第132話「邪竜の来襲」
凄まじい数の邪竜がケインヴィルの街に飛来したとき。
Aランクパーティー『流星を追う者たち』の知恵袋、瓶底メガネの魔術師クルツは、まともに戦うのは無理と判断して、すぐさまダンジョンの中に避難誘導した。
やたらと災難に巻き込まれる、不運な自分たちが街の留守を守っているのだ。
こんなこともあるだろうと、クルツはドワーフたちと事前に相談して防衛計画を立てていた。
街で飼われていた白いロバが
あとは助けが来るまで、ダンジョンの奥で籠城していればいい。
「もともと、このダンジョンは魔王軍の本拠地だったところです。入り口さえ潰してしまえば、ちょっとやそっとでは落ちませんよ。土砂よ、崩れて道を塞げ!」
あらかじめ計画していた通り、魔法で土砂を落として入り口を閉鎖するクルツ。
大量のドラゴンの相手などしていられない。
ちらっと、
慌ただしくて抑えられていた恐怖心が、とりあえず安心となったらぶり返してきて、クルツは身を震わせる。
だが終わっていない、クルツは次の指示を出す。
「ドラゴン退治は、神速の剣姫にお任せして、僕たちはここで籠城です。ドワーフさんたちは、念のために別の出口を掘っておいてください!」
化物には、化物をぶつけるしか方法がない。
力不足のクルツたちは、とにかく守りに徹するしかない。
奥で逃走経路を作るのは、ドワーフたちの仕事である。
そうであればその間、入り口を守るのは戦士の仕事ということになる。
「あの
とんでもないことになったと、片目のブラウンは大型のクロスボウを準備しながらぼやく。
邪竜が襲ってくると知っていれば、街の防衛など引き受けなかった。
「ブラウンさん、いまさら裏切るなよ」
ここまで一緒に逃げて来ているのだから、もちろん裏切るとは思ってない。
これは、アベルの冗談である。
ダンジョンの外から、ドスンドスンと巨体のドラゴンが暴れまわっている足音が聞こえる。
恐ろしい地響きは、だんだんと近づいて来ている。
「ハハ、恐ろしくてまた裏切りたくてたまらんが、帝国の仲間だとか言ってもドラゴンに踏み潰されるだけだろうなあ」
どうせ、帝国軍はブラウンたちを使い潰すつもりだったのだ。
こうなったら一蓮托生だろ、と言って笑う。
さすがは、フランベルジュ傭兵団。
凶悪なドラゴンの群れを相手にしているというのに、肝が座っていた。
「いいですか。何度もいいますが、まともに戦わなくていいですからね。竜が首を突っ込んできたら、僕が何度でも巨石を落とします。逃げる時間さえ稼げばいいんですから、ヤバイと思ったらどんどん奥に引いていきますよ」
「わかってるって、クルツはしつこいよ」
「毎回アベルがわかってないから言ってるんですよ。そういう振りじゃないですからね、絶対に飛び出さないでくださいよ!」
凶悪なドラゴンを見て、突撃しようと思うバカはそうはいない。
リーダーがこんなんだから、クルツは苦労させられるのだ。
そのとき、土砂が激しい音を立てて吹き飛ばされた。
「グォオオオオオ!」
生物に本能的な恐怖を与える竜の鳴き声。
人間の匂いに誘われてやって来たのか、ついに土砂を崩して
「俺に任せろ!」
「ほらー! 飛び出しちゃダメっていってるじゃないですか。邪魔だからどいてください。巨石よ、道を塞げ!」
最初からこうなることを予想して、クルツはダンジョンの入り口にも何重にも罠を用意していたのだ。
ちょっと魔法で力を加えるだけで、あらかじめ準備されていた巨石が落とされて、
「むう、だがクルツ。これでは、俺が活躍する場所が……」
「そんなの後でやってくださいよ。ともかく罠がある限りは、僕に任せておいてください」
片目のブラウンが笑いながら、
「アベルよ。そんなに活躍したきゃ、飛び道具を使えばいいだろう」
剣を振るうしか能がないアベルと違い、片目のブラウンたちは器用に弓やクロスボウを使っている。
敵を近づけずに倒す飛び道具と、落石や落とし穴などの罠との併用はかなり効果的だ。
「俺は剣士だから、剣しか使えん!」
「そんなことを堂々と言うなよ……」
戦場では、どんな武器でも使いこなせなければ困る。
この戦闘が終わったら、クロスボウの使い方ぐらいこの向こう見ずな若者に教えてやろうと片目のブラウンは思う。
「これだから、脳筋リーダーは困るんですよ。ああ、また来ます。巨石よ、道を塞げ!」
ダンジョンは広く作られているとはいえ、
巨石に押しつぶされたり、落とし穴の罠に落ちた
「なんだ、これなら俺たちだけでも勝てるかもしれないな」
「ちょっとリーダー」
そんな見え見えのフラグ立てないでくださいよと、クルツが叫ぶ暇もなかった。
激しい振動が起こって、後ろのダンジョンの天井が吹き飛ばされる。
「なんだ!?」
顔を覗かせたのは、小山ほどの大きさの
そう何も、土を掘れるのはドワーフたちだけではないのである。
小山ほどの大きさである
ドラゴンは、もしかすると知能も高いのかもしれない。
挟み撃ちすることを意図的に狙ったのか!?
ともかく、これで形勢は逆転されてしまった。
「ええいっ!」
フランベルジュ傭兵団は一斉に弓を撃ち放つが、
ドラゴニア帝国の竜騎士団が集団で囲んで、ジークフリートの神剣でようやく倒せたモンスターだ。
あんな巨大な化物に、普通の人間が勝てるわけがない。
それなのに――
「俺に任せろ! 邪悪なる竜よ。喰らうがいい、流星剣ッ!」
「リーダー!」
それなのに、流星の英雄アベルは飛びかかって行ってしまう。
「見たかクルツ、これが流星剣の力、ダァァァ!」
キーンと乾いた音が響く。
これが、バルカン大王の鍛え直した流星剣の力なのか。
アベルは、
それは、まさに人間の限界を超える英雄の姿だった。
だが、抵抗できたのも一撃のみ。
これにはたまらず、アベルはあっけなく吹き飛ばされる。
「ほら、言わんこっちゃない! 地獄の炎よ、敵を焼き尽くせ!
クルツは、自分の使える最高の攻撃呪文を撃ち放ったが――
「……無駄ですか」
ダメージを与えるどころか、時間稼ぎにすらならない。
「全員、ありったけの弓を射て!」
「ブラウンさん!」
「坊主、諦めるんじゃねえよ。俺たちの攻撃でも、目くらましぐらいにはなる。それに、あいつはまだ諦めてねえぞ!」
たった一撃でズタボロにされたアベルだが、地に叩きつけられても流星剣だけは手放さなかった。
流星の英雄は決して諦めない。
再び起き上がり、圧倒的な敵に立ち向かおうとしている。
「地獄の炎よ、敵を焼き尽くせ!
頼むアベルを救ってくれと、クルツは願いをこめて攻撃魔法を撃ち込む。
だがどれほど攻撃を喰らわそうとも、小さな人間の努力をあざ笑うように
「リーダー!」
このままではアベルが、頼む誰でもいい。
誰か助けて、そうクルツが祈ったそのとき。
「ギャォオオオオオオ!」
その巨体が、派手に砂煙を上げながらドウと倒れる。
信じられない光景だった。
一体誰が、あれは――
「ケインさん!」
巻き上がる砂煙の先からクルツたちの前に現れたのは、ケインが率いる獣人の戦士たちだった。
獣人の戦士たちは、次々と倒れた
「もう大丈夫。アベルくんは、無事だよ」
ぐったりと倒れているアベルは、ケインとキサラに介抱されている。
助けが間に合ったのだ!
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