第11話「山道での強襲」
教会のために何かできることがないかと考えたケインだったが。
結局、薬草をたくさん摘んで納めることしかないと、クコ山までやってきた。
今日も、山の神様の祠を綺麗に掃き清める。
教会が救われたのも、きっと神様のおかげなのだ。
「みんなに大事にしてって言われたけど、神様のおかげだからね」
子供達にお礼としてもらった風車などの
綺麗な花の冠や、カラカラと回る風車を取り付けてみると、前より良い感じになってきた。
「山の神様、どうか子供達のことをこれからもお守りください」
神様に助けてくれなんて虫のいい話だと思いながらも、自らに教会を救う力のないケインには、懸命に祈って働くしかない。
今日も山を駆け巡って、ポーションの材料になる薬草をいつものように熱心に集めた。
「うーん」
そして今日は、山道に忽然とミスリルの鎧が落ちていた。
「着てみるか」
この前は剣で、今度は鎧。
ここまでくると、何かの意思が働いているとしか思えない。
落とし物としてあとでギルドに届けるにしても、この流れには素直に従ったほうがいいように思えて、もし違ったら申し訳ないなと思いつつケインは鎧を身につけることにした。
ミスリルの剣と一緒で、羽根のように軽い。
「なんだ?」
身につけた途端に、ヒュッと矢が飛んでくる。
だが、着ていたミスリルの鎧が、鋭い矢の
「チッ、ミスったか」
油断なく弓を構えた悪漢カーズと、戦斧を構えたチンピラのジンクスが茂みから現れる。
「お前ら、いきなり何をするつもりだ!」
「うははっ、何するってよー!」
戦斧を持ったジンクスはゲラゲラと笑いながら、ケインに斬りかかった!
「グッ」
その不意打ちの大振りをなんとか避けたが、腕を浅く切られてしまった。
「ケイン、お前はほんとにお人好しの大馬鹿野郎だな。ここまでされて、まだわからねえのか!」
矢をつがえながら、カーズは叫ぶ。
「冒険者同士で殺り合おうってのか!」
冒険者が冒険者を襲う。
それだけは、絶対にやってはならない禁忌だ。
もはやそれでは、山賊とやってることが変わらない。
「ハハッ、ようやくわかったのか!」
「お前ら『双頭の毒蛇団』は、そこまで堕ちたのか!」
森に入って山道を逃げながら、ケインは叫ぶ。
「この期に及んで、まだ綺麗事を抜かしやがるとはな。ケイン、俺は前からお前のそういうところが、気に入らなかったんだよ!」
カーズは、ビュンと矢を放ってくる。
本当に殺すつもりだ。
「クソッ……」
俺が何したって言うんだと、ケインは叫びたかったが、もはや逃げるのに必死だ。
ここを逃げ延びて街の冒険者ギルドに伝えれば、連中だって相応の罰を受ける。
「ジンクス逃がすなよ。確実に殺るぞ」
「ヒャッハァァ!」
Cランク冒険者の悪漢カーズの放った矢が、ビュンビュンと音を立てて飛んでくる。
チンピラのジンクスが戦斧を振り回して襲いかかる。
絶体絶命のピンチ。
だが、クコ山の山道を知り尽くしているケインの動きに無駄はない。
その上で、ここは深い森の中だ。
ケインはミスリルの鎧を身に着けているから、胴体に矢が当ってもダメージは薄い。
「チイッ、弓は無理か」
地の利は、山を知り尽くしているケインにあるのだ。
もしかしたら、このまま逃げ切れるかもしれないと思ったケインだが、視界が急に狭まってグラっと倒れそうになり、大きな木の影に座り込む。
「フヘヘへ、そろそろ効いてきたかな。おーいケイン! うちのファミリーの名前覚えてるか……そうだ『双頭の毒蛇団』だよ。お前を切った斧には、うちのファミリー特製の猛毒が塗ってあったんだ。もう歩くのもしんどいだろ」
ケインの状況を的確に掴んでいるチンピラのジンクスは、勝ち誇ったように叫ぶ。
「くそ、何か手立ては……」
ケインはカバンから探る。
傷薬になる薬草もあったが、こんな状況ではとても……あっ、シスターにもらった、これがあった!
「もう苦しくてたまらねえだろ。さっさと楽にしてやるから出てこいよぉ!」
シスターからもらった解毒と回復のポーションで立ち直ったケインは、そのまま大きな木の裏に隠れている。
二人がかりで追われて、もはや逃げ切るのは無理とケインは立ち向かう覚悟をした。
ジンクスの足音が近づく、ケインは咄嗟に手に持っていた空のポーション瓶を草むらに投げる。
「フハハハ、そこかぁ!」
ガサッとなった音を聞いて、ジンクスは斧を振りかぶる。
その隙をついてケインは飛び出し、ジンクスの横っ腹にぶつかるようにして、ミスリルの剣で一気に貫いた。
たかが相手はDランク、その上に毒で弱り切っていると勘違いしたジンクスの慢心であった。
「ぐあっ、そんなバカな……」
スッと突き刺したミスリルの剣を引き抜くケイン。
途端に、大量の血が溢れ出る。
バカな、Cランクの俺様がDランクの薬草狩りごときにと、最後まで言い切れず。
ジンクスはそのまま崩れ落ちて絶命した。
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