第10話「一体何を考えてるのよ!」
セフィリアが突然ケインに捧げるとか言い始めて、驚きのあまり卒倒しかかっていたアナストレアだが、マヤの介抱とセフィリアの回復魔法でようやく意識を持ち直す。
気を取り直したと思ったら、これまたうるさい。
「せ、セフィリアァァ! あんた一体何考えてんのぉぉ!」
「私はケイン様と、誓約する」
「いったいなんなのよ。ケインを強くしてパーティーに迎え入れるまでこっそり見てようって言ったでしょ、誓約って何よ!」
「まあまあ、アナ姫落ち着け! そんなわーわー言っても、セフィリアが話できんやんか」
「ケイン様は、私の運命……」
「運命ですって! どどど、どういうことよ!」
「まあまあってアナ姫、ちょっとは落ち着き! 話をちゃんと聞かないことには要領をえんやろ」
マヤがアナストレアを羽交い絞めにしてセフィリアから事情を聞くと。
セフィリアが一度死から蘇った際に、主神オーディアが「一生に一度の運命の相手に捧げるように」と、聖女の誓約を行使する力を与えたらしい。
そこでセフィリアは、誓約を捧げる相手をケインとすると決めたそうだ。
「なーんだ、愛の告白ってわけじゃなかったのね。ホッとしたわ」
アナストレアは落ち着いたが、今度はマヤが驚愕する番だった。
「ちょっと、待ってや。聖女の誓約って、もしかしてあの聖女の誓約のことか?」
「そう」
セフィリアは嬉しそうに頷く。
「それを、ケインのおっさんに?」
「そう」
セフィリアはトロンとした顔で頷く。
「あかんやろ! 一生に一度の誓約を、Dランクのおっさんにやってどないするんや」
聖女の誓約とは、アウストリア王国初代国王ヘクトールが当時の聖女マーリアから捧げられて、
歴史の舞台に頻繁に登場する伝説的な儀式である。
聖女が当代随一の勇者と魂を繋げる、ようは聖女の持つ強大な神聖力を勇者に授けてパワーアップする儀式なのだが、一生に一度しかすることはできない。
聖女セフィリアが誓約を行えるようになったのなら、当然アウストリア王国最強の剣士アナストレアに使うべきなのだ。
「私も、アナにすると思ってたけど……悪に打ち勝つために必要なのは力じゃない、善なる心。勇者アナストレアではなく、善者ケイン様に誓約をするほうが正しい!」
豊かな胸元を手で押さえて、いつになくハッキリと、自分の意思を表明するセフィリア。
「善者ってなんや、ただ気のいいおっさんってことやろ。そんなんパワーアップしても、なんにもならへんやん!」
「まあまあ、いいじゃない」
アナストレアは、なぜか寛容に許す。
「いや、まったくええことあらへん! セフィリアが誓約ができるようになったんなら、アナ姫に授けて戦力強化しなくてどうするんや。もし前みたいな強敵が現れたら、シャレにならへんやろ!」
いつもは、常識知らずのアナ姫たちのアホっぷりにしょうがないなと付き合ってる魔女マヤだが。
こればっかりは、本気で冗談になっていない。
「ケインはすぐ私より強い剣士になるんだから、そんなパワーアップがあるんならケインに使うのが当然でしょ」
「……ケイン様に、捧げて当然」
ケインを強くすべきということでは、一致し合う二人。
「アホかー! こいつら、ホンマモンのアホなんかー!」
ダメだこいつら、
ここぞという大事な局面で、国を救うために使う切り札の聖女の誓約を、ここで無駄に使用してどうするのだ。
下手したら、それが原因で王国が滅びる!
危機感を抱いたマヤは、セフィリアにとにかく早まるなと説得して、ケインとは一人で会わないようにお願いした。
その点だけは、アナストレアも「抜け駆けは禁止よ」とかわけのわからないことを言って協力してくれたので、なんとか説得できた。
まったく、このパーティーを組んでからというものマヤに心休まるときがない。
「なんでこうなるんやろ」
深くため息つくマヤ。
この国でもよりすぐりの美少女たちが、ときにはそのあふれんばかりの才能で華麗に事件を解決し、ときには優雅にお茶会を楽しむみたいな冒険をイメージしていたのに、最近ツッコミしかしてないのは気のせいだろうか。
「もしかして、ほんまにおっさんをパーティーに入れたほうがマシなんちゃうやろか」
もうおっさん冒険者でもいいから、まともな常識を持ってツッコんでくれる大人が欲しいと切望するマヤであった。
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