sideアルフィーネ:追いかける元剣聖


 ※アルフィーネ視点



 探していたフィーンが名と容姿を変えフリックとして生きていると知ったあたしたちは、ユグハノーツから急ぎの旅を続け、マリベルの生まれ故郷であるデボン村にとんぼ返りをしていた。


 馬車が村に着くと、荷ほどきもせずに村長であるユージンの家にあたしは駆けこんでいく。



「これは……アル殿!? それにマリベルにメイラ殿も……そんな血相を変えていかがなされた?」


「あ、あの! あの、あ、あの! フィーン、じゃない。フリックさんってどこに行かれたか知ってますか?」



 あたしの勢いによって後ろにのけぞりそうになったユージンの肩を掴んで揺すり、フィーンの行方を尋ねていた。



「ちょ、ちょっとアル!? ユージンの首が取れちゃうから落ち着いて!」


「アルお兄ちゃん、メイラお姉ちゃんの言う通り。ユージンおじさんの首が取れちゃうよー」



 後から追かけてきたメイラとマリベルが、二人がかりであたしを引き留めてくる。



「ご、ごめん。焦り過ぎた。ユージンさん、すみませんでした」



 二人に制止され、我に返ったあたしはすぅと深呼吸をすると、掴んでいたユージンの肩から手を放した。



 フィーンは生きてるんだから焦るな……これは道中、ずっと自分に言い聞かせてきたこと。


 また感情に振り回されて暴走するところだった。



「アル殿の様子から察するに、ユグハノーツで何か大変なことが起きたようですな。もしかして、マルコたちのことがバレましたかな? こちらにはラドクリフ家の追及は来ておりませんが……」



 マリベルの父マルコを含む、鉱山にいた関係者をあたしたちが護衛してユグハノーツへ連れて行ったこともあり、そちらの心配をしていたようだ。



「ち、違います。ボクの個人的なことで訪ねただけですから、マルコさんたちはユグハノーツで一番安全な場所に住まわせてもらうことになりました」


「ユージンおじさん。辺境伯様から場所は言っちゃダメって言われてるから、言えないけどとってもいい場所に住まわせてもらってるよー」



 マリベルがあたしの言葉を補足するように、ユグハノーツへ行った人たちの話をユージンにしてくれた。



「そうか……マルコたちは落ち着ける場所に着いたということか。よかった、よかった」


「アルお兄ちゃんとメイラお姉ちゃんのおかげだよ。向こうで生活する基盤ができたらデボン村の人で希望する人も呼ぶかもって父様は言ってた」


「それもよいな。この地は土地が貧しいうえに鉱山もなくなったからのぅ。村を離れる若い者にはユグハノーツのマルコを頼れと言うておこう」


「あの鉱山なくなっちゃったのか……。みんな色々と置いてきたままだって言ってたから、ほとぼりが冷めたらあとで取りに行けるかなって話してたんだけどなぁ。そっか……でも、村の人たちの件はマリベルのお手紙持って行けば、父様がなんとかしてくれるよ」



 え? 鉱山がなくなったってどういうこと!?


 たしか村を離れる時、フリックことフィーンが鉱山でラドクリフ家の手先と戦ってたとは聞いてたけど……。



「あ、あの。鉱山がなくなったっていったい?」


「ああ、そう言えばアル殿たちはその後の顛末を知らぬのでしたな。フリック殿があの要塞のような鉱山に居座っていた連中と一戦交えて勝利したまではよかったんですが……。その後、鉱山ごと爆破されてしまいましてな……。おかげで、鉱山の連中とラドクリフ家の関与が追及できなくなったのですよ」



 鉱山ごと爆破って……たしかにバレたら処刑レベルのこととはいえ、あのニヤケ顔のジャイルがそこまでするとは……。


 それにしてもフィーンってものすごくまずい問題に首を突っ込んでる気がするんだけど。


 って、それはあたしも同じか。



「証拠隠滅……」


「かもしれませんなぁ。わしらも何が爆発したかまでは分かりませぬので」


「ユージンおじさん、デボン村が大変なことになってるって、父様へのお手紙書いてくるー。辺境伯様もお仕事すればご褒美くれるって言ってたから、鉱山のお話を教えてあげる。それでデボン村の人がユグハノーツに住めるように頼んでみるね」



 マリベルはそう言うと、急いで荷馬車に戻って行った。



 本当にあの子は人のために何かをしてあげるのが好きな子なのね。


 求め過ぎるあたしと違ってて、ああいった行動を素でできると女性としての魅力になるのかも。


 フィーンと一緒に居た時に気付くべきだったことだけど……。


 あたしは気付こうとしなかった。



 自分にはない要素をマリベルに見せられて、自己嫌悪の気持ちに取り込まれそうになる。


 そんなあたしの気配を察したのか、メイラが背中を叩いてきた。



「アル、落ち込む前にユージンさんに聞くこと聞いてよね。そのためにユグハノーツからノンストップで飛ばしてきたんだから」


「あ、うん。そうだったね。ありがと、メイラ姉さん」


「それで、アルさんたちの知りたいことは、フリック殿たちの行方でしたかな?」



 ユージンはあたしの最初の質問を覚えていたようだ。



「ええ、はい。そうなんです。彼らがどこに向かったか知ってますか? 会いたい用件ができたので……」


「アル殿たちが出立されてすぐにフリック殿たちも戻ってこられましたからなぁ。でも翌日には鉱山が爆発して、その件で一度インバハネスの冒険者ギルドに戻ると言っておられましたよ。ラドクリフ家の名は伏せるといってましたが、鉱山の件を各都市の冒険者ギルドに伝えてもらうためとか言っておられましたはず」



 ここにまだ居るかもと思ったけど。


 やっぱインバハネスの街……か。


 行ったことのない街だけどどれくらいかかるかな。



「そう……ですか」


「ここから普通に旅して三日か四日程度で着きますし、しばらく滞在すると言われてましたからまだいると思いますよ」



 すぐそこにフィーンがいる……。


 やっと見つけた。


 今度こそ確実に会える……はず。



 そこまで考えて、あたしの思考は停止を余儀なくされてた。



 今のままでフィーンに会っても大丈夫だろうか……。


 彼に今までのことを謝って、あとは自分一人で大丈夫って言って、別れられるのかな。


 全然、自信が出ないや……。



「アル殿? どうかされましたか?」


「あ、いや。別に何でもないです」


「たいしたおもてなしもできませんが、お疲れならわが村に泊まっていかれたらどうです? なにやら無理を重ねて旅をされてきたようにも見えますし、たまには息抜きをされても誰も咎めたてしませんよ」



 優し気に微笑んだ顔をしたユージンの言葉があたしの心に染み込んでいく。


 あたしの中でフィーンに会いたい気持ちと、会った時にちゃんとできるか不安に思う気持ちがせめぎ合った結果、ユージンの申し出を受け入れる方に秤は傾いていた。



「お言葉に甘えて、泊まらせてもらっていいですか?」


「ええ、皆も喜ぶと思います」


「あらー、ここで一泊。じゃあ、夜は一緒に寝ないとねー。お姉ちゃん、一人寝が怖いからアル君とマリベルちゃんと一緒に寝るぅー」


「メイラ姉さん、寝るのは一人ずつね」



 村に泊まるときいたメイラがあたしに抱き着いてきたので、額に手刀を軽く打ち込む。



「あぅ! そんなぁ、一緒がいいー」



急ぎの旅を続けてきたあたしたちは、フィーンの消息を掴むと、苦笑いをしているユージンの好意に甘えデボン村で一泊することにした。

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