sideアルフィーネ:無自覚な暴君


※アルフィーネ視点



 むかつく、むかつく、むかつくっ!


 フィーンの分際であたしの傍から離れて、独り立ちできるなんて思い上がりも甚だしいわ!


 しかも、あの出来損ないのフィーンなのに、用意周到に逃走資金まで確保して姿を消すなんて。



 あたしはフィーンと暮らすため、冒険者として依頼を受け貯めたお金で新しく購入した王都の屋敷の部屋で爪を噛んでいた。


 目の前の机には、あたしがフィーンのために買ってあげた高品質の装備やお金などが詳細を書いた紙と一緒に置かれている。



 あたしがいないと稼げないフィーンのためにけっこう無理して買った装備や、贅沢させてあげようと思ってあげたお金まで綺麗に全部置いてある。


 それにあの時……あたしとフィーンで初めてこの王都に来てお互いために買ったこの剣まで返してくるなんて信じられない。



 置かれたフィーンの剣を見て、爪を噛む力が強くなる。


 昔からイライラするとやめられない癖で、フィーンからはいつもやめろと注意されてたけど、ずっとやめられなかった。



 ずっと一緒にやってきたのに、フィーンのやつ何が不満だったのよ。


 ほんと、マジでありえないんですけど……。


 あー、イライラする。



 爪を噛むだけではイライラは解消できず、目の前の机を思いっきり蹴飛ばしていた。


 すると、ドアがノックされた。



「アルフィーネ様、どうかされましたか?」



 ドアを開けたのは、屋敷の管理人兼執事として雇った初老の男性だった。


 貴族となったことで色々な作法を覚えなきゃいけなくなったので、屋敷を買ったついでに元貴族の執事長をしていた彼を雇っていた。



 フィーン以外に、完全無欠の剣の女神であるあたしが爪を噛む悪癖があるなんて知られるわけにはいかない。


 あたしはとっさに噛んでいた爪から口を離した。



 ノックした執事がドアを開けて入ってきた。


 仕事熱心なのは感心するけど、フィーンならこういう時は空気を読んで入ってこない。



 あたしの扱いに慣れていない執事に若干の苛立ちを感じつつ、よそ行きの顔を作った。



「な、なんでもないわ。それよりも、冒険者たちに依頼してフィーンが立ち寄りそうな場所は当たってくれたかしら?」


「ご依頼通り、冒険者ギルドを通じてアルフィーネ様から指定された場所へ冒険者たちを派遣してもらっておりますが、あいにくとフィーン様自身もおられず見かけられたという方もいらっしゃいませんでした」



 執事が淡々とフィーンの捜索状況を報告しているが、成果がないようだ。


 本当ならあたし自らが探せば一発で見つけられるはずだけど、王国から爵位を受け、騎士となったことで色々と雑務が生じ、結果他人に依頼するしかなかった。



 ほんと、あいつどこいったのよ!


 親しくしてた冒険者にも街の人にも何にも告げてないみたいだし、みんなあたしがフィーンを首にしたように思ってるとかマジで勘弁。


 あたしには完全無欠の剣の女神ってイメージがあるのよ。イメージが!


 あー、思い出してきたらまたイライラしてきた……早く執事を下がらせて爪を噛まないとやってられないわ。



「報告ありがとう。フィーンの件は冒険者ギルドを通じて捜索範囲を近隣の街にまで広げておいて。お金はいくらかかってもいいわ。必ず見つけ出しなさい」


「承知しました。近隣の街にまで捜索範囲を広げます」



 指示を受け執事が部屋から退出すると、あたしは再び爪を噛んでいた。



 ぜーーったい、見つけ出してあたしの前で『ごめん、なんか勘違いした俺が間違ってた。なんでもするから君のそばに居させてくれ』って土下座させてやるんだから!

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