58:資金稼ぎ
俺たちはそれからしばらくギディオンと情報を交換し、ギルドマスターの執務室から出ると、受付の窓口に向かう。
すでにギルドマスターから連絡が行っているようで、受付嬢の一人が俺たちに手を振っていた。
「こちらです。こちら!」
ユグハノーツはお揃いの青い制服だったけど、インバハネスは赤色の制服か……。
制服も獣人に合うようにかなり違っているみたいだ。
俺は忙しそうに冒険者たちの対応する受付嬢たちを、チラリと見てそんな感想を抱いていた。
「フリック様、窓口はあちらですよ」
「ああ、そうだね。行こうか」
スザーナに声をかけられたところで、受付嬢たちを見るのはやめ、窓口に向かうことにした。
手を振っていた受付嬢は獣化をあまりしていないようで、ほとんど人に近く猫の耳と尻尾だけが、彼女が獣人であることを示していた。
「フリック様ですね。ギディオン様より、例の軍馬の捕獲依頼を受けて頂ける方と聞いておりますが。私が担当を任されたレイアです」
窓口カウンターの椅子に座った俺たちに、猫耳の受付嬢レイアは食い気味で話しかけてきた。
この慌て加減、ギディオンが言ってたように、冒険者ギルドで相当困った案件になっている様子だな。
あいつが走り回ってそうな場所とかの情報ももらっとかないと。
さすがに前回の件で街道付近には近寄らないだろうし。
「ああ、軍馬の捕獲は俺たちが依頼を受けることにした。そこで、一つ情報を提供して欲しい」
「情報ですか? こちらが提供できるものであれば提供いたしますが……」
レイアは、情報を提供して欲しいと言った俺に対し、小首を傾げていた。
「ああ、そんな大した情報じゃないさ。今までの捕獲依頼で捕獲失敗した場所を書き込んだ周辺地図が欲しいんだ。あいつ、頭いいからその場所には二度と近づかないだろうし。捜索の範囲を狭めるために是非提供して欲しい」
レイアが、目をぱちくりとさせてこちらを見ていた。
俺はなにか変なことでも言ったのだろうか?
あいつは人の言葉を理解する知性もあるし、戦闘でもちゃんと考えて立ち位置を決めてたから、普通に人と同じかそれ以上に知性を持ってるやつなんだと思うんだが。
「ちょ、ちょっとお待ちください! すぐに準備しますので!」
レイアはそう言うと、窓口の奥に引っ込み、これまでの捕獲失敗した場所の情報を集め始めていた。
「フリック様はあの一度だけで、あの軍馬がそこまでの馬だと分かったのですか?」
隣に座って話を聞いていたノエリアが、不思議そうな顔をして俺に聞いてきた。
「んー、どうなんだろうか。なんか、そんな気がするって程度だけど……。ディモルと出会った時と同じように何というか、馬が合ったというか何というか」
上手く自分が感じた感覚をノエリアに伝えられない。
もしかしたら、巨馬に対しての評価は俺の勝手な妄想かもしれないんで。
「もしかして、あの巨馬のことを気に入ってます? ディモルと同じように?」
要領を得ない俺の説明を聞いていたノエリアから、核心に近い質問が発せられていた。
「そ、そそそんなわけ。ほら、俺にはディモルもいるし、ディーレもいるし」
ジーっとノエリアの視線が俺の顔に注がれる。
なんか怒ってる? いや、仲間にするなんて一言も言ってないんだけども……。
ほら、ディモルも移動スピードとか偵察とかにはとっても役に立つけど、街には連れて行けないし、その点馬なら――。
って、違う、違う。
俺はあの巨馬を従えて、旅をする自分を妄想していた。
今回は捕まったふりをしてもらおう。そうすれば冒険者に追いかけ回されなくなるし、必要なら脱走も手伝うことにすれば、きっとあいつは協力してくれるだろう。後はあいつの好きにすればいい…。いいよな?…自分と一緒に旅をすることはないのだ。
「ふぅ、フリック様は本当に……」
「ちょっとノエリア。俺は別に仲間にしたいとか全然思ってないからね」
「はいはい、承知しております」
「スザーナまで!?」
女性二人から、俺に対してため息が吐かれていた。
「お待たせしました! フリック様の言われておられた捕獲失敗地点の――ってあら、どうかされましたか?」
窓口に戻ってきた猫耳の受付嬢レイアが俺たちの様子を見て、何かあったのか聞いてきた。
「なんでもないよ。それよりも、情報を見せてくれるかい?」
レイアに更に突っ込まれる前に、情報をもらうことにした。
「は、はい。こちらが、今まで失敗した捕獲場所を記した地図ですね。これを見ているとだだっ広いオーウェル草原の中で身を隠せる森林地帯を選んでるような気がしますね。フリック様が言われた通りあの馬は考えて行動しているのかも」
差し出された地図には、このインバハネス周辺の地形が書き込まれている。
俺たちが来た街道から見て北の方はかなり広い草原地帯になっている様子だった。
その草原の中に点在している小規模な森林に、例の軍馬たちの群れは潜んでいるようで、捕獲を失敗した地点にはバツ印が打たれている。
このバツ印の場所の捜索は後回しにしてもいいと思うので、最初はまだ印の付いていない場所を選んであいつの群れを探し出すとしよう。
「この地図は借りてもいいだろうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。そのためにお持ちしました。ギルドマスターも頭を悩ませている依頼なので、フリック様たちが無事見事に完遂して頂けると助かります。他に入り用な情報などはございますでしょうか?」
「そうだな……。あとは……一応、そのオーウェル草原の魔物討伐依頼をいくつか見繕いたいんだ。旅の資金はいくらあっても困らないし」
ロイドとライナスから依頼に対する支度金は潤沢にもらっていたが、どれくらいの日数がかかる依頼かは皆目見当がつかないので、資金稼ぎはできる時にしておきたかった。
「では、わたくしの等級で受けられる依頼を頼みます」
ノエリアも令嬢とはいえ冒険者生活をしている身なので、旅先で資金を稼ぐ重要性は理解していたようだ。
青銅等級でしかない俺が受けられる依頼では大した額にならないので、自分の徽章をレイアに提示していた。
白金等級であれば、どこの街の冒険者ギルドでも最上級の依頼を受けられる。
他の街でも最上級依頼が受けられるのは、それだけの実力があると所属する街の冒険者ギルドが認めているからだ。
だから、白金等級の冒険者も他の街で依頼を受ける時は無茶をしない。
下手に高難度の依頼を受けて失敗すれば、自分の所属している街の冒険者ギルドへ他の街の冒険者ギルドから苦情が入り、査定に悪影響を与えるからだ。
白金等級になっても、依頼不達成が続きその実力に見合わないと判断されれば、降格もあるため依頼選びの目も必要なのであった。
「ノエリア様はユグハノーツの白金等級ですね。承知しました。すぐに依頼票の一覧をお持ちしますね」
レイアはそう言うと一旦窓口を離れる。
そして、戻ってくると俺たちの前に白金等級の依頼票一覧を差し出した。
「オーウェル草原周辺で白金等級の魔物討伐系ですと、
「
「はい、どこからか流れてきたはぐれの
竜種に匹敵する長寿命を持つ、雲鯨種と言われる空棲生物であり、大気を浄化してくれるのだが、そんな彼らは
「これは結構大物がいたかもしれませんね。
「そうだな。軍馬の捕獲を進めながら、その魔物化した
とりあえず、やるべきことが決まったので、レイアに
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