32:メイド・イン・ガウェイン工房の魔剣爆誕


 材料集めから帰って一週間が経った。


 ガウェインからはすでに『心拍強化ハートレートエンハンスメント』、『視力強化ビジュアルエンハンスメント』、『嗅覚強化スメルエンハンスメント』、『聴覚強化ヒアリングエンハンスメント』を教えられていた。



 身体強化の魔法は自分の身体能力を魔法で向上させることができて、遠くまで見え、匂いも遠くから感じ取り、小さな音まで聞き逃さず、素早く動いて、敵を簡単に仕留めることができるようになる。


 非常に便利な魔法だ。



 だが、常用していると普段なら気にならない音が聞こえ匂いを感じ、見えなかった物まで見えてくる。


 おまけに筋力も増しているので、日常生活における力加減が非常に難しいことを体感していた。



 なので、魔法に慣れる必要はあるけど常用するのはやめておくことにした。



「ふぅ、鍛錬終わり!」


「お疲れさまでした。ガウェイン師匠の身体強化魔法にもかなり慣れたようですね」



 昼飯後の日課として、身体強化をした状態での剣の稽古を終えた俺に、近くで見学していたノエリアが綺麗な布を差し出してきた。



「ありがとう。さすがに一気に全部発動させて剣の稽古をしてると魔力は余っても、身体の方が疲れるよ。剣士としてずっと鍛錬を続けてきたから身体には多少自信があったけど。やっぱ、魔術師専門の人だとこの魔法はきついかもね」



 ノエリアから受け取った布で上半身の汗を拭っていた。



「そうみたいです。ガウェイン師匠も魔術師である前に鍛冶師ですので、身体に自信があったからこそこの身体強化魔法を編み出したのでしょうし。ただ、やはり一般的な魔術師には中々勧められない魔法だと思います。けれど、剣も使える魔術師もいますので、そういった人たちには是非とも習得してもらいたい魔法の最上位という評価を与えるべきですね」



 ずっと俺の稽古を見ていたノエリアも、ガウェインの身体強化魔法の効能を事細かに手帳に書き留めていた。



 以前、自分が習得した時、王都の魔法研究所に送ったレポートにはこの魔法の有用性が低いと書いたらしい。


 だが、俺の使っている様子を見て考えを改め、新しくレポートを書き直しているそうだ。



「魔力の消費は少ないし、この魔法を使えば剣の腕は格段に向上すると思うからね」


「はい、フリック様を見ててそう思いました」


「さて、夕食の準備でも始めるとしようか、ディモルたちも腹を空かしてるだろうし、俺も腹ペコだ」


「クェエエ!」


「そうですね。ディモルたちからの催促もありましたし、そろそろ支度を始めますか」



 昼から始めた剣の稽古だったが、すでに日が暮れ始めていた。


 日中、自由に近く空を飛び回っていたディモルたちも、近くの木に止まって羽を休め食事を心待ちにしていた。



「できたぁああああああああああああああああああっ!! できたぞっ! ついにできた!!」



 そろそろ母屋に戻ろうとしていた俺たちの耳に、作業場で叫ぶガウェインの声が聞こえてきた。


 作業場から飛び出してきたガウェインの手には、柄頭から刀身まで真っ赤なロングソードが握られていた。



「フリックっ! ついにできたぞ! お前にピッタリの剣だと思う。いやー、これは傑作だ。持ってみろ」


「は、はぁ?」



 俺はガウェインが差し出した真っ赤な剣を受け取る。



 大きさと刃の厚みからもっと重いかと思ったけど、けっこう軽い剣だな……。


 長さは腰まである……長めのロングソードか。



 握りを確認し、軽く振ってみた。



「!?」



 ロイドの剣と同じように、しなやかさと硬さが絶妙に調整され、とても扱いやすい剣であった。



 さすがガウェイン作の剣といった出来栄え……いい剣だ。



 依頼した剣の出来栄えに思わず顔が綻んだ。



「マスターに喜んで頂けて光栄。これから末永くよろしく」


「!?」



 どこからか、知らない子供の声が聞こえてきた。


 あたりを見渡すが声の主っぽい子供の姿は見えない。



「ガウェイン師匠……もしかして、その剣は……」


「♪~♪~♪~」



 ノエリアの追及の視線を受けたガウェインが視線を逸らして口笛を吹き始めた。

 

 その様子を見て、ガウェインがこの剣に何か仕込んだことがうかがい知れた。



「ガウェイン様? この剣になんか仕込みましたね?」


「♪~♪~♪~」


「ガウェイン師匠……これ以上しらばっくれてると父上に言って、魔境の森の中に工房を移しますよ」



 ノエリアの放った言葉に口笛を吹いて誤魔化していたガウェインが固まる。


 しばらくすると、スッと座り込んだかと思うと、ノエリアに向かって額を地面に擦り付けた。



「ごめんてー。ちょっとした悪戯じゃないかー。かわいい師匠の悪戯くらいで魔境の森送りとか酷くないか。お願いだからそれだけは勘弁してくれ、あそこは命がいくつあっても足りないんだぞ」


「自業自得です……と、言いたいところですが、この剣がどういった物か自白すれば情状酌量も検討いたします」



 ノエリアは平謝りのガウェインに、そうピシャリと宣告した。



「ぐぬぬっ! フリックを驚かせようと思っただけなのに……ネタバレを強要されるとは……不覚」


「言うのですか? 言わないのですか?」



 腰に手を当てたノエリアが、ガウェインに最後の通告を行っていた。


 ガクリと首を垂れたガウェインは諦めたようにふぅと息を吐いた。



「言う、言うから、魔境の森は勘弁してくれ。フリックの剣は知性を持つ魔剣だ。前から一度やってみたいなと思ってた古代遺跡にいる生体金属生物メタルスライムを刀身に使ってみたら、喋るようになった。可愛くないか? 喋る魔剣だぞ」


「知性化された剣!? ガウェイン師匠、なんという物を作ってるんですか! インテリジェンスソードの製作は王国が禁忌に指定している技術なはず」


「大丈夫だって、そいつらは知性を持ってるが持ち主に従順だ。それにそいつらは魔物が持ってる因子を吸収して成長するんだぜ。すごいだろ! 成長して喋る魔剣だ」



 喋って成長する魔剣?


 いったいどんな剣なんだろうか……。



 俺にはガウェインの言っていることがあまり理解できなかった。


「あの、この剣ってそんなにすごいんです? 剣の出来が素晴らしいのは分かるんですが……」


「ああ、そいつはすごいぞ! 剣としての性能はわたしが作ったからかなりのものだし、それに知性を持ってるからそいつ自体が魔法を覚えられるんだぜ。魔力は持ち主から吸収して使用するけどな。だが、安心してくれ魔力消費を低減する魔石もキチンとはめ込んであるから、フリックが魔法を発動する際の発動体にもなる! すごいだろ!」



 ガウェインが俺の手にしている真っ赤な剣の性能に対して熱弁をふるっていた。


 魔法の発動体ということは、この剣がノエリアの持ってる杖と同等の魔力消費の低減をさせるのは理解した。


 

 それと知性を持っているということは……さっきの子供の声はこの剣が喋ったということか。



 俺は手に握っている剣をジッと見た。



「そういうことです。マスター」


「喋った! というか、俺の心を読んだのか?」


「少しだけマスターの心の声が聞こえましたので、お答えしました」



 声に合わせて柄の中央にあしらわれた大きな紫の魔石が明滅する。



「ガウェイン様が言った、お前自身が魔法を使えるってのは本当か?」


「はい、今はまだ因子が足りず火の矢ファイアアローしか覚えてませんが……お見せしますか?」



 喋るのはなんとか受け入れたが、それともに本当にこの魔剣が魔法を自分で使えるのか気になった。



「ああ、やってくれ」


「承知しました。目標を指定してください」



 そう言われたので、剣を遠くの木に向ける。



「※■▲〇※■▲〇」



 魔石が明滅したかと思うと、聞き取れない声が流れた。


 そして、剣先から飛び出した火の矢ファイアアローが木に命中し燃やしていた。

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