第130話「訓練の仕上げ」
アナ姫に連れられた戦士団は、シデ山とクコ山の間にある魔の谷へと来ていた。
人も通わぬ険しい谷であり、瘴気の吹き溜まりのようになっている。
瘴気を受けた獣が、凶悪な魔獣に変化している危険地帯だ。
「いよいよ訓練の仕上げよ! テトラ。ここにはAクラスの魔獣ビーストボアーがいるでしょう」
「ああ、あれを訓練に使うのか」
確かに魔の谷にたくさんいる魔獣は、どれもが強大な個体であり、格好の訓練相手となるだろう。
「各自、一人でビーストボアーを倒せるようになること!」
「それは無理ですよ!」
勘弁してくれと、獣人たちが悲鳴を上げる。
一口にビーストボアーといっても、小山ほどの大きさがある巨大なイノシシのバケモノだ。
Sランクのアナ姫や、Aランクのテトラならともかく、Bランク以下の実力しかない獣人たちが一人で倒せる相手ではない。
だが、鬼教官アナストレアは容赦という言葉を知らなかった。
「いま無理と言ったのは誰? 無理というのは、嘘吐きの言葉なのよ!」
「ええ……」
無茶苦茶を言っている。
無理なものは無理だ。
「実戦で敵が強すぎて無理なんて弱音を吐いても殺されるだけよ。死にたくなければ、どんなことをしても目の前の敵を倒す。それが限界を超える力を生むのよ。心配しなくて大丈夫よ、何度ぶっ倒れたって、後ろからセフィリアが何回でも回復させるから安心して戦いなさい!」
どう安心しろというのだ。
とんでもないことになったと、みんなざわめく。
自然と助けを求める獣人たちの視線が、ケインに集まる。
どうしようかとケインが谷を見回して、手頃な敵を発見した。
Cクラス魔獣ビーストウルフの群れだ。
恐ろしげな大型の狼の魔獣だが、あれならまだ倒しようもあるだろう。
「えっと、そうだな……Dランク冒険者の俺は、Cクラスのビーストウルフと戦ってみるよ。みんな無理する必要はない。俺と一緒に、他の人はまず自分より一つ上のクラスの魔獣を倒せるように頑張ってみよう」
ケインが現実的な提案をしてくれるので、みんな良かったとホッとする。
アナ姫も、ケインの言葉にはうんとうなずく。
「じゃあ、それでいきましょう。セフィリア、マヤ、キャンプの準備をしておいて。ここは訓練相手と食料に困らない最高の場所だから、一週間は余裕よ。全員Aランクになるまで帰らせないからそのつもりでね!」
結局、Aランクに成長しなければ帰れないらしい。
だが段階的に訓練できるだけ、マシであった。
「我はどうすればいいのだ?」
すでにAランクであるテトラは、単体でAクラスモンスターを倒せる実力を有している。
「あんたは、私から一本取れるまで一緒に戦闘訓練よ。今日中にSランクになってもらうから」
「なんだと!」
いくらテトラでも、アナ姫をまともに相手したら死んでしまう。
「安心しなさい、まずは一%の力で戦ってあげるから」
アナ姫はドン! とパンチを繰り出した。
テトラはとっさに裂爪で防ごうとしたが、まったく敵わずに谷底まで突き落とされた。
「うぁあああ!」
それを、ピュンッと目にも留まらぬスピードで追っていくアナ姫。
アナ姫の一%は、かなりヤバイ。
「……大丈夫かな」
ケインが谷底を覗き込むが、下からバシュンバシュンという何かがぶつかり合う音と爆発音。
それに、ときおり「ぎゃー」とテトラの悲鳴が響いてくる。
マヤが、その肩をポンと叩く。
「大丈夫やケインさん。うちが、やり過ぎんように見張っとくから」
「すでにやりすぎだと思うんだけど、ともかくよろしく頼むよ。じゃあ、俺たちも行こうか」
ケインの合図に、「おう!」と応えて獣人の戦士団は魔の谷へと降りていく。
こうして魔の谷で最後の特訓が始まった。
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