89:幻影体


「我が手に集めし魔素マナよ! 重き引力となりてすべてを圧壊せよ! 超重力メガグラビディ



 俺は魔法を発動させ、周囲に超重力場を形成する。


 最大級の威力で発動させた超重力メガグラビディによって、俺が立っていた地面は重さに耐えられずに一気に身長と同じくらい陥没していた。


 そして、さっきまでいた場所を赤い火球が通過していく。



 ふぅ、あっぶね。


 相手もなりふり構わずに俺を殺しにきてるようだ。



 俺にしがみついていた三体のアビスウォーカーは、超重力メガグラビディの効果範囲にいたことで、傷を負っている様子だった。



『マスター、今が好機です!』


「ああ、分かってるさ。その前にいいこと思いついた。無駄に多い魔力があるからこそやれそうな気がする技だけどな」


『マスター、今は遊んでる場合じゃ!?』


「大丈夫、たぶん成功するから」



 俺は自分の中で固まったイメージをもとに魔法を創造していく。



 傀儡人形サモンゴーレムだと、こっちが色々と命令したりしないといけないから、ちょっと面倒なんだよな。


 感覚なども数を増やすとかなり鈍くしないといけないし。


 自立したゴーレムというか、俺の分身を魔力で作り上げれば、それらの問題は解決するはずだ。



「我が手に集めし魔素マナよ! 我が分身となりて、この地に顕現せよ! 幻影体ミラージュボディ



 結構な量の魔力が身体から抜け出る気配がしたが、魔法は見事に発動し、自分の隣に同じ格好をした自分がいた。



『マスターがもう一人!?』


「ああ、分身してみた。アレは魔力の塊だけど、俺が敵だと指定したやつと勝手に戦って――」



 いきなり剣を引き抜いた幻影体ミラージュボディの分身は稲妻剣サンダーソードの魔法を詠唱する。


 そして足元に転がっていたアビスウォーカーに対して、剣を突き立てていた。



「くれるんだよ。魔力が尽きるまでね」


『マスターがもう一人増えたら、ディーレはどっちのマスターの指示を受ければ――』


「大丈夫、あっちは喋らないから」



 俺がディーレと話している間も、幻影体ミラージュボディの分身は再び稲妻剣サンダーソードの詠唱を始め、立ち上がり始めた他のアビスウォーカーに斬りかかっていた。



 動きも、威力もほぼ俺と同じくらいだな。


 魔力は半分以上なくなったけど、その分戦闘力は二倍以上になるはずだ。



 戦っている様子をチラリと見ていたが、思った以上に幻影体ミラージュボディの魔法は成功していた。



「さぁ、俺たちも分身に負けないように戦うぞ」


『はい!』



 抉れて窪んだ地面を蹴ると、俺たちは分身の後を追ってもといた地上に飛び出した。



「ふ、増えたぞ! さっきの魔法剣士がもう一人いる!?」


「ゴーレムモドキなんかより格段に動き早い!」


「どっちも魔法を使うぞ! ああ、アビスウォーカーがまた一体……」



 地上に戻った俺たちは、幻影体ミラージュボディの分身とともに敵を翻弄し、群がってくるアビスウォーカーを魔法や剣で牽制し、隙を見て二人で同時に稲妻剣サンダーソードを叩き込んで屠っていた。



 さすが俺の分身。


 剣の間合い、魔法の選択、回避、全部予想できる動きをしてくれる。


 分身のおかげで、接近戦はある程度任せられるな。


 だったら俺は――



「わが魔素マナをまといて、人の姿となれ。傀儡人形サモンゴーレム



 分身のおかげで戦闘の負荷が減ったので、余裕ができた俺は手数を増やすことにした。


 土から盛り上がって出てきた俺モドキたちを、アビスウォーカーへしがみつかせる。


 作り出したゴーレムがしがみついた瞬間、ゴーレムとの感覚の感度をあげ、火属性の最大魔法を詠唱する。



「わが手に集めし魔素マナよ! 全てを焼き尽くす炎と成りて我が敵を消し去れ! 終末の光メギド・エクスプロージョン!!」



 発動をゴーレム起点に設定すると、すぐにゴーレムとの感覚を切った。


 次の瞬間、アビスウォーカーを掴んだままのゴーレムから盛大な爆発炎が噴き上がり、炎に包まれたアビスウォーカーから苦悶の声が聞こえてきていた。


 その炎に焼かれて悶えるアビスウォーカーの首を俺の幻影体ミラージュボディの分身が稲妻剣サンダーソードを纏った剣で飛ばしていた。



「し、信じられん……。あのアビスウォーカーと渡り合うだけでもあり得ない事なのに、それどころか魔法で圧倒しているぞ。も、もうダメだ。ここは放棄して逃げましょ――」


「まだ、数体やられただけだ! 絶対にあいつらは殺せ! 撤退を口にする者はこいつと同じ道をたどるぞ」



 怖気づいた部下が糸の切れた人形のように地面に倒れると、顔まで白い布で覆った男が手にしていた筒から煙が出ていた。


 その様子を見ていた白いローブの連中は自分たちの武器を持ち、残るアビスウォーカーと一緒に俺たちに挑む様子を見せる。



 やるしかないか……。


 問題は魔力がもつかだけど……。


 感じ取れる範囲では、常に底無しだった魔力の底を感じられるくらいには減っているようだ。



 ノエリアたちから常日頃、膨大な魔力量だと言われているが、今日の戦闘で消費した魔力によって初めて自分の魔力の底を自覚していた。

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