33:魔剣の性能が意外とすごいかも


「本当に魔法を撃ちましたわね……」


「ああ、撃ったな」



 俺とノエリアが手にある魔剣に視線を向けた。



「マスターのご指定通りに撃ちました」



 魔剣は紫の魔石を明滅させて喋っている。



「どうだ! すごいだろ! この魔剣が量産された暁には全魔術師が詠唱を必要としなくなるんだ!」


「その前に間違いなくガウェイン師匠が王国の衛兵に捕まると思います。剣自体が知性を持ち魔法が放てる、そのように物騒な物を王国が認めるとでも?」



 ノエリアからの冷たい視線に曝されたガウェインが膝を突いて崩れ落ちた。



「あぐぅ! なぜだ! わたしの傑作なんだぞ! なぜ、受け入れられないんだ!」



 画期的すぎて、これが安全な代物なのか判断に困るからだと思うんだけど……。


 実際、剣を成長させて魔法を覚えさせ、詠唱を肩代わりしてくれると別種の魔法が同時に使えたり、剣を使うことに集中できるからすごい武器だと言えばすごい。


 魔法の威力は俺のよりは落ちるが、そこも成長するところなのだろうか。



「ガウェイン様、この剣、成長するって言ってましたよね? 魔法を覚える以外に威力とかも上がったりします?」



 そう問いかけると、膝を突いていたガウェインが俺の膝に抱きついてきた。


 完全に油断していて、空気壁ウィンドバリアを出すのを忘れていた。



「うぉおおっ! さすがフリック! どこぞの冷たい視線を投げかける弟子とは大違いだ。そいつは魔物の持つ因子を吸収すると知性が上がって魔法も覚えるし、威力も上がるかわいいやつなんだ。それを危険物扱いするとは酷くないか?」



 指示に従ってくれるのであれば、危ないどころかかなり有用な武器になるとは思う。


 ただ、賢くなってこちらの指示に従わない状態が発生する危険はあるよな。



「もし、この剣が成長して指示を受け付けなくなったら?」


「そんなのあるか! そいつは持ち主から魔力を供給されなきゃ休眠するように作ってある。指示を受け付けなくなったら、どっか人気のない場所に厳重に封印してやればいいだけだ」


「!?」



 ガウェインの言葉を聞いた魔剣が声にならない声をあげていた。



 それはちょっと酷くないですか?


 危なくなったら封印すればいいとか、作った本人が言うのはあまりに身勝手だと思うが。



 俺は、魔石を淡く明滅させて、落ち込んだ様子をしている魔剣が可哀想になってきた。



 大丈夫だ、俺はお前を封印したりしないから、お前も俺を助けてくれよ。



「マスター! はい、頑張ります。なんでもしますから、封印だけはしないでください!」


「だから心は読むなって」


「ああ、失礼しました。リンクは戦闘時以外カットしておきます」



 俺の言葉に安心した魔剣は元気を取り戻したようで、魔石を明るく明滅させていた。



「まぁ、フリックならそいつが仮に成長しまくって暴走しても抑え込めるだろうし、問題ないだろ?」



 ノエリアは何か言いたげであるけど、やっぱりこの剣を封じるのは可哀想な気がしてならない。


 せっかく意志をもって作られたのに、こっちの都合で封印はさせたくないよな。



「問題は大ありですよ」


「えー、なんでー。いい剣だろ」



 ガウェインは口を尖らせて子供のように抗議してきた。



「でも、たしかにいい剣なので封印は可哀想だし、ノエリア、この剣は俺の責任で預かっていいか?」


「ふぅ……フリック様がそう言うのでしたら。王国の法で禁忌とされる剣なので、まずは父上に相談しましょう。今回の剣の製作、発端は父上ですし。すぐに詳細をまとめた書状を書きます。それを父上に提出しましょう」



 ノエリアも知性を持つ剣を封印するのは忍びないと思っているようで、大きなため息を吐くと剣の詳細を書き留めるために紙とペンを取りに戻った。



「いえーい! やった! わたしの剣が世に出るぞー!」


「まだ決まったわけじゃないです。辺境伯様が許可を出してくれないかもしれませんし。あとこいつの詳細を全て教えてください。まず成長の糧になる魔物の因子ってなんです?」



 俺はガウェインを地面に正座させると、魔剣についての詳細を聞き出すことにした。



「魔物の因子ってのは、動物が魔素マナを吸って魔物化する際、身体の中に出来る核のことだ。通常武器や魔法で倒すと絶命した時に砕け散るんだが、そいつは血吸い茸から作った因子吸着材で刀身を覆ってあるからその因子を吸着して成長の糧にするんだ」


「ということは、この剣で魔物を倒せば勝手に吸収して成長すると?」


「ああ、魔法で倒したらダメだぞ。その赤い刀身の部分にしか吸着材は使ってないしな。色んな魔物を倒して因子をある程度蓄えると、その魔剣が成長したことを知らせてくれるはずだ」


「は、はい。自分でちゃんと報告できます!」



 魔物を倒すほど成長する剣か……。


 どれほどの剣に成長するか楽しみだな……なんとかロイドに帯剣する許可をもらわないと……。



 その後、ガウェインから出来上がった魔剣の詳細を聞き出し、ノエリアと一緒にロイドへの報告の書状を書き上げた。



 まとめると――


 ・知性を持ち人語を理解し喋る魔剣。


 ・所持者からの魔力の供給を受け、魔法を行使することができる。


 ・魔剣による魔法の詠唱は高速で、普通の魔術師よりも早い。


 ・成長の糧は魔物の核に封じられている因子。この剣で魔物切ると、それを吸着し成長する。


 ・成長すると行使できる魔法の種類が増え、威力が上がる。


 ・所持者の魔法とは別に魔法を発動させられる。



 ということをガウェインと魔剣本人から聞き出した。

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