気なく置いたものだ。
「さっきの敵の頭の上から落ちてきたのはこれね。なんなのかしら?」
カーズの死体の周りに大量に落ちている、黒い石のような物体をアナストレアがひとつ拾い上げる。
「これは、石黒松の木の実やな。子供がよう遊びに使うわ。石ぼっくりって聞いたことないか?」
博識な魔女マヤは説明する。
通称石ぼっくりとも言われ、黒くて石のように硬い実がなる。
先が結構尖ってるから、こんなのが頭の上に降り注いだら、たまらないだろう。
この石ぼっくりのおかげで、ケインは助かったのだ。
「石ぼっくりなんて聞いたことがないわ」
「そりゃ、アナ姫は知らんか」
お姫様育ちだからしょうがない。
伝説の大賢者の義娘とはいえ、野山で遊んだりして普通の子供時代も経験しているマヤとは違うのだ。
大公爵の姫君だった剣姫アナストレアと、修道院にこもりっきりだった聖女セフィリアは、この一年の冒険者生活を除いて野を駆け巡った経験すらない。
おかげで二人とも、まともな常識がまったくないのだ。
「そんなことはどうでもいいのよ。この木の実、もしかしてマヤが魔法で落としたの?」
「いいや、いい加減危ないと思ったから魔法を撃とうと思ったら、その前にこれが落ちてきたんや。偶然……ちゃうかなあと思うんやけど」
さすがに、こうも奇妙な偶然が続くと、ちょっとおかしいなとは思えてくる。
「そっか、わかったわ! これもケイン流の剣技なのよ!」
「……それ、一応どんな剣技か聞かしてもらえるか?」
「ケインは、盛んに山を駆け巡ってたわよね」
「そやな」
「なんか強烈な匂いのする粉も敵に浴びせたりしていた」
「あれは、なかなか面白かったわ」
「だから、この木の実もケインが落としたのよ」
「なんでやねん!」
「ほら、わからないかしら。こう、木に衝撃を与えたりして、良い感じのタイミングで敵の頭に木の実が落ちるように謀ったんでしょう!」
「偶然って解釈したほうがまだマシや……」
「うん、ケインらしい自然を生かした素晴らしい剣技だわ。私だって訓練すればできるかもしれないわね」
「そりゃ、天才剣士のアナ姫やったらできるかもしれんけども」
「秘剣、木の実落とし! ほらできた!」
アナストレアがパーンと樹の幹を殴ると、少し遅れてバラバラと硬い木の実が落ちてくる。
本当にそれらしいことができるから剣姫は怖いが、それ剣つかってないやろ、なんで秘剣やねん!
相変わらずの剣姫にツッコむのにも疲れたマヤは、木の上を見つめる。
こんなにたくさん木の実が都合よく上に生えていて、あんなタイミングで都合よく落ちて敵に殺到するとか、やっぱりありえない。
だが、ケインのおっさんは、格上の二人組相手に勝利してみせた。
何かあるのは確かだった。
「なあ、セフィリアはどう思う?」
また感涙に咽ているセフィリアは、「ケイン様を、暖かいものが守ってる……」とつぶやいた。
「またそれか!」
不思議少女もたいがいにせえ、もう君達とはやっとれんわ。
そう言いたくても言えないのが『高所に咲く薔薇乙女団』リーダー、魔女マヤの悲しい立場であった。
「あとはタイミングの問題っと……秘剣、木の実落とし!」
「アナ姫、いつまで遊んでるんや。そろそろ行くで」
「行くってどこに?」
「決まっとるやろ、もうさっさとけりを付けて全部終わりにするんや」
考えるのが面倒になったマヤがそう言うと、剣姫たちもニッコリと笑って頷いた。
三人が去った後、アナストレアが殴った黒石松の木から、時間差でバラバラと大量に硬い木の実が降り注ぐ。
秘剣、木の実落としの完成であった。
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