第9話「セフィリアの告白」
孤児院で子どもと戯れているケインに、シスターシルヴィアは教会から取っておきのポーションを二本持ってきた。
「ケイン、これはうちの教会で作れる最高の回復ポーションと毒消しポーションなんだけど」
「いや、シスターそんな高いもの」
「ポンと私達のために六千ゴールド払ってくれたのに、高いも何もないでしょう。これだけは、受け取ってくれなきゃダメよ」
「でも、経営も苦しいのに」
「ケインは冒険者生活をしているのに、ろくなポーションも持っていないんでしょ。前から私はずっとケインのことが心配で、これは今日のことがなくても渡そうと思ってたのよ。今の私にはこれぐらいしかお礼できないけど、もしものときのお守りだと思って、ね?」
そういって、シスターは遠慮するケインに無理にもポーションを押し付けようとする。
「私もケインにお守り渡すー!」
そう言うと猫耳のミーヤは、市場で売るのに作って売っているという可愛らしい風車を持ってくる。
「ケイン、ケインー。これはふつうの風車じゃないの、ケインのためのとくべつだからだから大事にしてね」
「わたしも、わたしも! ケインに宝物わたすー」
「じゃあ、俺も売れ残りの花束で作った冠だけど……」
キッド達も、ケインにささやかなプレゼントを渡そうと集まってくる。
あっという間に、ケインの手の中は子供達の大事にしている
「わかった、わかりましたよ。みんなの気持ちだと思ってもらっておく、ありがとう」
これは、みんなの心だ。
そう思ったら受け取らない訳にはいかない。
そんなケインたちのもとに、ふらふらと美しい聖女セフィリアがやってきた。
「ケイン、様……」
聖女に名前を呼ばたケインは、ここは教会なのでシスターがいるのはそんなにおかしくはないが、見慣れない顔だなと思う。
「君は?」
「あなたは、私の運命です」
「え?」
いきなり意味不明なことを言われて、当惑するケイン。
「私の一生に一度を、あなたに、捧げます」
そう言って、純真の聖女はいきなりケインに抱きついてきた。
周りの孤児たちが「このお姉ちゃん、いきなりケインに告白したぞ」と騒いで、ヒューヒューはやし立てだした。
「えっ、なに……こ、こ、告白なのか!?」
びっくりしたのはケインである。
女性に愛の告白など受けるのは、三十五年生きてきて、生まれて初めてだった。
「……ケイン様」
「ちょ、ちょっと待って、ください。君の名前は?」
「セフィリアです」
「えーと、何歳なのかな?」
生まれて初めての女性からの告白に焦ったケインがまず思ったのは、相手の歳だった。
この白いローブから感じる凄まじい胸の弾力は、明らかに金髪碧眼の超絶美少女の身体が豊満なことを示している。
胸はすごくいいよ、大好きだよとケインは思うのだが。
顔が凄く幼く見えるのが怖い。
しかし、ハイエルフのシルヴィアさんの例もある。
もしかしたら、幼く見えるだけでハーフエルフとかで、実年齢はケインに近いなんて
「十三歳、です」
――なかった!
「犯罪じゃないか!」
ケイン、魂の叫び。十三歳は、完全にアウト!
「え、犯罪……?」
そう言われるセフィリアは、困惑する。
実際はそのへんの法律って意外に緩いとは聞くが、それにしたって三十五年のおっさんと十三歳が仲良く歩いてたら親子としか思われないだろう。
いやいや、それ以前の問題だとケインは頭を振る。
相手は、未成年のお嬢さんだ。
下手すると親御さんがケインより若い可能性もある。
告白は正直凄く嬉しかったのだが、十三歳って孤児のキッドと同い年の子供じゃないかとケインは頭を抱える。
「えーと、どう説明したらいいかな。簡単に言うと、大人は子供と付き合っちゃいけないんだよ」
「付き合う?」
はてなマークを浮かべるセフィリア。
この子の告白をどう断ったらいいのやら、ケインも途方に暮れてしまう。
「え、ええ!? そのローブの光の紋章は、聖女セフィリア様ぁ!?」
ついにケインにも春がきたかと面白がって見ていたシスターシルヴィアだったが。
ここでケインに告白した相手が、聖女セフィリアだと気がついて絶叫した。
「どういうことです、シルヴィアさん?」
「ケイン、大変よ! この御方は、この国唯一の聖女であられるセフィリア・クレメンス様なのよ!」
そうシスターは叫ぶと、ガバっとその場に跪く。
なんだか知らないけど偉い人なのかと、ケインもそれに倣って跪いた。
「あの、違います……」
跪いたケインの腕を、必死に引っ張って起こそうとするセフィリア。
腕を引っ張られてもケインも困る。
あと胸があたってる柔らかい感触がもっと困る。
「違うって、セフィリアさんは聖女じゃないの?」
「聖女、ですけど……違うのケイン様。跪くのは、私の方です」
聖女セフィリアは困った様子で、なんかたどたどしく不明瞭なことを言ってくるので、ケインもこの子をどうしたら良いか迷う。
十三歳ってもうしっかりしてもいい年頃なのに、なんかこの子はとてもしゃべるの苦手そうだ。
「そういえば、聖女様は十二歳までずっと王都の大聖堂の奥にこもられて修行していたので、人との会話が苦手と聞いたことがあるわ」
「さっきから、やけに説明口調で詳しいですねシスター」
「聖女セフィリア様は、主神オーディアを奉じるうちの教団の最高司祭レギウス・クレメンス聖下のご息女ですもの。詳しくて当然よ」
「なるほど」
ともかく、最高司祭のご息女たる聖女様を、絶対に粗略にはできない。
シスターが言うには、この聖女様がうちの教会を救ってくれるかもしれないのだ。
「そう、です……私、人と話すのあんまり得意じゃなくて、でも」
ゆっくり話してくれていいですよとケインが返そうとしたとき、セフィリアよりちょっと年長の美少女が二人こっちに駆け込んできた。
「セフィリア、あ、あ、あんたなにやってんのーっ!」
赤毛の少女が叫びながら駆け込んでくる。
「私は、ケイン様に……捧げると」
「さ、捧げるですって!!」
聖女セフィリアの言葉に絶叫し、その場にズルッと卒倒しそうになる赤毛の少女。
「おいアナ姫、顔真っ赤やぞ。大丈夫なんか!」
紫髪の魔法使い風の少女もやって来て、ぐったりしている赤毛の子を介抱する。
なんかいろいろ大変だなと、ケインは思う。
とりあえず、この紫髪の子はなんか話がわかりそうだ。
「君達もしかして、聖女様の友達かな?」
「はい、そうなんですわ。こいつらが、えろうご迷惑おかけしました。これで退散しますんで、堪忍したってください」
紫髪の少女は、無理矢理に聖女セフィリアと、赤毛の子を引っ張っていくと、大通りに消えてしまった。
「どうしたのケイン?」
傍らにいる孤児の女の子ミーアがケインに聞く。
「いや、あの聖女様の友達の赤毛の子、どこかで見たなあと……」
気のせいかもしれないねと笑う。
『蘇生の実』を渡した剣姫アナストレアの顔を、あんまりよく覚えてないケインだった。
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